Photo: Toyoko Ito, 2003©

建設当時の60年代には最先端だったヘイワードのコンクリートの建物も今では過去の遺物。長いこと「コンクリートの要塞」、「イギリスでもっとも醜悪な建物の1つ」などと新聞で呼ばれてきましたが、今回イメージアップを図り21世紀に相応しい姿となって再登場しました。

1.8ミリオン・ポンドという、デミアン・ハーストの女の子の像の売値と大して変わらない予算では全面改装とまではいかなかったものの、今回の改築により正面玄関がガラス張りになった他、ロビーが二階までの吹き抜けとなり、自然光をたっぷりと取り入れたエレガントな空間へと生まれ変わりました。改築に起用されたのは、イギリスの建築家グラハム・ハワースとガラスを使った作品で知られるアメリカの現代美術家ダン・グレアムの二人で、二階にはグレアムの設計による特殊ガラスでできたパビリオンが登場しました。さらにロビー奥にはスターバックスコーヒーもオープンし、イメージチェンジに一役貢献しています。

ミラーグラスが弧を描くパビリオンは「ウォータールー・サンセット」と呼ばれ、眺めはミレニアムブリッジを見下ろすテート・モダンには負けるものの、ヴィヴィアン・リーの映画で知られるウォータールー・ブリッジが前方に見えるというロケーション。パビリオンという言葉がもつ華やかさには若干欠けますが(想像していたより狭くて地味目です)、用途としては学習と娯楽を目的とするスペースとなっていて、ミニマルなデザイン空間で「トムとジェリー」などのアニメーションからトレイシー・エミンらアーティスト達のビデオまで見ることができます。


Photo: Tomoko Suzuki, 2003©
ダン・グレアムのパビリオン。窓からの眺めはロマンチックとは言えませんが、中に座って一休みできるのが嬉しいところ。バルコニーにも出れるようになっています。

でも、残念ながらイメージチェンジはここまで。展示室は相変わらずのコンクリートの要塞のままで、そのうえ壁は金ぴか、床には陳列ケース。さらにはベラスケス、ティティアン、ボッティチェリとナショナルギャラリー顔負けの年代物がずらりと並んでいる始末。最後の方にアニッシュ・カプーアやジュリアン・オピーなど現代作家が多少登場するものの、受ける印象はふた昔前の「美術館」そのもの。

空気が古めかしいのは、イギリス最大の美術系民間慈善団体ナショナル・アート・コレクション・ファンド(アート・ファンド)の設立100周年を記念する今回の企画展「Saved !」のためで、こちらでは4500年もの時代層に及ぶ作品が400点が紹介されています。この団体は美術品の海外流出を防ぐために1903年に美術評論家やアーティストによって創設されたもので、一般市民から募った会員費を基に美術品を購入し、それをイギリスのあちこちの美術館に寄贈するというのがその活動内容になっています。

画期的な現代美術展を開催してきたヘイワードだけに今回の企画には当惑を隠せないものの、作品が制作年代順やジャンル別ではなく購入年代順に並べられていたり、購入当時の値段が表示されていたりする点は、普通の美術館の展示とは一線を隔しユニークとさえ言えます。例えば、アート・ファンドが購入しナショナルギャラリーに寄贈したベラスケスの「Rokeby Venus」は、現在約70ミリオン・ポンドと推定されていますが、1906年の購入時にはその約22分の1にあたる45,000ポンド(現在の3,128,000ポンドに相当)で購入されています。ジョン・ラスキンが「公衆の顔めがけて絵の具の壷を投げつけたようなもの」と酷評したホイッスラーの名作「Nocturne: Blue and Gold」は、1905年にたった2000ポンド(現在の139,000ポンド)で購入。現在では何十億円もの値がつく作品が、わずか二、三千万円の価値で売買されていたとはかなり驚きです。

イギリスでは近年、政府からの援助がますます厳しくなるなか美術館での資金繰りが困難になり、国家遺産レベルの美術品が海外の美術館に流れてしまっても仕方がないような状況へと変わってきています。その代表例がこの夏テレビドキュメンタリーにまでなったテートが委託管理するジョシュア・レイノルズの「Portrait of Omai」やナショナル・ギャラリーが管理するラファエロの聖母子画「Madonna of the Pinks」の売買をめぐるケースで、幸い両ケースとも何とか資金繰りに成功し国内に留まることになったようですが、これを通じて美術館が直面している資金窮乏と、国や民間からの援助なしには名作を維持していけない現状が明らかになりました。

そんな現状のなか、創設以来50万点にも上る美術品を国外流出から「救済」してきたアート・ファンドのような民間慈善団体の役割は、近年ますます重要になっていると言っても良いでしょう。アート・ファンドの現在の会員数は約8万人ですが、理事の話しによると理念どおりの活動を維持するにはこの10倍の会員数が必要とのこと。その点を考慮すると、今回の「Saved!」はアート・ファンドが「救済」してきた美術品を紹介するだけでなく、資金面でのサポートを拡大する機会になることを狙った企画とも言えるかもしれません。改装オープンにしては地味で、コンテンポラリーという言葉もピンときませんが、 入館料なしにただで名作が見れてしまうイギリスの素晴らしい一面を支えてきた裏方の仕事が垣間見える展覧会という点ではユニークかもしれません。

取材:2003年10月


Hayward Gallery
South Bank Centre,
London SE1 8XX
020 7960 5226
www.hayward.org.uk
駅:London Bridge

展覧会: Saved!

031023 - 040118

www.artfund100.org


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