4月28日

リチャード・プリンス著作権問題でドタバタ?

 

リチャード・プリンスといえば、ジェフ・クーンズと並びウォーホルの後継者とばかりに高名なアメリカの美術家。ここロンドンでも去年、サーペンタイン・ギャラリーで盛大な個展が開かれたばかりだが、そんな大御所が著作権侵害で訴えられるという不名誉なトラブルに直面している。渦中にあるプリンスと彼の画廊ガゴージアンの弁護士の言い分をまとめた記事がThe Art Newspaperに掲載されているので、まずそれを読んでいただきたい。

………

この訴えの対象となっているのが、プリンスがガゴージアン・ニューヨーク店で昨年11月に発表した「Canal Zone」という22点からなるコラージュ形式の絵画シリーズ。これらの絵画に、フランスの写真家パトリック・キャリオウ(Patrick Cariou)の写真集「Yes Rasta」(2000、Rizzoli)からの作品30点が無断で使用されていたようで、シリーズ全点の廃棄処分などを求める要求が写真家側から出ている。

プリンスと言えば、自作に既存のイメージを引用し、それにアレンジを加える「アプロプリエーション」の帝王。世に出回っている小説のカバーや広告などを再撮影したりスキャンしてプリントし、その上にペイントやコラージュを施してポルノ的アングルを加えたものが彼の十八番になっている。こういう作風のせいか80年代にも似たような問題が起きており、その際にはオリジナル写真の著作者であるギャリー・グロスのみならず、その写真の被写体であった女優ブルック・シールズの母親からも裁判で訴えられている。

今回のドタバタで興味深いのが、The Art Newspaperに掲載されているガゴージアンの弁護士とプリンスの言い分。弁護士の方は、創作活動における著作権物の限られた範囲での複製は合法である、プリンスの活動は純粋なる創作活動であって商業的搾取を目的とするものではないとプリンスの行為を全面的に擁護。一方、プリンスの方は、キャリオウの写真をオリジナリティに欠けると非難した上で、自分の作品に使ったからといって彼の写真の価値に害はない、むしろ市場価値は上がるはずだといったことを発言している。

だが、プリンスのこの作品は、一点150万ドルから300万ドルの間で売られており、売上げは画廊と作家の間で折半という業界内の暗黙のルールを考えれば、かなりの金額が作家の手元に入っていることになる。この立派な経済活動を前に、美術界のビジネスサイドにたつ画廊の弁護士が、プリンスの活動を創作活動だけで片付けてしまうのは、常識的に考えてどこかがおかしいように感じる。同じく、プリンスのコメントもみごとに論点がずれていて、その芸術的価値が高かろうが低かろうが、著作権で守られている以上、勝手にコピーをしてはいけないという基本がまったく無視されている。

この記事を読んで感じたのが、美術業界の常識が一般のそれから如何にかけ離れているかということと、美術では定番になっているこの「アプロプリエーション」という行為が、いかに著作権法のグレーゾーンにあるかということ。少し前までテート・モダンで展示されていたドミニク・ゴンザレス・フェレステルの『TH.2058』をはじめ、引用はレディメードと並び現代アートでは定番中の定番になっているが、著作権物の使用という観点から考えると、無許可で使用した場合、もちろんその使い方にもよるが、香港あたりで出回っているルイ・ヴィトンの偽バッグや映画のDVD海賊版とかなりの近似値にあるように思われる。

これまでは創作の名において大目にみられてきたが、アートがここまでビジネス化すると、著作権問題にナーバスになる作家(使われる側)が増えても当然だろう。でもその反面、引用が許されないとなると表現の自由に歯止めがかかる。今回のプリンスをめぐる裁判にはなんだかとても興味深いものを感じる。(トコ)

The Art Newspaperの記事
Gagosianのサイト
Patric Cariouのサイト

余談・・・今日は横浜の青空を見ながらの書き込み。気分爽快と言いたいところですが、つきさっき知り合いから『SEVEN SEAS』が休刊になったと聞き大ショック…(今まで知らなかったこともダブルショック)。ここ数ヶ月内に書いた雑誌のうち二冊が休刊になってしまうとは、不況の波を肌で感じています(涙)。


 

4月24日

ゴームリーの「第四の台座」、参加者募集開始!

 

ロンドンアートこの夏一番のハイライト。7月6日からトラファルガー広場で始まるアントニー・ゴームリーの展示「One and Other」の一般参加者募集がイベントの公式サイトで始まった。

マーク・クインの巨大妊婦像など数々の話題作を送り出してきたこのイベントは、「第四の台座」と呼ばれるこの広場にある空の台座を使った国民的人気イベント。

 
Antony Gormley
One and Other
コンペに出されたゴームリーの第四の台座プロジェクト作品案。

本来ならば国王や名将の彫像が置かれるはずの台座を、現代アートのショーケースに使おうという画期的な企画。毎回、作家数名によるコンペが開かれ、勝ち抜いた一名の作品が一定の期間展示される。

屋外という場所柄か、これまでの定番は雨に濡れても鳩にフンを落とされても大丈夫な彫刻や立体だったが、今回のゴームリーの作品は、彫刻を据える代わりに一般の人に立ってもらおうという一風変わったもの。

ひとり当たりの持ち時間は1時間。その間、歌おうが踊ろうが寝ようが何をしても自由。 この1時間スロットの「パフォーマンス」が、100日間、24時間ぶっ続けで決行され、合計で2400名が台座に登場することになる。

残念ながら、応募できるのは英国在住者のみに限られているが、全国津々浦々デモクラティックな姿勢で、人口比例主義を導入しているところが面白い。ウェールズは67名、スコットランドは207名、イングランド南東は333名…と、各地域の人口に比例して当選者の枠が設けられている。選考はコンピュータによってランダムに行なわれる。

英国在住の方、アートになる心境を味わえるまたとない機会。ぜひトライしてみては? 応募はこちらから。(トコ)

 

上)Thomas Schutte
Model for a Hotel, 2007

下)Marc Quinn
Alison Lapper Pregnant, 2005
Trafalgar Square
Photo: Toyoko Ito

余談・・・今日は一年振りに横浜の空を眺めながら書きました。同じ曇り空でも、こっちはミルキーホワイトで、あっちはねずみ色だなどと、くだらぬ分析をしながら。至福のひと時です(笑)。

 

4月4日

ホワイトチャペル明日オープン!

 明日5日から一般公開されるホワイトチャペルの新ギャラリーに一足先にお邪魔してきました。

隣の図書館だった建物を併合して広さ8割増しになった館内は、中をがっぽり改築したというよりは、建物間の壁を一部取りはらって行き来できるようにした控えめなコスメアップだったが、展示室の数が増えた分、作品数も増えて充実。4つの展覧会が同時開催されている。

 
Artwork by Isa Genzken at Whitechapel

そのメインが、ドイツの作家イザ・ゲンツケンの回顧展。80年代から現在までの主だった作品を一階と二階の昔からある展示室を使って一挙に公開中。一昨年のヴェネツイア・ビエンナーレのドイツ館で見せていたマネキン系の作品も一部公開されている。

一方、少し前まで図書館の閲覧室だった一階の新しい展示室では、去年のターナー賞にノミネートされたゴシュカ・マッキューガの個展を開催中。ピカソ《ゲルニカ》のタペストリーをNYの国連安全保障理事会会議場から取寄せて、それに更なる政治的側面を持たせた興味深い展示になっている。

 
Artwork by Goshka Macuga at Whitechapel


また、二階に新たに加わった旧図書館側の展示室では、美術家のマイケル・クレイグ・マーティン選出によるアーツ・カウンシルのコレクション展と、戦前に活躍した地元の作家グループ、ホワイトチャペル・ボーイズの作品展を開催。

さらに、これら4本の他にも、リアム・ギリックがデザインを担当した映写室ではウルスラ・メイヤーの映像を上映。通路や会場脇の小さな空き部屋では、ユルゲン・テラーアンドリュー・グラッシーの写真、オリヴァー・ペイン&ニック・レルフの映像なども公開している。

ホワイトチャペルといえば1901年開館のロンドンでももっとも由緒ある公営ギャラリーのひとつ。その間、長いこと英国と海外の芸術をつなぐ窓口の役割を果たし、ピカソポロックロスコフリーダ・カーロもみなここから英国に入り、国民の知るところとなった。また、スペイン内戦終結年の1939年に《ゲルニカ》(絵の方)を公開し、同作を展示した英国で唯一のギャラリーにもなっている。

そんな立派な美術館の再出発にアートの宝箱みたいなオープニング展はぴったりだが、今回一番のスターといえば、亡霊という形で参加している巨匠のピカソであろう。タペストリーではあるが、あの「反戦のシンボル」のパワーに勝るものはない。しかも、G20金融サミットへの抗議デモで街が荒れるなかの到着とは皮肉というか面白いタイミングだ。 詳しくはこちらで。(トコ)

 

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