2月17日

イーストエンド徘徊

 
 

ホックストン周辺のギャラリーを2ヶ月ぶりに回りました。雨のせいか、冬のせいか、不況のせいか、久々のホックストン界隈はなんだか暗め。ギャラリーの顔ぶれも少し変っていました。

WHITE CUBE, HOXTON SQ.
まずはホックストン・スクウェアのホワイトキューブから。下の階では、テキサス出身カリフォルニア在住のロッソン・クロウ(Rosson Crow)の絵画を、上の階ではロシア出身ベルリン在住のアンドレアス・ゴールダー(Andreas Golder)の絵画と立体を展示中。ホワイト・キューブにしては珍しく、前者は82年生まれ、後者は79年生まれと両名とも若手。ここ数年の英国の若手の傾向とは一線を画した、グロテスクな具象表現が意外で興味深い。

 
Exhibition view
White Cube Hoxton Sq
Foreground:
Memorial to the Last Guest, 2008

前者のクロウは、パーティー会場と覚しき室内に、皮を剥がされた豚や虎などを吊るしたバイオレントな具象絵画7点を発表。絵の中のパーティー会場は、人っ子ひとりなし。祭りの後というか、人が好き勝手に暴れまくって、ずらかった後の混沌ぶりと虚無感が画面に滲み出ている。《New York Stock Exchange After Bond Rally, 1919》(債権者集会の後のニューヨーク証券取引所, 1919)といった作品タイトルから、絵が示す時代は遥か昔であるようだが、そのしらけたムードが、ここ最近の不況、特にアートバブルが弾けたあとのアート業界を仄めかしているように見えなくもなく、なんだか意味深。同じく、後者のゴールダーの骸骨や化け物をモチーフにした作品も、お先真っ暗というムードでいっぱいだが、こちらはSF映画のキャラクターのパロディのように見えなくもなく、もう少し軽いノリで鑑賞ができる。それにしても、作品の血生臭さが少し前のチャップマン兄弟やデミアン・ハーストの作品のようで、何だか昔懐かしいものを感じる。2月21日まで。

■ YVON LAMBERT
LONDON, HOXTON SQ.
ホッククストン・スクウェア二軒目は、去年10月にロンドン店をオープンしたパリの老舗画廊、イヴォン・ランベールのスペースにお邪魔。尿を浴びせたキリスト像の写真《Piss Christ》(小便キリスト)など、穏やかじゃない作品で80年代から話題を撒いてきたアメリカ人作家アンドレス・セラーノ(Andres Serrano)の個展を開催中。

 
Exhibition view
Yvon Lambert London
Andres Serrano
Shit, 2008

一階と二階の全スペースを使った展示は、先の《Piss…》をはじめ、90年代の《Objects of Desire》(欲望のオブジェ)シリーズや《A History of Sex》(セックスの歴史)シリーズが並び、ミニ回顧展のような豪華な展示。そして、そのハイライトをつとめているのが、去年秋に同画廊のNY店で発表された、動物や人間の排泄物をクローズアップで撮った新作シリーズ《Shit》(くそ)。まるで瑞々しい草花や果実を撮るように、ディテールをくっきりと押さえ、何倍にも拡大された写真は、見た瞬間に目を背けたくなるほど生々しい。オープニングの晩、これを肴に一杯やったのかと思うと吐き気がもよおしてくるが、こういう題材もここまでプロに徹して撮られると、ある意味で感動する。バブルの時はダイヤモンドやゴールド、弾けた後はクソ。現代美術は時代の鏡と言われるが、これもそのひとつなのか。2000部限定の写真集がなかなか好評のようだ(私も買ってしまいました)。3月28日まで。

■ IBID, HOXTON SQ.
同じくホックストン・スクウェアに去年10月に登場したアイビッド・プロジェクツの臨時展示場を訪れたが、この日は残念ながら休廊。1月から3月までは予約者のみの受付となっていて、春にまた企画展を行なうようだ。

■ STORE, HOXTON ST.
次はホックストン・ストリートのストアに向かったが、なんとギャラリーがなくなっていた……。画廊のウェブサイトによると今年3月に別の場所に移転オープンするとのこと。実は1ヶ月ほど前に、ここのディレクターの一人がウェストエンドの某大手画廊のディレクターに就任した記事を読んだのだが、これで何となく納得。ホックストンのスペースでの最後の展示者となったライアン・ガンダーも離れてしまったようで少し残念だが、今後もぜひ頑張ってほしい。詳しくはこちらで。

■ PEER, HOXTON ST.
同じくホックストン・ストリートのピアの前を通るが、残念ながらここもお休み。一瞬、ここもなくなったのかと思ったが、団体のウェブサイトによるとアーツ・カウンシルからの助成が無事に下りて、2010年夏までの財源が確保できたとのこと。ひと安心。

LIMONCELLO, HOXTON ST.
ジョセフィン・フリン(Josephine Flynn)の映像インスタレーションを見る。床に置かれた5、6台のテレビモニターに映像と覚しきものが写っていたが、意味がよくわからなかったので説明は割愛。2月14日で展示終了。

■ FLOWERS EAST, KINGSLAND RD.
カナダの写真家、エドワード・バーティンスキー(Edward Burtynsky)の個展を開催中のフラワーズ・イーストを訪問。中国の三峡ダムを撮った写真シリーズなど、産業によって姿を変えていく自然をテーマに撮っているバーティンスキーの新作《Australian Minescape》を発表していた。ヘリコプターから撮った雄大な風景写真は、オーストラリア北西部にあるマウント・ホエールバック鉄鉱山やピルバラ地域の岩塩坑など、オープンピット型の鉱山を撮影したもの。ヘリの振動が問題で、いつも愛用している4X5のフィールドカメラを断念し、手持ち撮影が可能なハッセルブラッドにジャイロスコープ搭載のデジタルバックをつけて撮影したそうだが、それでもできた写真のデジタル粒子が気に入らず、空の部分だけ別にフィルムで撮影をしなおし、それらをポストプロダクションで合成するという凝ったプロセスを経ている。こうしてつくられた写真は、表面がまったりとしていて、抽象的な構図が相乗効果となってまるで絵画のよう。展示は2月7日で終了。
バーティンスキーのサイトでも画像が見れます。


■ HOST GALLERY, HONDURAS ST.
オールド・ストリートにある写真専門のギャラリー、ホストのオープニングに写真家の関根綾さんと一緒にお邪魔。展示中の作家は、ロンドンとイスタンブールに在住のヴァネッサ・ウィンシップ(Vanessa Winship)で、トルコの東アナトリア地方の小学校で撮影した少女たちのモノクロ写真を発表していた。ダイアン・アーバスを髣髴とさせる構図と、棒立ちでカメラの前に構える少女たちの緊張した表情が印象的。また、彼女たちがみな同じような制服を着用していて、唯一違うのがレース編みでできた襟元だけという点も興味深い。300部限定の写真集も同時発売。この本のつくりがなかなかきれいでいい。ここのギャラリーには今回初めてお邪魔したが、ドキュメンタリー写真系の雑誌「8 Magazine」の関係者が運営しているそうで、会場で話したある男性いわく、オープニングに来ていた人たちの9割がたが写真家だとか。3月5日まで。

■ I-MYU PROJECTS,
CHARLOTTE RD.

こちらは今月12日から始まったグループ展「Barock Plastic」の会場。この展覧会のキュレーションを担当している美術家の川上幸之助さんと、「フォトグラフィカ」の取材で写真を撮ってもらっている瀧澤明子さんに招待を受けてオープニングにお邪魔。会場に着いてみると、二人の他にも古武家賢太郎さん、鬼頭健吾さんなど日本の作家が10人中6人も占めていてびっくり。

 
「Barock Plastic」展の招待状。

来場客で会場がごった返していたうえに、知り合いに会ってばかりであまりよく見れなかったが(ごめんなさい)、ここに集められた作家はいずれもハイパーリアルな空想世界での「冒険」を得意とする作家らしく、会場の天井にぽこぽこと浮かんでいた鬼頭さんの金ピカのヘリウム風船をはじめ(ウォーホルを思い出した)、イマジネーションをかきたてる夢想的な作品が目立っていた。ちなみにタイトルの「Barock」は、派手とか飾りがゴテゴテとしているといった意味合いを持つバロック様式の「Baroque」にかけているようだが、この言葉は最近、バラク・オバマの名前とロックをかけて音楽業界でよく見かける単語でもある(The Barock Obamaなんてバンドがあったりする)。この展示の会場となっているI-MYU PROJECTS(アイ-ミュと読むようだ)は、ゴールドスミス・カレッジを卒業した韓国人女性二人が2006年にオープンした画廊で、アジアの若手を意欲的に紹介しているロンドンでは珍しいギャラリーのひとつになる。いまPippy Holdsworthで展示中の近藤正勝さんも前回ここのグループ展に参加していた。3月28日まで

 

2月9日

中東とインドに押され気味の2月のロンドン

 
 

久々の書き込みです。お正月も遥か彼方、節分も終わり、ロンドン18年振りの大雪もひと段落。その間、「Seven Seas」次号のロンドン・アート特集に追われていましたが、ひと段落したので日誌をまた再開します。まずは、美術館のハイライトから。今月は中東とインドのアートが際立っています。

■ Unveiled @ Saatchi
Gallery

サーチ・ギャラリーのカムバック第二弾は、中東に焦点をおいた「Unveilded: New Art From the Middle East」。中東と言えば、砲撃や自爆テロといった紛争でおなじみの地域だが、ここ数年、デュバイを筆頭に、カイロ、テヘラン、ベイルート、アブダビなど様々な都市で現代美術が急成長するという変化が起きている。

展示作家17名は、レバノン、イラク、イラン在住者から米国に亡命した者までみなみごとに中東出身。英国での展示は今回が初めてという作家がほとんどだが、サーチがイスラムに鞍替えするのがわかるくらい表現が豊か。また、社会的出来事へのアンテナの感度がよく、湾岸戦争やイラク戦争に触れた作品はもちろん、女性のヴェール着用や性の問題まで、イスラム社会を様々なアングルからとらえた作品が目立つ。祈祷する女性の群をアルミフォイルで作ったカデル・アティア(Kader Attia) の《Ghost》、サラ・ルーカス的な下世話な美意識で娼婦を表したシリン・ファキム(Shirin Fakhim)の《Tehran Prostitute》、ウェストバンクをジオラマ化したようなWafa Hourani(ワファ・ホーラーニー)の作品《Galandia》などが見どころ。

 


サーチ・ギャラリーの展示風景
上)Kader Atiia, Ghost 2007
中)Shirin Fakhim, Tehran Prostitute 2008
下)Marwan Rechmaoui, Beirut Caoutchouc 2004-2008


■ Indian Highway @ サーペンタイン・ギャラリー
サーチが中東ならば、こちらはインド。それも人口11億人の喧騒を真空パックで届けたようなハイテクジャンジャカ系が作品が中心だ。大小様々なモニタ、ケーブル、ドラム缶シート、カレー用の弁当箱、埃をかぶった役所の帳簿……などが会場に所狭しと並び、新旧が共存するインドの混沌ぶりがたっぷりと味わえる。

参加作家は、インドのデミアン・ハーストことスボード・グプタ(Subodh Gupta)や、ムンバイやサンフランシスコの国際映画祭での受賞歴をもつアマル・カンワル(Amar Kanwar)など、国際アートシーンですでに有名になった実力派が中心。特に印象に残ったのが、ドクメンタ12でも発表されたカンワルのマルチスクリーン映像「The Lightning Testimonies」と、ボース・クリシュナマチャリ(Bose Krishnamachari)の大量のスチール製弁当箱に小型モニター108個を搭載した屋台風インスタレーション「Ghost / Transmemoir」。前者では性の被害者としての女性の歴史がドキュメンタリー性と抒情性を融合した美しい映像を通して展開、後者ではインド版秋葉原のような街を背景に人が喋りまくるインタビュー映像が流れていて、インドの喧騒ぶりがよく伝わってくる。
 
サーペンタイン・ギャラリーの展示風景より
Sleepwalkers' Caravan (Prologue) 2008
© 2008 Courtesy the artist
Photo: Sylvain Deleu

会場のなかに儲けられた、デリ在住の美術家グループRaqs Media Collectiveキュレーションによるミニ展覧会会場。7人(組)のドキュメンタリー映像作家による作品を見せている。


■ Altermodern (Tate
Triennial) @ Tate Britain

先週から始まったこちらは、テート・ブリテン恒例のトリエンナーレ。毎回、その時々の英国の現代アートの傾向にメスを入れようという試みの企画で、その性質上、担当キュレーターの見解の発表の場という印象がかなり強い。

国内外の作家28名が参加している今回は、リスボンのカルースト・グルベンキアン財団のニコラ・ブリオー(Nicolas Bourriaud)がキュレーションを担当。「Altermodern」という耳慣れない造語を引っさげて、ポストモダンの時代は終わったと宣言。現代美術の新たな方向性を示唆する意欲的な展示となっている。

英語の「other」にあたる「alter」と「modern」を組み合わせたこの造語。人々が世界を動き回るグローバリゼーションの時代に特有のモダン性を示す言葉らしいが、それだけで一冊本を書けそうな小難しい概念を展覧会のタイトルにされても、その意味がいまいちピンとこなく、展示をただひたすら難しくしているように感じられなくもなかったが、作品自体は想像力豊かでダイナミックなものが多く、例年に比べて見ごたえがある。 空想の島づくりプロジェクトの一環として、象の化石のような不思議な彫刻を発表しているチャールズ・エイヴェリー(Charles Avery)や、自分の脳波のリズムをサウンドと光に置き換えたインスタレーションを発表しているロリス・グレオー(Loris Greaud)などがその好例。また、サーペンタインでも展示中のスボード・グプタ(Subodh Gupta)の大量の鍋釜でつくった「巨大きのこ雲」や、毎日2時にパフォーマーによって自作の政治ソングが演奏されるルース・ユアン(Ruth Ewan)の「巨大アコーディオン」も、そのスケールが飛びぬけていて圧倒される。 (以上、トコ)

 


テート・ブリテンでの展示風景
上)Installation view, Matthew Darbyshire, PALAC, 2009
中)Ruth Ewan, Squeezebox Jukebox" 2009
下)Nathaniel Mellors, Video installation with animatronic sculpture

上)マシュー・ダービーシャーの
「PALAC」と表示されたネオンとモダンな家具が、ホテルや劇場のフロントを彷彿とさせるトリエンナーレの会場入り口。この奥に今回のグプタの鍋釜でできた「きのこ雲」が展示されている。これは必見。

中)ルース・ユアンの巨大アコーデオンを演奏するパフォーマー。

下)ナサニエル・メラーズの機械でコントロールされた超リアルなマスク。目玉や口を動かしながら、A, B, Cと声を出すところが異様。ちなみにこれは隣で展示されていた映像の付属品。怪物に呑まれてしまい、胃袋から脱出しようともがいているうちに頭がおかしくなり、汚物にとりつかれてしまう男の悪臭漂うストーリー。意図的なのか展示室も臭かった。


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このページの掲載内容

イーストエンド
徘徊
*ロッソン・クロウ
*アンドレアス・ゴールダー
*エドワード・バーティンスキー

*ヴァネッサ・ウィンシップ
*Barock Plastic 他
(2.17)

中東とインドに押され気味の2月のロンドン
*Unveiled:Saatchi
Gallery
*Indian Highway: Sepentine Gallery
Gallery
*Altermodern: Tate Britain
(2.9)