1月31日

ギャラリー散策:ウェストエンド

 
 

■ Marc Quinn@White Cube
Mason's Yard

トラファルガー広場の「腕のない妊婦像」で一躍国民的ヒーローになったマーク・クインの個展がスタート。胎児成長のプロセスを9段階に分けて彫刻に表した新作「Evolution」などを発表(地下)。この作品では、タツノオトシゴみたいに背を丸めた胎児が、今この瞬間、ここで誕生する、といわんばかりに、大理石の塊から浮かび上がる形で彫られている。肥大化した胎児はシュールでどこか滑稽でさえあるが、いまどき珍しいまでの正統派な彫刻に、「像を閉じ込めている大理石の中から、その像を解放するために彫り起こす」と言ったといわれるミケランジェロの言葉を思い出す。2月23日まで。

 
Marc Quinn
Evolution (detail), 2008
White Cube
Mason's Yard
9点で構成された彫刻のなかの一点。胎児上部のクローズアップ。


■ Roman Signer @ Hauser & Wirth
飲んで、しゃべって、あやうく作品を見逃すところだったローマン・シグナーの個展。オープニング会場はいつもどおり人でごった返していたのだが、作品らしきものが見当たらない。「まさか、作品が間に合わなかったの〜?」などと思いながら足元をみると、"ラジコンカー"が私のつま先をつんつんしている。何だかわからないが、どいても人懐こい犬のように寄ってくる。隣にいたスーツを着た"飼い主"に聞いてみると、車体に音探知センサが入っていて、音のするほうに動くのだという。

 
Roman Signer
Stuhle (Chair), 2007
Hauser & Wirth
今回のローマン・シグナー展の主役はこの可愛い「芝刈り機」くん。

今回のハウザー&ワースの展示は、芝刈り機を改造したこの小さな車が主役で、他にあるのは障害物として置かれた椅子のみ(オープニングの晩は人が多くてそんなにあったとは気がつかなかったが、全部で15脚もあるらしい)。こんな高級ギャラリーの個展会場で、絵を飾ることも、巨大スクリーンを置くこともなく、ラジコンカーのような車を一台走らせるだけとはなんとも粋なことだが、これを還元主義的な美学とみるか、ウィットに飛んだユーモアとみるか、単にアホな行為とみるかは人による。ちなみにここは「電気が点いたり消えたりする部屋」で有名なマーティン・クリードのギャラリーでもある。なんとなく接点が見えるような。地下と二階にも別作品が展示されている。3月15日まで。


■ Rachel Howard @ Haunch of Venison
日常の不幸の中から生まれる美の概念を探究するレイチェル・ホワードの絵画展。デミアン・ハーストのアシスタントとしてスタートを切ったホワードの作品といえば、家庭用グロスペイントを使って描いた、絵の具がキャンバスを流れるような抽象画。今回も最上階のメイン展示室にはその手の作品が並ぶが、新しい展開として、死、自殺をテーマとした具象画が加わった。黒で亡霊のように描かれた人間は新聞やインターネット上で見つけたイメージが基になっているという。表面は相変わらずてかてかだが、配色とモチーフがどことなくマルレーネ・デュマス風。2月23日まで。


■ Pavel Buchler @ Max
Wigram

チェコ生まれ英国在住の作家、ダグラス・ゴードンをはじめ今活躍する多くの作家に影響を与えた教師としても知られるパヴェル・ビュッヒラーの展示。

70年代のミニマリズム、コンセプチュアルアートの洗礼を受け、「making nothing happen(何も起こさないこと)」をモットーに活動してきた作家らしく、 「SOLD OUT」と題された今回の展示は、休業中の商店のように静か。古ぼけたテープレコーダーの上に飲みかけのジャック・ダニエルスのボトル、寂しげにおかれたマイクスタンド、フレームされただけの白い紙と、どれもこれも無味乾燥で今にも消え入りそうな感じ。

だが聞くところによると、白い紙の裏にはヨゼフ・ボイスのオリジナルワークが隠されていて、マイクからはルー・リードの「Hello」というかすかな声が聞こえる仕組みになっているそうで、そんなことを聞くと一瞬心が弾まなくもないが、その後で「で?」と聞き返したくなってしまう。2月23日まで。

 
Pavel Buchler
SOLD OUT展から,
You Don't Love Me
Max Wigram Gallery


■ Marco Bohr @ Mummery + Schnelle

ロンドンにしては珍しく清々しい写真だと思えば日本を撮ったもの。それも昔日本にいた頃、何度も通った多摩川べり。そんな個人的な思い出もあって、マメリー+シュネールで展示中のマーコ・ボーアの写真は、ただぼーっと見ているだけで癒されてしまうのだが、見ているうちになんとなく不思議な気持ちになってくる。人がみなトランペットやらサックスやら楽器を演奏していて、それはそれでごく自然な感じなのだが、でも多摩川ってこんなにミュージシャンに人気だったっけ?と疑問がちらりと浮かんでくる。どこまでが現実でどこからが作り物なのか、なかなか見分けのつかないところが面白い。それと日本の空気をよくつかんでいるところも魅力的。作品はこちらで。2月23日まで。



■ Andrey Bartenev @ Riflemaker
ギャラリーの19世紀のショップフロントがディスコ会場へと変貌?去年のヴェネツイア・ビエンナーレ、ロシア館で見せた作品の姉妹品、Disconnectionをもじって《Disco-Nexion》と書かれたカラフルなネオンが、たくさんのハートマークと一緒にミラーボールのように回転。

 
Andrey Bartenev
Connection Lost, 2007
去年のヴェネツイア・ビエンナーレで展示されたオップな作品

平均気温マイナス10度のシベリア生まれというこちらの作家アンドレイ・バーテネヴは、テリー・リチャードソンばりの灰汁の強い作家なようで、地下の展示室にはゲイ・ソフトポルノ系ハプニングと見間違ごうばかりの自らのパフォーマンスショットをたくさん公開。残念ながら見逃してしまったが、オープニングの晩にはピンクやゴールドのキャットスーツを着たサイバー風のモデルがうろうろする中、バーテネヴが口をシリコンでふさいだ不気味な姿で登場し、聾唖者のコミュニケーションを真似たような一風変わったパフォーマンスを行った模様。ナタリア・ボディアノヴァとかロシアのスーパーモデルも来たという噂。ライフルメーカーはやっぱりやることが派手だなあ…。3月11日まで。


■ Craigie Horsfield @ Frith Street
写真を中心に活動をするイギリスのベテラン作家、クレイギー・ホースフィールドの写真展。会場にはモノクロとカラーを取り混ぜて、縦横5メートル級の大作が並ぶが、ユニークなのはそれらがみな「タペストリー」であること。つまり、撮った写真を紙に焼くのではなく、カーペットに織り込んでいる。実際の制作はベルギーの織物職人が行ったというが、聞くところによると、その作業も今ではかなり電脳化されているようで、コンピューターでデータをフィードし、実際の作業は機械のなせる業。その写実性もさることながら、どっしりとした存在感とディテールの細かさとの対比が見事。何十分も見入ってしまいました。2月29日まで。
(以上、トコ)

 
Cragie Horsfield
Calle, Preciados, Madrid, January 2007
Frith Street Gallery

 

 

1月16日

London Art Fair 2008

 
 

今年で20周年を迎えるロンドンで最も古いアートフェアのひとつ、ロンドン・アートフェア(London Art Fair)がイズリントンのビジネス・デザイン・センター(Business Design Centre)で始まった。

 

ここ数年フリーズやズーなどの新しい国際アートフェアが目立つなか、古株であるこのロンドン・アートフェアの特徴は、国内のギャラリーに焦点を置いたローカルな画廊群と、モダン/コンテンポラリーをあわせた広範囲な時代区分、そして比較的に手の届きやすい値段。ピカソからバンクシーまでが、「メイン会場」「アート・プロジェクツ」「フォト50」の三部構成をとる会場に並ぶ。

出展ギャラリーの大部分が一階、メザニン、二階の「メイン会場」に集中。彼らの得意どころは、コンセプチュアルアートやYBAが出てくる前のモダンブリティッシュ・アート。ブリジッド・ライリーデイヴィッド・ホックニーベン・ニコルソンパトリック・ヘロンなどの大御所から無名の作家まで、具象、抽象を問わず絵画の存在が目立つ。

一方、これと対比をなすのが4年前からスタートしたコンテンポラリー・アートに焦点を置いた二階奥の「アート・プロジェクツ」のコーナー。ここにはオランダやフランスなど海外の画廊が多数参加しているほか、作家一人あるいは少人数に絞った企画展展示形式がとられており、インスタレーションなどの大型の作品も多く、「メイン会場」とは一味違う展示を楽しめる。

 
Tony Heywood
My Family as Amoeba, 2007
The Fine Art Society, London, Stand 12

また、今年見逃せないのが、同じく二階奥の「フォト50」のコーナーで、写真のもつ物語性に焦点をおき、ニック・ワップリントン(Nick Waplington)やコリン・デイ(Corin Day)などコンテンポラリー・フォトグラファー10名を集めた企画展示が催されている。このアートフェアが写真にフォーカスを置くのは20年の歴史で今回が初めてのこと。

それにあやかってのことか、今年は例年に比べ写真の存在も目立つ。「Art Projects」ではパリのGalerie Oliver Waltman、ロンドンのThe Fine Art Society、アムステルダムのWitzenhausen Galleryなどがそれぞれ写真を展示。また、「メイン会場」では、キャリア50年の写真家ジョン・ヘッジコー(John Hedgeco)の特別展示を行っているRobert Sandelson Galleryをはじめ、Ben Brown Fine ArtsPurdy Hicks GalleryMichael Hoppen Galleryなどが写真に力をいれている。

 
Hendrik Kerstens
Paula,
Witzenhausen Gallery


しかし今回のハイライトと言えば、いつ弾けてもおかしくないと囁かれるアート・バブルに押されたオークション。ブルームズベリー・オークションギルバート&ジョージ(Gilbert & George)の70年代の絵葉書を使った作品14点を、AIDS基金のテレンス・ヒギンズ・トラストヴォルフガング・ティルマンス(Wolfgang Tillmans)、トレイシー・エミン(Tracey Emin)、ジュリアン・オピー(Julian Opie)など作家23名の作品をオークションに掛けるイベントが期間中に催される。1月20日まで。詳しくはLondon Art Fair 2008のサイトで。

London Art Fairに関する過去記事
2002年のレポート

 

1月15日

2008年のご挨拶

 
 

明けましておめでとうございます。 新年のご挨拶が大幅に遅れましたが、みなさま、今年もどうぞよろしくお願いします。

 

1月15日

バンクシー ネットオークションで4千4百万円!

 
 

塀に描いたバンクシー(Banksy)のグラフィティに 4千4百万円(£208,100)の値がつくという異例な事態が発生!

競売にかけられた「絵画」は、骨董品市で有名なポートベロー・ロードにある某メディア制作会社の壁に描かれたもので、経営者のLuti Fagbenle氏によってネットオークションのeBayにて売却。

壁という特異な「メディア」に描かれた「絵画」ゆえに、落札者は壁ともども作品を手に入れるというユニークな形をとる。しかも、壁の取り外しと修復にかかる工事費(約100万円程度)は上の落札金額には含まれず、その費用は別持ちになるとか。

英国では「ゲリラ・アーティスト」という異名で親しまれているバンクシー。地元ブリストルで80年代後半からストリート・アーティストとして活動し、2000年頃からロンドン市内方々の壁にステンシルを使ったグラフィティを描きはじめ、反骨精神をユーモアで包んだ痛快な作風が若者の間で圧倒的な人気に。

数年前からこれらグラフィティに加え、ニューヨークのMoMAや大英博物館などの世界の有名美術館に失業者風の格好をして忍び込み、無断で自作を壁に飾るというゲリラ展示戦法を展開。その大胆な発想とあっぱれな行動力に、姿を明かさないという神秘な一面が加わり、現代のアルセーヌ・ルパンのごとく一躍メディアの寵児に。

しかし、反体制のシンボルだったのがここ1年で突然、オークションハウスとハリウッドのお気に入りに格上げ。スプレーペイント画など11点が競売にかけられた去年秋のボンナムスのオークションでは、予想金額を二倍近くも上回る総額一億円以上(£546,000)の売り上げを達成。また、同時期にロンドンのLazarides Galleryによって開かれたオークション「The Shadow Lounge」では、ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーのカップルが2億1千万円(£1,000,000)でバンクシー作を競り落としたとも報道されている。(トコ)

詳しくはBBCのサイト

foglessのバンクシーに関する過去記事(すべて日誌)
2006年5月16日:メイドっ娘、チョーク・ファームに出現!
2005年10月27日:100 Westbourne Grove(ねずみ)
2005年5月27日:大英博物館からお墨付き?
2005年3月26日:マンハッタン上陸作戦
2003年11月5日:バンクシー四時間の快挙
2003年9月26日:人気急上昇の牛に羊

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2008年のご挨拶
(1.15)

バンクシー ネットオークションで4千4百万円!
(1.15)