6月24日

アート・バーゼルetc
 
 

アート・バーゼルはやっぱりスゴイ!一体どこの世界に、期間中到着したプライベートジェットが200台以上、VIP送迎用にロールスロイスBMWが常時20台近く待機、なんてフェアがあるだろうか。業界紙がドイツ語と英語で連日号外を発行し、ピカソが10ミリオンドルで売れたとか、ムラカミが自己最高額で売れたとか、サーチを破ってコーエンが24金の"糞"をゲットしたとか、ほぼリアルタイムでニュースが伝播。たった4、5日のイベントのために、一点何千万円もするマンモス級の作品がズラリと並ぶ展示も驚異的だが、美術品コレクターといわれる珍種を物色できるのも、またその醍醐味のひとつ。

細かいことはまた後ほどとして、まずは展示のハイライトを少しばかり。アート・バーゼルの展示の部であるアート・アンリミテッドは、基本的に、今年もやや高尚な遊園地といった感じ。カールステン・フラーの回転ブランコ、イリヤ・カバコフの実物大テニスコート、ヨーン・ボックマーティン・カーセルズの360度回る部屋を中心に、カンダー・アティアのミラールーム、ジュリアス・ポップの巨大な水噴射型ビルボードなど、動いて、体験の出来る(あるいはそう錯覚させる)作品が主流だった。

なかでも印象的だったのが、なんと栄えある体験者第一号になってしまったヨーン・ボックの足踏み車付きのキャビン。階段を登って中に入ると、部屋の中はいかにもボックがここで寝泊りしてましたといった乱雑さで、壁はペイントだらけ、ベッドからは布団がずれ落ち、ぶちまけられた綿が床のあちこちに散乱していたが、この部屋、汚いだけじゃなくて、360度回転する仕組みになっていた。

まず、人が二人一組で中に入り、腕を組んで足踏み車の部分に立つ。するとすかさず係員がドアを閉め、外の階段を取り外し、みんなでこの馬鹿でかいストラクチャーを回し始める。中で立ってる二人は飛ばされないように、回転と逆方向に輪の中を必死になって歩くという結構体力のいる乗り物になっていた。終ったあと係員に、「実はあなたがはじめてだったので、私達もやってみるまでどんな感じか分からなかったのよ」と言われた時には、さすがの私も開いた口が塞がらなかったが、5分後には鼻歌まじにフラーの回転ブランコに乗っていた。

 








Photo: Toyoko Ito

この遊園地ムードと並んで目立っていたのが、隣国ドイツの熱気に押されてサッカー。今年からVIPルームとカフェがある中庭にスクリーンが設置され、ワールドカップの試合模様が連日上映されると同時に、サッカー場でもイベントを開催。今期で引退すると表明したフランスの英雄ジネディーヌ・ジダンのプレイを17台の特殊カメラで追った、ダグラス・ゴードンフィリップ・パレーノの映画が15日の晩、ヘルツォーク&ド・ムーロン設計サンヤコブ競技場でプレミア上映。移動したホテルのチェックインを済ませるために、私はやむなく途中で退散したが、上映が終ったときにはすっかり12時を回っていたという話。この時間にして4000人もの観客が訪れたというからスゴイ。

■ 実はこのバーゼルでも、ロンドンのフリーズ・アート・フェアの時と同じように、便乗イベントというか小振りのフェアが同時期に開催された。開廊して5年以内のギャラリーのみが参加できるというリステ(Liste)と、去年から始まったバーゼルアートフェアとリステの中間に位置するヴォルタ(Volta)に今回行ってみたが、元ビールの醸造所、現在は幼稚園として使われている建物が展示場になっていたリステは、良く言えば学園祭、悪く言えばアート版蚤の市のような感じで少々がっかり(アート・アンリミテッドを見た直後に行ったことと30度の暑さがおそらく大きく影響)。一方、ヴォルタは、強いキャラに欠けるという意見も一部で耳にしたが、すっきりとした会場構成で展示の仕方もそつがなく、買う動機のない一般客にも十分ウケるフェアだと思った。意外な発見としては、GEISAIのプロモーションのためにKaikai Kikiがここにブースを開いていたこと。「ムラカミ、ガゴーシアンに?」と、号外の一面を飾っていた話題の張本人がはっぴを着て座っていたというオマケ付きだ。

 



Photo: Toyoko Ito


■ 美術館の展示で冴えていたのが、同じくヘルツォーク&ド・ムーロンが設計したシャウラガーで開催されていたフランシス・アリス展(タシタ・ディーン展も同時開催)。アリスはアート・エンジェルの企画でロンドンでもお馴染みだが、あの時のパフォーマンス映像とは打って変わり、今回は絵画一筋。が、絵画といってもマーティン・キッペンベルガーと同じく、その大部分が看板屋が描いた物という他者介入型の作品。制作にあたりアリスがまずやったことは、街の中を歩き回ること。そうやって観察した人や街の風景を簡単にスケッチ。それをを何人かの看板屋に見せ、こんな感じにして欲しいと説明し、描いてもらった作品をインスタレーションとみなせるユニークな配列にして展示。場合によっては、描いてもらった絵を元に彼がまたさらに絵を書くという、堂々巡りを繰り返すこともあるとか。

 



Photo: Toyoko Ito

アリスの作品で興味深かったのが、モチーフにおけるサラリーマンの頻発と、コンテンポラリーな手法に似合わないシュールレアリズム的なモチーフ遊び。金髪のカツラで顔を覆ったリーマンが考えるポーズを取っている。革靴のなかに片手を突っ込んだリーマンが机に向かっている。というのが定番的な構図。何となくルネ・マグリットっぽいなと思ったら(ボーラーハットの下から覗く青リンゴで隠された男の顔みたいな)、アリスもベルギー人だった。でも一体、オマージュなのか揶揄なのか。ジャンブルセールのように重ねて置かれた展示を見ると後者のように感じらなくもないが、この展示のしかたがまた新鮮。ビジュアル的にも魅力的であったりする。もしかしたら、サラリーマンの心の内にたまったフラストレーションを、シュールなモードを借りて描かせたのかもしれないし、ただ単にメキシコ・シティーに沢山あるという男性が登場する看板をパロッタのかもしれないが、彼らの病んだムードが妙に引っかかった。(以上、トコ)

 

 

6月12日

最近のハイライト

ここのところ雑誌の仕事とバーゼル行きの準備でドタバタです。暫く更新できそうもないので、最近の情報からメジャーなものだけをさっくりと。

■ Coppermillオープン
スイスのギャラリー、ハウザー&ワース(Hauser & Wirth)のロンドン2号店が先月25日、ブリック・レーン裏手のチェシャー・ストリート(Chesire Street)にオープンした。ブリタニアストリートのガゴーシアンといい勝負の、ロンドン1,2を争う巨大スペースは、その昔、カーペットの倉庫に使われていた建物を再利用したもの。ピカデリーの伝統味のある1号店とは対照的な、巨大収納庫がそのまま展示室になったような独特の味をみせている(去年秋にホワイトチャペルで開催されたポール・マッカーシー展でオフサイト会場として使われた)。

 
Coppermill, Hauser & Wirth
 


ディレクターのグレゴー・ミュアー氏いわく、ここは大御所ギャラリーアーティストのためのプロジェクトスペース。美術館でもなかなかできないようなスケールの大きいショーを企画していくのが目的。その初のショーは、90年代後半に他界した巨匠二人ディーター・ロート(Deiter Roth)マーティン・キッペンベルガー(Martin Kippenberger)の二本立て。キッペンベルガーの展示は、この春テート・モダンで開かれた大回顧展に比べかなり小振りだが、ディーター・ロートの展示には圧倒されるものがある。商業ギャラリーの企画にしては珍しく、展示品の多くがディーター・ロート財団から借りたもので、ロートの息子のビョルン・ロートが設置をすべて担当している。

ロートは展示のまず最初に、設置者らアシスタントらが寛げるバーを会場につくるというユニークなアプローチで知られるが、今回も会場に入るとまずそのバーに迎えられる。会場中央には、作業場そのものをアートにしていたロートの、何とも喩えようのないハチャメチャなインスタレーションが展示され(その乱雑ぶりはフランシス・ベーコンといい勝負)、壁際にはスタジオの床がそっくりそのまま馬鹿デカイ「絵画」となって展示されていて絶句する。

「館内」などというと美術館みたいだが、入口脇にはアーティストブックで有名なアムステルダムの書店「bookie wookie」が特別に出張サービスしているので、こちらもお見逃しなく。ブック・アーティストとしても有名なディーター・ロートの傑作が数多く取り揃えられている。ちなみにこちらの書店は今回の展示期間のみに限定。8月27日まで。詳しくはこちらで。
Hauser & Wirth : COPPERMILL
92 - 108 Cheshire Street
E2 6EJ , London

リンクのページにサイト追加
リンクページのアート情報のコーナーに、「artinliverpool.com」、「リヴァプール・ゴールドフィッシュだより」、「Scribble for myself "アート日和"」、「andrewlee.com.au」など、日頃から刺激を受けているサイトを追加しました。

■ ターナー賞2006

先月中旬のことになるが、ターナー賞2006の候補者4名が発表された。ノミネート者はトマ・アブツ(Tomma Abts)、フィル・コリンズ(Phil Collins)マーク・ティッチナー(Mark Titchner)レヴェッカ・ウォレン(Rebecca Warren)

今年も去年同様おとなしめ。また同じく、絵画、映像、インスタレーション、彫刻とバランスのとれた選出。バーゼルのクンストハーレとロンドンのグリングラッシでの展示が評価されて選ばれたトマ・アブツは、去年のジリアン・カーネギー同様、ターナー賞には珍しく「絵」一筋の作家。デザイン性の高い抽象画と得意とする。

ドイツ・ボーズ写真賞にノミネートされたり、現在巡回中のブリティッシュ・アートショウ6で活躍中のフィル・コリンズは、ポップなドキュメンタリー映像を得意とする作家。コロンビア人にカラオケをさせたり、パレスチナ人にディスコダンスをさせたり、TV番組調の軽さのなかに痛快なアイロニーを忍ばせる、ある意味でとてもイギリス的な作家(2006年3月号と6月号のスタジオ・ボイスで紹介済み)。

今年最年少のマーク・ティッチナーは、キッチュなスローガンと、ポップでオップで呪術めいたインスタレーションを得意とする作家。アーノルフィニでの個展が評価されて選ばれて選出。実はこのティッチナー、フォグレスを立ち上げたばかりの頃にその突飛なインスタレーションに感動してレビューを書いたことのある、私にとっては思い出の作家。嬉しいことについ先日、アーティストの土屋信子氏の紹介でその頃&最近の話を聞くことができた(二人はギリシャの展覧会で一緒に展示している仲間)。ちなみにターナー賞ノミネートの連絡は、テートの館長、ニコラス・セロータ氏自らが電話で知らせてくれたという。「そんなフレンドリーでいいの?」って驚くほどイギリス的。

最後のレベッカ・ウォレンは、2003年のサーチ・ギャラリーでのメジャーデビュー以来、ブリティッシュ・アート・ショウ6、テート・トリエンナーレと絶好調の若手作家のひとり。トリエンナーレと、ケルンとNYの個展での展示が評価されて選出。台車に乗ったおぼろげに人の形とわかる石膏彫刻を得意としている。ドガのバレリーナの絵画に影響を受けているとか。詳しくはこちらで。(トコ)

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