10月9日

テートモダンに全長55メートルの滑り台登場!
 
 

こんなに緊張して、興奮して、叫びまくったのは何年ぶりだろうか…。これに比べれば遊園地のジェットコースターなんて屁のようなもの。26メートルの高さを数秒で滑り下りる感覚は、ちょっとオーバーかもしれないが、ボブスレー。あるいは、飛行機の脱出シュート。とにかく、こんなにアドレナリンが出まくった美術展はいまだかつてない。

最長55メートルの‘滑り台’ことTest Siteが登場したのは、英国一巨大な展示室といわれるテート・モダンタービンホール。ヒュージ・オア・ナッシングを特徴とする毎年恒例のユニリーバ・シリーズ展にてのこと。

滑り台をアートと称して送り込んだ型破りの作家は、遊園地の回転ブランコを作品にするなど、巨大なサイズと観客の参加を促す娯楽性が特徴のスウェーデン在住のドイツ人作家、カールステン・フラー。天井高を自慢とするテート・モダンの建築に魅力を感じ、5階、4階、3階、2階の各フロアと1階をつなぐ、近未来SF風のシューター5本を設置。'滑り台'に移動手段としての可能性をみるフラーの思惑通り、5階からわずか10秒で1階に移動できてしまうという、‘素晴らしい’機能性とスリル、そして造形美が一つになった、世にも突飛な体感アートとなっている。詳しくはまたそのうち。

 




Photo: Toyoko Ito
 

10月9日

アメリカンアートがブーム?
 
 日誌復活!ここ最近観た展示を一挙にまとめて紹介したいと思います。

USA Today @ Royal
Academy of Arts

牛のぶつ切りアートをお茶の間の話題にした「センセーション」展コンビが復活。カウンティーホールを去って以来沈黙を守っていたコレクターのチャールズ・サーチとロイヤル・アカデミーの名物ディレクター、ノーマン・ローゼンタールが手を組み、アメリカの若手作家38名、100点を越える作品を披露する「USA Today」がはじまった。その全てが過去2年の間に制作された近作。その多くがヨーロッパ、アジア、アフリカなどからアメリカに移り住んだ作家で、‘アメリカ’と国で括りながらもグローバル意識の強い作家となっている。

ホールから一階、二階全フロアを使った盛大な展示は、ここ数年のサーチの購入傾向を反映しているのか、絵画やコラージュなどの平面作品が主流で、それに立体とインスタレーションがちらほら混ざった状態。その多くが現政府の国内外政策や人種人権問題、ハリケーン・カトリーナに象徴される自然災害による被害など今のアメリカ国内の混沌とした状況を暗示するような政治色の強い作品になっている。「アメリカ政府の国際的評価が下がる今日、国際舞台の目がアメリカのアートに注目している…」というようなことがカタログに書かれていたが、この展示も十分にその検証の対象になりうる。

 



上から順に
Jon Pylypchuk
Terence Koh
Adam Cvijanovic
Photo: Toyoko Ito

主な展示作家は以下の通り(作品の解説は割愛します)。今年のアートバーゼルの若手部門で注目を集めたテレンス・コー(Terence Koh)、今年のベルリンビエンナーレ出品者で13日からモダン・アートで個展が始まるマシュー・モナハン(Matthew Monahan)、去年のズー・アート・フェアで話題になり現在サーペンタインのグループ展にも出品中のジョッシュ・スミス(Josh Smith)、同じくサーペンタインに出品中のマシュー・ディ・ジャクソン(Matthew Day Jackson)、去年のヴィクトリア・ミロ・ギャラリーでの個展が好評だったインカ・エッセンハイ(Inka Essenhigh)、アフリカ・リミックス展でお馴染みのワンゲチ・ムトゥ(Wangechi Mutu)など。

強いて言えば映像が一点もないのが寂しいところだが、それにしても今のアメリカの旬の若手作家の作品をこれだけまとめて見れてしまうのだから有難い。特にこれが公立の美術館の所蔵品ではなく、ひとりの個人コレクターが過去二年の間に購入した作品であることを考えると、それが億万長者であれなんであれ、その熱意には感動するものがある。以前あるアーティストが言っていた「欧米のアート業界は作家もギャラリストもコレクターもみんな命がけ」という言葉が思わず頭に浮かんでしまったが、来夏にはサーチ・ギャラリーの新スペースが開館することだし、フェアの時期にタイミングを合わせた今回の展示はその余興と言ったところだろうか。11月4日まで。

Uncertain States of America @ Serpentine Gallery
サーチの影響か、それともサーチ自身も影響されているのか、そこら辺の分析は今回は割愛するとして、とにかくロンドンでは今、アメリカのアートが注目を集めている(次が中国。90年代を風靡したブリット・アートはインターナショナリズムの陰で下火)。それがよく伝わってくるのが、上の「USA Today」をしのぐ勢いで評判のサーペンタイン・ギャラリーの企画展「Uncertain States of America」。アメリカ最大の国際現代美術際ホイットニー・ビエンナーレの今年の出品者が8組も含まれた、アメリカの最先端を紹介する意欲的な展示になっている。

ここで特にお薦めなのが、「USA Today」で省かれている映像系の作品。館内だけでなく、サーペンタイパビリオンでも10点ほど展示されている。特に押さえてもらいたいのが、この春にテート・モダンでプレミア上映されたダリア・マーティン(Daria Martin)の16mmフィルム「Loneliness and the Modern Pentathlon 2005」。この作品は陸上、水泳、射撃、乗馬、フェンシングの5種目競技をモチーフとした所謂スポーツ物になるが、それを20世紀初頭のモダニズムを思わせる優美な抽象フォルムももって映像化。その中に選手の孤独と苦悩が込められた見ごたえのある作品になっている。

また、まったくタイプは違うが、カルチェ・アワードをこの4月に受賞したミカ・ロッテンバーグ(Mika Rottenberg)の映像「Dough 2005」も、灰汁の強い個性で光っている。ガリバー旅行記の現代版じゃないが、巨体の女や痩せギスの女など肉体的特徴がぶっ飛んでいる女達が登場し、狭苦しい家の中で流れ作業でパンの生地を拵えていくのだが、肉体のみならず涙や汗までを使ったローテクかつ自給自足かつ‘ぼっとん’スタイルの生産方法が何とも異様。マシュー・バーニーとヨーン・ボックを足して二で割ったような、狂気のなかにユーモラスがちらりとのぞく個性を放っている。10月15日まで。

話はそれるが、サーペンタインギャラリーでは今月8日から旧バタシー発電所でも中国の作家を集めたグループ展「China Power Station: PART1」を開催しているのでお見逃しなく。ピンク・フロイドのアルバムカバーにもなったロンドン名物の発電所の建物のなかを見れるまたとないチャンスだ。11月5日まで。木曜〜日曜、1200-1900。入場料5ポンド。詳しくはサーペンタイン・ギャラリーのサイトで。

その他のアメリカ系イベント
以下は今月から来月にかけてロンドン市内で見れる主なアメリカ人作家の個展情報。

ジェイムズ・ローゼンクウィスト(James Rosenquist) @ ホーンチ・オブ・ヴェニソン、オフサイト会場(The Z Room, The Old Truman Brewery, off Hanbury Street London E1)10月11日から11月18日まで。

マシュー・ロニー(Matthew Roney) @ パラソル・ユニット (サーペンタインの「Uncertain・・・」にも出品中)11月8日まで。

ローラ・オーウェンズ(Laura Owens) @ カムデン・アーツ・センター、11月26日まで。

マシュー・モナハン (Matthew Monahan) @ モダン・アート (RAの「USA Today」にも出品中)
10月13日から11月12日まで。

アイーダ・ルイローヴァ(Aida Ruilova) @ ヴィルマ・ゴールド (サーペンタインの「Uncertain・・・」にも出品中) 10月13日から11月13日まで。

グレン・ライゴン(Glenn Ligon) @ トーマス・デイン
10月10日から11月18日まで。

クリス・バーデン(Chris Burden) @ サウス・ロンドン・ギャラリー、11月5日まで。(チェルシーカレッジでも今月15日までパフォーマンスを開催中。詳しくは下で。

クリストファー・ウール(Christopher Wool)@ サイモン・リー・ギャラリー、10月11日から11月28日まで。

リチャード・カーン(Richard Kern) @ ホテル
10月11日から11月12日まで。

 

 

10月9日

ターナー賞2006 etc
 
 

■ 毎年恒例のターナー賞の展示が例年よりスケジュールを3週間繰り上げてテート・ブリテンではじまった。今年の展ノミネート者はマーク・ティッチナー(Mark Titchner)、トマ・アブツ(Tomma Abts)、レベッカ・ウォレン(Rebecca Warren)、フィル・コリンズ(Phil Collins)の4名。

今年もターナーのお株である「変」なアートが健在。去年はスイスだかドイツだかからもって来た大そうな掘っ立て小屋だったが、今年はビッグブラザーまがいの悩み相談室「Shady Lane Productions(シェイディ・レーン・プロダクションズ)」が会場内に登場。その送り主はコロンビア人にザ・スミスの曲をカラオケで歌わせたり、パレスチナ人に倒れるまでディスコダンスマラソンをさせたり、一風変わった参加型の作品を制作してきたフィル・コリンズ。オフィス内にはリサーチャーが3人常勤し、テレビ出演によって人生が狂った人からの連絡を常時受付している。ちなみに電話番号は020-7887-4924。テレビ出演で苦い経験をしたことのある方、参加してみてはいかが?詳しくはまたそのうち。1月14日まで。

 

上から順に
Phil Collins
Rebecca Warren
Photo: Toyoko Ito


■ Chris Burden @ Chelsea College of Art & Design
ターナー賞を見た帰りがけに、テートの向かいにあるチェルシー・カレッジの校庭で出くわしたクリス・バーデン(Chris Burden)のパフォーマンスという名の超常現象(?)。人だかりができていたので何が始まるのかと聞いてみたら、目の前にある48トンもある蒸気ローラーがこれから飛ぶのだという。そんな馬鹿なことがあってたまるかと思いながら見ていると、車がゆっくりと円を描きながら動き始め、何回か回るうちに車輪が地面から浮いた。

リーフレットに書かれていたとおり、まさに「力と危険」をテーマとする作品。バーデンは肉体の極限に挑む体罰系のパフォーマンスが全盛を迎えた60年代に脚光を集めた作家で、パフォーマンスと称して相方に自分の腕を拳銃で打たせたり、オフィス用のロッカーに1週間もこもって水だけで過ごしたりと、周囲を唖然とさせる行為を作品にしてきた。危険に対する執着は40年たった今も消えていないようだ。10月15日まで(サウスロンドンギャラリーでの展示「14 Magnolia Double Lamps」は11月5日まで)。

 



チェルシー・カレッジでのイベントの様子。三番目の写真で車輪が地面から離れているのが分かるでしょうか。
Photo: Toyoko Ito

ホワイト・キューブ、 長洲鯨の骨とともに参上!
ロンドン組みの方はもう行かれた方も多いはず。先月29日に、あのホワイト・キューブの新スペースが古巣のデューク・ストリート界隈、メイソンズ・ヤードのオープンした(実はプレス内覧会の前日に近くを通った時にブルドーザーが石の塊を運んでいたので大丈夫なのかな…などと思っていたのですが)。

 
地下で展示中のガブリエル・オロツコーの長洲鯨の彫刻。
Photo: Toyoko Ito

コスメ換えをして見事に生まれ変わった新スペースはテート・モダンの弟分じゃないが、電力会社がその昔使っていた建物を改築したもの。テラスハウス形式の建物が多いこの界隈で単体のビルとして建てられたはじめての物件らしい。

展示室は地下と地上階にひとつずつ。地下の展示室はホックストンスクウェアのスペースをはるかに越える立派なサイズ。この界隈でこれだけの'ホワイトキューブ'をもつスペースはないのではないだろうか。地上階の展示室は小ぶりながらもライティングが美しく品のあるスペース。今後こちらでは、今回のガブリエル・オロツコー展のような大型の作品をやや長めのスケジュールで見せていく予定で、オロツコーの後にはモナ・ハトゥーム。来年以降はアンゼルム・キーファー、アンドレアス・グルスキー、デミアン・ハーストと続く。ハーストーの展示はホックストンスクウェアのスペースとダブルで開かれる。

ちなみに現在地下で展示中のオロツコーの作品「Dark Wave」は、全長14メートルの長洲鯨の骨を模ってドローイングを施したこのスペースならでは大作。地上階で展示中の金、赤、青、白を基本色とする抽象画は去年のヴェネツィア・ビエンナーレで発表された「The Samurai Tree」シリーズの最新作。チェスのナイトの動きが発想源になっているとか。11月11日まで。

■ Liverpool Biennial 2006
こちらはロンドンならぬリバプールネタ。英国最大の現代美術際リバプール・ビエンナーレ2006が先月16日から、テート・リバプールから道端まで市内25箇所以上を会場に盛大に始まった。

詳しいことはまた次回にするとして(今月発売の『美術手帖』にレビューを書きましたのでそちらもヨロシク!)、今回のビエンナーレの特徴をサクッと紹介すると、リバプールという街自体に鍼を打って血行をよくするがごとく、作品が街の随所に忍び込まされたアートによる街の再生が試みられている。それも中南米や東南アジアの作家など、欧米主導の国際舞台で外野と見なされている国々の作家が揃ってリバプールに上陸。これには今回のキュレーターが台湾とキューバ出身という点が大きく影響しているようだが、外野による客観的な視点がキラリと光るなかなか面白い展開になっている。会場が密集しているリバプールの中心部は割と小さくて、簡単に歩けてしまうが、それでもかなりの距離歩く。私は3日でヒールがすっかりボロボロになってしまったが、皆さんも十分に覚悟のほどを。

会場やイベントについて詳細はビエンナーレのサイトで。リバプール発信のartinliverpool.comと、リヴァプール・ゴールドフィッシュだよりにも詳しい情報&レポートが載っています。

 




パブリックアートのように街を彩る作品群&現地でお世話になったイアンさん&ミナコさん。
作品は上から順に
Yang Jiechang
Matej Andraz Vogrincic
Jorge Pardo
Pardoの作品は前回のビエンナーレの時に設置された作品だとか。クレーン車は作品とは関係ありません。
Photo: Toyoko Ito




2005年1月へ
 
2004年11月へ
  


Top

Home

 

fogless.net
e-mail: editor@fogless.net
This site has been designed and managed by Toyoko Ito (Toko)
copy; 2000-2010 All Rights Reserved

このサイトは伊東豊子(トコ)によってデザイン及び管理・運営されています。
本サイト内で用いられているコンテンツ(文章・画像など)を無断で複製・転載・
転用することはできません。

 

 

 

このページの掲載内容

テートモダンに全長55メートルの滑り台登場!
*ホワイト・キューブ
* ハウザー&ワース
* ガゴーシアン
スプルース・マーガーズ・リー、
(10.9)

アメリカンアートがブーム?
* USA Today
* Uncertain States of America
*その他
*デミアン・ハースト
*ポリー・モーガン
(10.9)

ターナー賞2006 etc
*Chris Burden
*ホワイト・キューブ
*Liverpool Biennial 2006
(10.9)