4月30日

トイレで待つゴッホ、ゴーギャン、ピカソ

推定総額4百万ポンド(約8億円)の名画は、バス停横の公衆便所という意外な場所から見つかりました。

事件が起きたのは、26日土曜日の夜から翌日午前中にかけて。場所は約四万点の所蔵品をもつマンチェスターのウィットワース・アート・ギャラリー(Whitworth Art Gallery)で、盗まれたのは同ギャラリーが誇るゴッホ、ゴーギャン、ピカソの水彩画三点。

従業員が日曜正午に出勤すると名画が壁から消えていた、と事件は映画のような出だしで始まりました。犯人割り出しに役立つ手がかりは乏しく、警察や美術品盗難の専門家たちは、抜かりなく計算されたプロによる金目当ての盗難との見方を表明。盗まれた絵画はすでに国外に流出してしまっているかもしれない、知名度が高すぎて市場に出回ることはないだろう、出るとしたらブラックマーケットだ、と色んなコメントが飛び交いました。

ドラマチックな盗難劇が現実味を帯び始めたのは、月曜早朝になってから。匿名の女性から警察に垂れ込み電話がかかってきた後、ギャラリーから約200メートル離れたバス停横の公衆便所でダンボールの筒を発見。こともあろうか巨匠の名画は、悪臭を放つトイレでずぶ濡れになったこの筒のなかから出てきたのです。さらに驚くべきことに、「目的は盗むことではなく、ただずさんな警備を暴くこと(the intention was not to steal. only to highlight the woeful security.)」と書かれた手書きメモも一緒に出てきたのです。

芸術狂の大富豪もマフィアも現れることなく終わった今回の事件は、どうも2年前に警備システムをアップグレードしたにもかかわらず、相変わらず手薄な同ギャラリーの警備体制に対する戒めが目的だったようです。犯人の行為には、盗もうと思えばこんなもの簡単に盗めるんだよ!という態度がありありと感じられます。

作品の被害のほうは、幸いなことに修復できる範囲に止まり、二週間もすればまた展示できるとのこと。しかし、美術館側は犯人の行動に対し、「.怒りを感じます。これらの絵画はかけがえのない芸術品なんです。… フレームから外して丸めて筒にいれることによって、損傷を与えてしまったかもしれません。(We are very angry, because these are irreplaceable works of art … The very act of taking them out of their frames and rolling them up into a tube may have caused damage)」とコメント(The Guardian)。ごもっともな発言と納得する一方で、そんな貴重な芸術品がこんなに簡単に盗まれてしまうようでは…と私の感情はやや複雑です。ま、とりあえずは、見つかって良かったと言っておきましょうか…。(トコ)

Whitworth Art Galleryのサイト
The Guardianの記事はこちらから

 

4月28日

ギャラリー:バーミンガム編

ギャラリーの頁に、ロンドン外のギャラリー第二弾として「バーミンガム編」を載せました。 今回、お勧めのギャラリーを選んでくれたのは、留学中バーミンガムに滞在していたみよさん。インターンシップ経験のあるIkon Galleryなどについてレポートしてくれました。

以前クマさんがレポートしてくれて好評だった、ロンドン外のギャラリー第一弾「Baltic」も、再度ギャラリーの頁からアクセスできるようにしましたので、こちらもご覧下さい。

 

4月23日

またもやギャラリー改築

去年暮の日誌で触れた、美術館改築大レース。あれから4ヶ月が経ちサーチ・ギャラリーは開館を迎えましたが、ヘイワード・ギャラリー、カムデン・アーツ・センターは今、改築工事真っ只中。ナショナル・ギャラリーは、展示室はまだ手付かずですが、建物の前の道路やトラファルガー広場で大々的に工事中。とまあ、工事だらけのギャラリーシーンですが、これに新たなる参入者が登場。

まずは、「なくなるかも〜」なんて最近噂のあったSouth London Gallery(サウスロンドンギャラリー。)ここは慈善事業家ウィリアム・ロシターがロンドン南部の労働者のために1891年に設立したギャラリーで、東のホワイトチャペル・アート・ギャラリーと並んで地元民に長年尽くしてきた公営ギャラリーの一つ。1990年代にチセンヘール・ギャラリーなどを手掛けたデイヴィッド・ソープによって現代アート専門の展示スペースへと生まれ変わり、ギルバート&ジョージ('95)、ビル・ヴィオラ('97)、トレイシー・エミン('97)、バーバラ・クルーガー('01)、キース・タイソン('02)と注目の作家を次々と紹介してきました。

さて気になる噂の真相ですが、先日発表された内容によると、これまでのサザック区の管理下から抜け、6月から独立団体として再出発することに決定。アーツ・カウンシルから415,000ポンドの助成金を獲得し、ギャラリーの改築と組織の一新が図られるようです。改築はこの秋着工、来春完成を予定。改築前の6月から8月にかけては、独立を祝う特別記念イベント「Independence」展が催されるということ。アンソニー・ゴームリー、ジリアン・ウェアリング、マイケル・ランディ…などこれまで同ギャラリーのプロジェクトに関わったことのある作家が百名以上も参加します。

映画館や劇場が入った複合文化施設、Barbica Centre(バービカン・センター)でもこの夏から改築工事が始まります。60年代のデザインに基づき70年代に建てられたここは、重要建築物にリストされているロンドンのランドマークの一つ。にもかかわらず、重苦しい館内デザインが時代遅れで、○○文化会館って呼びたくなるほどダサい。このネガティブな印象を取っ払うために改造されるのが、左右両玄関とそこから広がる一階ロビー一帯で、今年から三年掛かりで行われる予定。 この機会に便乗して、三階のバービカンギャラリーも拡大され、ギャラリーは現在の展覧会「Exodus: Photographs by Sebastiao Selgado」のあと来年4月までお休みに入ります。一階展示スペースCurveも7月半ばから来年9月までクローズされます。

それから噂によると、あのICAでもちょっとした模様替えが行われるようです。先日Beck's Futuresを観に行って、心から貧相だな〜なんて感じてしまいましたが(オルタナティブ・スペース的とも言えますが…)、6月一ヶ月間ギャラリーを閉めて床や壁、天井などを軽〜くお色直しするということです。でも内部の人の話によると、展示室がもう少し綺麗になって、ややホワイトキューブに近づくくらいの控えめな模様替えのようなので、改築レース参入とはちょっと違うようです。(トコ)

South London Gallery
Barbican Centre
ICA

 

4月16日

ハーストとオフィリに振られたサーチ?

待望のSaatchi Gallery(サーチ・ギャラリー)が、いよいよ明日オープンします。招待客とメディアへのお披露目も済み、今頃はキュレータ、チャールズ・サーチが、エドワード調の大広間を歩きながら明日のために最終チェックを入れている頃でしょうか。

そんなサーチに目もくれず「無意味だよ。時間の無駄。とにかく、回顧展なんて死んだ作家のためにあるようなものさ。(… it's pointless. A waste of time. Anyway, retrospectives are really just for dead artists.)」と語るのはギャラリーの看板Damien Hirst(デミアン・ハースト)。自分のショーのオープニングにもかかわらず、15日に開かれたレセプションにはどうも欠席したという噂。まあこれは見方を変えれば、パーティー嫌いで有名なサーチの例に習ったとも言えなくありませんが、それにしても二人の間柄の冷え込みを感じさせるような言動…。(サーチの姿もなかったという話)

このつれないハーストが最近ご執心と言われるのが、彼の専売特許である牛のホルマリン漬け。漬物からは一時遠ざかっていた彼ですが、磔という西洋美術史お得意の主題を引っさげて原点に戻ろうとしているようです。何故磔を選んだのかという質問に対し、"Midlife crisis"と答えているハースト。三十代後半で早々と回顧展なんか開かれて、磔にされてしまったたような心境なのでしょうか。

全部で3体作られるこの作品は、切り開いた牛を十字架にはりつけて巨大水槽に入れたものらしく、すでに第一作の制作に入ったと言われています。ちなみに、回顧展目玉の巨大人体模型彫刻Hymnは百万ポンドでサーチがゲットしましたが、今回の作品は制作費だけで75万ポンドというさらに輪をかけて凄いもの。

片やChris Ofili(クリス・オフィリ)は、同じく百万ポンド級とささやかれる「Upper Room」の買い手を廻ってやきもき。去年ヴィクトリア・ミロ・ギャラリーで発表し「モンキー・マジック」と絶賛されたこの作品は、ダ・ヴィンチの最後の晩餐に軽くベースして描かれた13枚の猿の絵。

当然、世界中のコレクターからお声がかかっているようですが、オフィリの心はサーチの宿敵テートに釘付という噂。テートが資金繰りをつけるまで一途に待ち続けるというところまで話しが進んでいるよう。実はこれには残念な事情もあって、テートのボードメンバーを務めているオフィリに対してはテートは作品購入用の資金を使うことができないのだそうです。ということで、サーチ・コレクションのオフィリのマリア様が使徒達に囲まれるチャンスはどうも薄いようです。

お客様は神様です!という国で育った私には、物怖じもせずパトロンにそっぽを向くハーストのようなアーティストにはかなり驚き。でもそこには、作り手と買い手の微妙な力のバランスの変化が感じられとても興味深かったりもします。英国現代美術界のゴッドファーザーことサーチのお陰で、90年代を通じ英国の、さらには国際的なスターへと成長したYBA。今回のような毅然とした姿勢には、成功がもたらした余裕と自身の程が伺えてしまいます。

一流になって余裕がでれば、顧客の選択がシビアなっても当然のこと。ICAのディレクターがついこの間、サーチギャラリーのことを「90年代の遺跡」と呼んだように、その活躍が余りにも華々しかっただけに、人々の意識のなかに90年代というイメージを刻んでしまったサーチ・ギャラリー。でも、常に最先端を重視するこの世界にあって、「過去」を意味するイメージは現役作家にとっては危ないところでしょう。しかもYBAの場合まだ30代後半と、お蔵入りしてしまうには若いです。90年代アートと呼ばれるよりは、21世紀に属す公的美術館テート・モダンにお蔵入りする方が魅力的なのかもしれません。

とまあ一旦考え出すとなかなか止まりませんが、全ては明日オープンするギャラリーにかかっていると言えそうです。先日、ある取材でサーチ・ギャラリーのディレクターにお会いした時、新スペースは、ホワイト・キューブ(ギャラリー定番の真っ白な箱空間)も倉庫の改造型も見限って選んだ新たな試み、新旧の融合型、と語ってくれました。さらに、「(私達は)英国の若手作家による新しい芸術を誕生する傍らから紹介し、彼らのショーケースとなることを目指しています」とも語ってくれました。この言葉がどう形となって表れるかは、明日のお楽しみ…ってとこでしょうか。 (トコ)

"Damien Hirst", 03/04/17 - 03/08/31
The Saatchi Gallery

 

4月14日

Beck's Futures

若手対象と言いながらも権威臭さが抜けないターナー賞。その対抗馬として真の若手の発掘と支援をスローガンに4年前に登場したのが、このBeck's Futuresという賞。その展示が今月5日から、コンテンポラリー・アートなんて屑だ!という発言がもとで去年、会長辞任劇が起きてしまったICAでスタートしました。

汚名挽回というつもりなのでしょうか、雰囲気がいつもとは大きく違う今回のBeck's。色鮮やかな巨大キャンバスが目立った去年に比べ、今年はいつになくビジュアルがシビア。10組中4組あった絵画が今年はゼロで、壁は真っ白の余白だらけ。

その一方、今回、圧倒的勢力を見せているのが映像で、9人中6名が何らかの映像作品を発表。しかしこちらも、最近主流の大きなスクリーンを何枚も使ったビジュアル重視型とは違って、かなりドライなドキュメンタリー系。シンプルなテレビモニターにハンディカムで撮ったような素人っぽい映像、淡々と展開するナレーションといった感じ。(もちろん、この選択には制作費の問題も絡んでいるでしょうが…)

まず一番印象に残ったのはDavid Sherryのパフォーマンス映像「Stiching」。これは作家が自分の足の裏にバルサ材の靴底を縫っていくシーンを撮った映像で、この狂気じみた行為が本人による解説つきで、まるで草履職人の仕事っぷりを紹介するテレビ映像のように展開されます。血が付き物の体罰系パフォーマンスとDIY番組を足して二で割った世界…とでも言ったら良いのでしょうか。謎です。Sherryはこの他にもプリンターを使った作品も発表していて、イラストや文字が印刷された紙が床に次々と吐き出されていました。プリントアウトは持帰りOKというお土産付きの作品です。

昆虫などの写真を展示しているLucy Skaerも持ち帰りOK組みで、こちらでは展示品のポスターが貰えます。彼女の場合、展示された写真は作品の一部にすぎず、プロジェクト全体の記録のような存在。カタログによると彼女の作品は「Public Interventions」という部類の属するようで、ギャラリー外の、それも公の場所で展開される行為が作品の核を占めるようです。先日もオールドベイリーと呼ばれるロンドンの中央刑事裁判所で、蝶の蛹を成虫へと羽化させるプロジェクトを秘密裏に行ったようで、その記録写真が今回展示されています。

その他には、Nick Croweがネット上でできる戦争ゲームを発表。これはご時世がご時世だけあって、遊びのようなプレゼンの裏に結構痛烈なものを感じてしまいます。(アクセスはこちらから)Francis Upritchardは展示室の床板を剥がして、そこを遺跡発掘場に見立てたインスタレーションを発表。Inventoryはアメリカーナ・フェスティバルという欧州一のアメリカ祭をドキュメンタリーレポートした映像を発表。アメリカ文化の侵略の度合い(?)が窺えて意外と面白かったりします。Inventoryの作品はロンドンの地下鉄50駅にも展示されているとのこと。(ポスターです)

とまあ、映像にハイテク機器、お土産付き作品、ギャラリー外プロジェクトの記録と今回のBeck's Futuresはいつもとは一味違いますが、これはこれでなかなかのもの。受賞者の発表は4月29日に行われ、所持品全てをスクラップにしたインスタレーションで知られるMichael Landy、超売れっ子スイス人キュレータHans Ulrich Obristなど4名が審査員を務めます。29日の授賞式には、今年で4回目を迎えるStudent Prize for Film and Videoの受賞者の発表も行われる予定です。(ちなみに、こちらの上映会は25日から28日で、審査員はSam Taylor-WoodPeter Saville)(トコ)

"Beck's Futuress 2003", 03/04/05 - 03/05/18
ICA

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トイレで待つゴッホ、ゴーギャン、ピカソ(4.30)
ギャラリー:バーミンガム編 (4.28)
またもやギャラリー改築 (4.23)
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ハーストとオフィリに振られたサーチ?(4.16)

Beck's Futures (4.14)