カフェに展示されたPaul Morrison の「Asplenium, 2010」


6月末にリニューアルオープンしたサウス・ロンドン・ギャラリー(SLG)に遅ればせながらお邪魔しました。ギャラリーの外観は今まで通りながらも、新たに加わった隣の建物
「Matsudaira-Wing」のなかに自然光をたっぷりと取り入れたオシャレなカフェ・レストラン「No. 67」が登場して、とてもいい感じ。その奥には緑が青々と茂るガーデン、その先にはガレージ風のスタジオ。レジデンシー用の施設も建物上階に加わるなど、かなりの充実ぶり。

開催中の展示は、コンセプチュアル・アートの大御所ローレンス・ウェイナーから現在テート・ブリテンで"戦闘機"を展示中のフィオナ・バナーまで、国内外の作家20名を集めた「Nothing Is Forever」展。文字をつづったものからマンガ風のドローイングまでそのスタイルは様々だが、展示品はいずれも壁に直に描かれたものばかりで、展示終了後には白壁に塗り替えられてしまう"短命" な作品。ゆえに、このタイトル。

以前からある大展示室には、ウェイナーバナーロバート・バリーマーク・ティッチナーらのテキストワーク。文字が読めるものはスローガンのように端的、読めないのもは……目の保養。その奥のガラージ風「Clore Studio」には、デイヴィッド・シュリグリーリリー・ファン・デ・ストッカーらの幼児心をそそるペインティング。いずれも壁にすっきりと収まってしまっているせいか、スペースの空洞感が妙に目立ち少々物足りなく感じたが、壁が主役の展示なので仕方がない。

Clore Studioに展示されたデイヴィッド・シュリグリーの「Poverty Elephant 2010」

一方、新たに加わった隣の建物の方は、比較的にマイナーな作家が多く作品も控えめだが、建物の特徴と作品との間に対話が見られ、工夫が感じられる。なかでも良かったのが、カフェの壁を飾っているポール・モリソンの金箔のドローイングで、ゴールドの表面が窓からの日差しをはじき、作品のモチーフがガーデンの草花といい呼吸をなしているところが魅力(これだけは展示後も残すとよいのに)。また、人毛とピーナッツで模様を描いたサム・ポリットのドローイングも異色でよかったが、それ以上に目立っていたのが室内に作品然と置かれていたベッドやキッチンの存在。

実はマツダイラ・ウィングと名づけられたこの建物の上部2フロアーは、アーティスト・イン・レジデンス用に今後使われることになっており、日本式でいう二階が彼らの制作の場、三階が寝泊りをする場。今回はそこを特別に展示場として使っているためにベッドがあったりする訳だが(エミンのまねではない)、驚くのが、そのいかにも快適そうな空間。広々としたキッチンに、バーベキューによさそうな庭を一望するバルコニー、高級レストランに迷い込んだかのようなトイレ(展示室のトイレに比べるとはるかに立派)。その環境のよさに、展示品の方は残念ながら印象がかすんでしまいました…。

それにしても気になるのが、このマツダイラ・ウィングというお名前。英語で書くとインドかどこかの地名のように見えなくもないのですが、発音するとかなり江戸風。気になってギャラリーのスタッフに聞いてみたところ、やはり日本人が絡んでいました。今回のリニューアルのメインスポンサーが日本出身の方らしく、その方のお祖父様の苗字をとって「マツダイラ・ウィング」と命名されたとか。

ナショナル・ギャラリーのセインズベリー・ウィング、テート・ブリテンのデュヴィーンズ・ホールなど、英国には重要なスポンサーの名前を展示室名に残した美術館が珍しくありませが、日本の名前が国境を越えてその仲間入りをしようとは驚き。しかも、ロンドンの南東奥深く、物騒なことで有名なこの庶民の町ペッカムに、徳川将軍家ご一門のお名前!(あるいは暴れん坊将軍?)日本人の私にはこのギャップがたまりませんが、奇特なスポンサーの力あって美しく再生したギャラリー。徒歩圏内に地下鉄や鉄道の駅がないのが玉に瑕ですが、オーバル駅からバスで10分程度なので、みなさんぜひ足を運んでみてください。(文: 伊東豊子、Toyoko Ito)

Nothing is Forever
2010/06/25 - 2010/09/05
South London Gallery


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