A nna Fox, Hampshire Pram Race, 2006
From the series Back to the Village 1999 -
(c) Anna Fox courtesy James Hyman Gallery, London




文: 伊東豊子(Toyoko Ito)

毎年この時期恒例のドイツ・ボーズ写真賞の展示が、ロンドンのフォトグラファーズ・ギャラリーで開催中。

今年のノミネート者は、アナ・フォックス(Anna Fox)ゾーイ・レオナード(Zoe
Leonard)
ソフィ・リステルユベール(Sophie Ristelhueber)ドノヴァン・ワイリー(Donovan Wylie)の4名。そのうち3名が女性で、いずれもキャリア25年以上のベテラン。社会派ドキュメンタリーから私的ダイアリーまで、10年越し、20越の長期プロジェクトが目立ち、プリントに加え写真集もあるなど、見ごたえのある展示になっている。

4名の中でも異彩を放っているのが、80年代にマーティン・パーらと共にニュー・カラーの旗手として注目を集めたアナ・フォックス。キャンディのように鮮やかな色彩と、写真集とプリントを併用した展示が独特。

フォックスの展示品のうち2点は、手作り風の写真集。母親の食器棚の中身を撮った写真に父親のぼやきの言葉を添えた《My Mother's Cupboards and My Father's Words》は、わずか10センチたらずのホームメイドな小冊子。何十枚もの写真が蛇腹式に連なった《Notes from Home》は、目玉焼きからねずみの死骸まで家の雑多なものを綴ったフォトダイアリー。

これらのアットホームな写真集に対して、壁に貼られたプリントは歌手やフェスティバルの道化師たちの仮装を捉えた灰汁の強いポートレート。この日常と非日常との対比が、本とプリントの違いを通じて巧みに表現されているところがフォックスの展示の魅力。



(上)Donovan Wylie, Deconstruction of the Maze prison. Northern Ireland. 2009.
(下)From Scrapbook, 2009
(c) Donovan Wylie/ Magnum Photos

ベルファスト育ちでフォックスよりひと世代下のドノヴァン・ワイリーも、プリントと写真集の二部構成。主題はともにポスト紛争時代の北アイルランドで、70年代から政治犯収容所として使われ2000年に閉鎖されたメイズ刑務所が写真の対象。

2002年から6年かけて撮影された《The Maze》シリーズから抜粋されたプリントは、ドイツ写真風の徹底したフォーマリズムとドキュメンタリー写真の記録性が融合された美しくも力強い作品。

一方、これらのプリントとは対照的に、ばらして壁に貼られた写真集《Scrapbook》のほうは、まるでクラブのチラシのように軽いノリ。自分のお爺さんのスクラップブックをもとにしたこの本には、武装した人やライフル銃の写真が次々と出てくるが、ポスト紛争時代の視点から動乱の時代を眺めた結果なのか、バンクシーのグラフィティーのようにクールでポップなところが面白い。


Zoe Leonard, Century Photo Centre, 2004/2006
from the Analogue Portfolio, 1998-2009
(c) Zoe Leonard. Courtesy the artist and Galerie Gisela Capitain, Cologne

さて、先の二人がプリントと写真集を併用しているのに対し、アメリカ出身のゾーイ・レオナードはこだわりのプリント派。ダイトランスファーという今ではあまり使われなくなったプリント法を用い、フィルムの枠までも一緒にプリントしてしまう徹底した銀塩派。

《Analogue Portfolio》と題された40点ほどの写真に写るのは、百貨店やネットショッピングの影で消えつつある昔ながらの個人商店。NYのダウンタウンから東欧、アフリカまで世界を渡り歩いて11年がかりで撮られたものになるが、万国共通の現象とでもいうように店はきまって無人、戸もシャッターも降りたまま。その侘しい姿に時代の変化を感じずにいられないが、その流れに逆行するように古きよき時代の所産を同じく古きよきプリント技法でひとつひとつ丁寧に形に残しているところにレオナードの一つの時代への並々ならぬ執着がうかがえ興味深い。

最後の作家、ソフィ・リステルユベールはフランス出身の大御所。廃墟や残骸など戦争の痕跡を追うことによって領土や歴史といった概念に向き合ってきた作家になるようだが、今回の展示品のみでその活動の幅を理解するのは難しく、見ても見た気がしないような掴みどころのなさを感じる。

展示品は4点のみで、子供のときの自身が写った祖父撮影のモノクロ写真と作家本人が後に撮った家族の別荘のカラー写真を並列した二枚組みの作品がまず一点。次に、イラクで撮られたロイター配信の画像に作家がシリアなどで撮った写真を合成したクレーターの写真が2点。そして最後が、デュシャンの《大ガラス》の上に積もった埃を撮ったマン・レイの写真にそっくりな構図をみせる地形の上空写真。いずれも人間が残した痕跡の写真と呼べなくもないし、コンセプチュアルな遊びを好む作家であることもわかるが、見た後に頭に残るのは「?」。

受賞者の発表は3月17日にフォトグラファーズ・ギャラリーで行われる。


Sophie Ristelhueber, Eleven Blowups #10, 2006
(
c) Sophie Ristelhueber/adagp



Deutsche Borse Photography Prize 2010
100212 - 100418
The Photographers' Gallery


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2006年のレポートは『Studio Voice』2006年6月号に寄稿
2007年のレポートは『美術手帖』2007年4月号に寄稿


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