「Mythologies」展の会場風景
自然史博物館を模した二階の展示室。手前はJochem Hendricksの犬の剥製。
奥にはPolly
Morganのヒヨコの剥製を忍ばした棺、
突き当たりの壁にはMat Collishawのつぶれた蝶の写真、左の壁にはJitish Kallatの内臓を想起させるドローイング。見事に生き物で統一。


文&写真: 伊東豊子(Toyoko Ito)

もう10年以上も前になるが、ピカデリーにあるロイヤル・アカデミーの裏手に大英博物館の分館だった「人類博物館(Museum of Mankind)」があったのを覚えている方いるだろうか。

1970年にオープンして以来、マヤ文明の考古遺物といわれる水晶ドクロをはじめ、ナイジェリアに昔あったベニン王国の秘宝ベニン・ブロンズや日本の凧、アボリジニの絵画など世界各地の諸文化を紹介してきた博物館だったが、残念なことに97年に閉館。その後、ロイヤル・アカデミーが物件を買いとり、特別企画展を開いたり、ズー・アートフェアなどのイベント会場として使われてきたが、その建物に先月、ウェストエンドの画廊ホーンチ・オブ・ヴェニソン(Haunch of Venison)が移転した。この不況にもかかわらず、博物館だったころの風情を再現した豪華な展示で話題を呼んでいる。

「Mythologies (神話)」と題し、イリヤ&エミリア・カバコフヤニス・クネリスソフィー・カルなど総勢40名、100点近いアートが陳列された室内は、一画廊の展示とは思えぬ貫禄。自然史、信仰、物質文化などのテーマ別に分けられた10室ほどの展示室に、ヨッヘン・ヘンドリックスの犬の剥製やイ・ヒョングの人骨を模したスカルプチャーが暗闇から浮かび上がるように置かれ、なんとも博物館風。

また、デミアン・ハーストのダイヤモンド・ドクロの絵画や、イヴァン&ヘザー・モリソンのSF調の凧など、「人類博物館」当時の展示を意識して選ばれた作品も多く、かと思えば、クネリスのオーバーコートを床一面に並べたインスタレーションなど本展用につくられた作品も目立ち、この場所との呼吸のよさを感じる。

さらに、会場の壁には、ベンヤミンら思想家らの言葉。展覧会カタログは、事典形式で編集。作家の解説と並んで、ミュージオロジー関連の用語の解説も含まれいて何ともアカデミック。つまり、この展示のすべてが美術館のオーラを放っているのだが、意外にも展示品は借り物の4点を除いてすべて売り物。美術館の仮面の下で、画廊としても完璧に機能している。


「Mythologies」展の会場風景
会場に到着したばかりのDamien Hirstのドクロのペインティング。2007年に発表したダイヤモンド8601個を使ったドクロ「For the Love of God」が基になっている。キャンバスの表面にガラスの破片がたくさん散らばめてある。

ロンドンにはホワイト・キューブやガゴージアンなど美術館規模の画廊が幾つかあるが、美術館が所有する建物に入り、ここまでスマートにパブリックの蓑をまとった画廊は他には見当らない。しかもここは、ロイヤル・アカデミー(王立芸術院)という由緒ある美術機関の敷地内。そこに開廊7年の比較的に若いギャラリーが入ってしまったのだから驚かずにはいられない。

ホーンチ・オブ・ヴェニソンがボンド・ストリート脇に開廊したのは2002年のこと。ディーラーのハリー・ブレインと、クリスティーズ現代美術部門の元職員のグラハム・サザーランドによって、元祖ディーラー王のアンソニー・ドフェイが所有していた3階建てのビル内にオープン。

あのドフェイの動かすとは初っ端から大胆であったが、その勢いでチューリッヒ、ベルリンと支店を増やし鰻上りのなか、2007年にクリスティーズによって突然買収。画廊はプライマリー・マーケット、オークションハウスはセカンダリー・マーケットという住み分けを破る取引であるとして当時懸念の声がだいぶ上がったが、「別運営」の文句で切り抜け、その半年後にはNYのロックフェラー・センター内に新店舗をオープン。展示品はすべて非売品という美術館の蓑を100%まとった新表現主義の巨匠の作品展で幕を開け、話題をさらった。

ロンドン店がこれまで入っていた建物は、2011年の完成を目処に現在改築中で、それまでの三年間をこのバーリントン・ガーデンズ6番地で過ごすことにいなっている。ホーンチはその賃料として400万ポンド(約5億7400万円/換算レート1ポンド143円)をロイヤル・アカデミーに支払ったといわれ、このお金はバーリントン・ガーデンズの今後の修繕資金に充てられることになっている。

ロイヤル・アカデミーは私営なので今回の取引は官民の歩み寄りという構図にはならないが、ナショナル・ギャラリーなどの国立美術館よりも歴史のあるアカデミーのステータスを考えると事実上それと同じだ。欧米のアート界ではここ数年、画廊やコレクターなどプライベート・セクターのトップ層の間で美術館ステータスを目指す競争が激化しているが、今回のホーンチの動きはその最もよい例だろう。「うちの取り扱い作品は美術館レベル」といった声が今にも聞こえてきそうだ。


「Mythologies」展の会場風景
会場を入ってすぐのホールの部分に展示されたHeather & Ivan Morrisonのカイトのようなスカルプチャー。カイトの幾何学的な形は砂漠で見つけた岩の形が基になっている。


Mythologies
090312 - 090426
Haunch of Venison's
Inaugural Exhibition at
6 Burlington Gardens




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