Mircea Cantor, The Need for Uncertainty , 2009
Photography by Andy Keate, © Mircea Cantor
Courtesy the artist and Yvon Lambert, Paris, New York


美術館と動物園。美術品と生き物の違いはあるが、見る側からすればどちらも鑑賞の場。しかも動物園でアートフェアが開かれたりするこのご時世、その溝は意外と浅いのかもしれないが、それでもギャラリーに孔雀とは異様だ。

ノース・ロンドンにあるカムデン・アーツセンター(Camden Arts Centre)二階の展示室に入ると、鳥かごを何百倍にも拡大したようなゴールドの檻に迎えられる。床一面にウッドチップが敷き詰められ、三重の入れ子式になったドーム型の檻の中に、孔雀がつがいで二羽。疲れているのか、メスは檻の真ん中で寝ていたが、オスは真っ青な首と尾をせわしなく振っていた。

この一風変わった作品《The Need for Uncertainty》は、ルーマニア出身パリ在住のミルチャ・カントル(Mircea Cantor)の作品。「物理的、心理的な動揺をひきおこす状況をつくる」のを得意とする作家らしく、確かに、この異様な光景を前に「羽が綺麗だねえ〜」などといってのん気に鑑賞する気分にはなれない。この孔雀は一体どこから来たのか?ケアは万全なのか?誰が面倒を見ているのか?四六時中ここで過ごしているのか?展示期間中ずっとこのままなのか?と、矢継ぎ早に疑問が浮かぶ。

ギャラリーでもらった資料によると、二羽の孔雀は現在2歳で、インディアン・ブルーという種類に属す。イングランド南東のノーフォークの農場で飼育されたもので、新しい環境に馴染めるように展覧会がはじまる4日前に会場に入り、到着と同時にロンドン獣医大学の専門医によるヘルスチェックを済ませている。また、餌はもちろんのこと、展示室の気温、換気、自然光を使用した照明など万全の配慮を受けており、展覧会終了後はすみやかに農場に戻されるという。

これらはみな生き物を扱うからには当然の配慮だが(それでも動物愛護団体からは苦情が出ている)、ギャラリー側の負担を考えると、そうまでして孔雀を使うことにした作家の意図におのずと関心がいく。手元の資料に目を通すと、どうやら「自由」や「制約」「秩序の崩壊」などの概念の具現化が目的のようだ。「かごの中の鳥」というモチーフを見れば、最初の二つはすぐにピンとくる。三番目の「秩序の崩壊」は、ギャラリーという意外な場に孔雀を置くことによって違和感をつくりあげ、その効果を達成しようとしたもののように思える。

言うまでもなくこの違和感こそが、この作品の最大の魅力だが、さらに面白いことにこの作品には、90年代のYBAと2000年以降のポストYBAを組み合わせたようなハイブリッドな空気が感じられる。アニマル・アートの金字塔たるデミアン・ハーストらセンセーション世代のポップでアイキャッチーな表現と、その後に出来てたサイモン・スターリングやティノ・セーガルらに通じるプロセス重視でサイトスペシフィックな表現の合体。

また、制作のブレインに徹しているアーティストの役割も、欧米でますますエスカレートしている現代アートの傾向のようで興味深い。ギャラリーのスタッフの話によると、檻を実際に作ったのは専門業者、孔雀を持ってきて環境を整えたのは農場の人間、餌をあげるのはギャラリーのディレクター以下スタッフの役割、健康管理は獣医の仕事、そして、作品の主役はもちろん孔雀になり、様々ある現代美術の作品の中でも人使いがかなり粗い作品といえよう(鳥使いも)。アーティストは一体何をしたのだろうかとふと疑問がわいたが、きっと目に見えない頭脳ワークが色々とあるのだろう。


Mircea Cantor, The Need for Uncertainty , 2009
Photography by Andy Keate, © Mircea Cantor
Courtesy the artist and Yvon Lambert, Paris, New York


Mircea Cantor
The Need for Uncertainty
Camden Arts Centre
090220 - 090419



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