今年の欧州文化都市に選ばれ、各種イベントで盛り上がっているリバプールの街.。ザ・ビートルズ誕生以来久しくなかったその高揚気分に更なるスパイスを効かせるように先週開幕したのが、ここで紹介する「リバプール・ビエンナーレ2008」になる。今年で第5回目を迎えるこのイベントは英国最大。リヨン、ベルリン、イスタンブールなどと肩を並べる国内唯一の、都市一体型、定期開催、国際的視野をもった現代美術展になる。

その一番の特徴は、「うちの街を見てよ」と言わんばかりに、市内各地に点在する展示構成(ミュンスター彫刻プロジェクトみたいな感じです)。会場は公式カタログに載っている展示だけで28ヶ所。これに同時開催した「ザ・インディペンデント08」の展示会場が67ヶ所。あわせて100近い展示が、少し頑張れば歩けてしまう小さな街で開かれているのだから、その密度の濃さはおわかりいただけるでしょう。

 

(左)Atelier Bow-Wow, Rockscape (まだ工事中でした…)
(右)Diller Scofidio + Renfro, Arbores Laetae [Joyful Trees]

そのビエンナーレの中心を占めるのが、フィンランド・デンマークから中国・韓国・日本を経てアルゼンチンまで、作家40名が参加しているインターナショナル・エキシビション「MADE UP」になる。テート・リバプールFACTなどの公営美術館や、昔の映画館やパブなど街の名所を会場に、市内13箇所でサイト・スペシフィック度の高い作品が披露されている。

この展示のテーマのひとつが、最近のイギリスの現代美術展にしては珍しいイマジネーション。英国ではYBA現象が引いた2000年以降、レディーメード、アプロプリエーション、リサーチ、ドキュメント、アクション、リメイクといった用語をキーワードに、既存の表現や実社会での出来事に言及する概念志向の作品が歓迎され、ものづくりは軽視されがちであったが、この展示はそれと逆。浮世離れした空想と、それが生むものの物理的な存在、そしてそれらのものと街、人々との間に生まれる対話が重視され、これに近年ブーム化までしているグリーン思想がやんわりと加わり、空想とエコロジーが合体した大スケールな展示となっている。

 

(左)Ai Weiwei, Web of Light (クローズアップ) @ Exchange Flags
(右)U-Ram Choe, Opertus Lunula Umbra [Hidden Shadow of Moon]@ FACT

このような路線のせいか、この展示ではアートと建築の境界線で活躍するクリエーターの存在が目立つ。その好例が、日本のアトリエ・ワン(Atelier Bow Wow)やアメリカのディラー・スコフィディオ+レンフロなどの建築家になる。前者は野放しにされた空き地に野外劇場をつくり、ビエンナーレの期間中そこで各種イベントが開催されるインフラを提供。他方、後者は、現代アートの新名所として注目のグリーンランド・ストリート脇の更地をグリーン化し、そこに機械仕掛けの「動く木」を植林するという風変わりな作品を発表し、今回の話題をさらっている。

これらの作品はみなスケールが大きく、欧州文化都市に華を添えるバブリーなムードがたっぷり。中でもその究極を行っているのが、市役所前の広場に高らかに掲揚された、アイ・ウェイウェイのクモの巣のような《Web of Light》だろう。広場目一杯に鉄製のワイヤを張り、その真ん中にクリスタルを散りばめた巨大グモを配し、夜になるとワイヤが稲光りする。いまにもメカゴジラが現われそうなくらいポップなところが笑えるが、その馬鹿でかいスケールには驚きを越えた畏怖を感じずにはいられない。

またスケールはやや小さくなるが、FACTの天井からワイヤで吊るされたチェ・ウラムの重量750キロの立体《Hidden Shadow of Moon》も間違いなく今回のハイライトのひとつ。コンピュータ・プログラミングにより外殻が軟体動物のように動くこの芋虫のような作品は、目を見張るほど微細で美しく神秘にも満ち、アートと新テクノロジーの高度なレベルでの融合を堪能できる。またこの他にもアネット・メッサジェトーマス・サラセノガイ・ベンナーデイヴィッド・アルトメイドサラ・ジーと、想像力逞しい世界観をもった作家が目白押しだ。

 


(下左)David Altmejd, The Holes @ Tate Liverpool
(下右)Richard Woods, Innovation-investment-progress @ Rapid Paint Shop


(上左)Yayoi Kusama, Gleaming Lights of the Souls @ Pilkingtons
(上右)Yoko Ono, Liverpool Skyladders @ St. Luke's Church

 

日本からは、前出のアトリエ・ワンに加え、草間彌生オノ・ヨーコの大御所二名がこの「MADE UP」展に参加している。前者の草間は、水と鏡を張った部屋に小さなライトをたくさん垂らし、流星群に囲まれたような眩い空間を演出。後者のオノは、リバプールの市民に呼びかけて集めた脚立を、空襲で中ががらんどうになった聖ルカ教会(St Luke's Church)のかつてネーヴだった場所に展示。《Liverpool Skyladders》と題され、観客に空を見ることを促すこの作品は、他の出品作に比べて恐ろしく控えめ。脚立の数が10台程度しかなくて、最初見たときには少しがっかりもしたが、雑草の生えた青空教会と脚立の組み合わせが見れば見るほどポエティックで、爆撃の跡地で空を見上げるという行為もまた感慨深く、今回心に一番染み入る作品だった。

また、この「MADE UP」とは別に、現地の国際美術団体ジャンプ・シップ・ラットに招かれて開発好明タムラサトル中村政人の三名がビエンナーレに参加しており、幸運にもお目にかかることができた。公開するや否や仏様が盗まれて地元紙で取り上げられた開発氏は、リバプールの町に教会が多い点に注目し、英国のシンボルとして親しまれている赤い電話ボックスを日本のお寺へと変貌。つけられたタイトルが《K2 Mini Kinkakuji (K2ミニ金閣寺)》[注:K2とはこの電話ボックスの型のこと]。私が通った時には電話ボックスの中はまだ空っぽのままだったが、その後に盗まれた仏像と花の飾りが無事に戻ってきたとか(詳しくはこちらで)。

一方、場所は変わり、セント・ジェームズ・ガーデンズ(St.James' Gardens)で発表しているタムラ氏の作品は、19世紀の英国の政治家で不運にも世界初の列車事故死亡者となってしまったウィリアム・ハスキソンへのオマージュ。かつて墓があった記念碑の天井に、稲妻のような閃光が走るインスタレーションを披露している。残念ながら足を延ばせなかったフローレンス・インスティチュート(Florence Institute)で開かれた中村氏のプロジェクトは、聞くところによると一日のみのパフォーマンス付きのワークショップだったようだ。

 

(左)Yoshiyuki Kaihatsu, K2Mini Kinkakuji @ Liverpool Town Hall   
(右)Tracey Emin, For You @ Liverpool Cathedral

この他にも市内各地で便乗イベントが開かれている。ライム・ストリート駅前のウォーカー・アート・ギャラリー(Walker Art Gallery)では、今年で25回目を迎える国内最大の絵画の公募展「ジョン・ムーアズ現代絵画賞」が開催中。日本育ち、ロンドン在住のピーター・マクドナルド氏が今年の大賞を受賞(行きの電車の中でばったり遭遇してびっくり!)。そのお隣のセント・ジョージズ・ホール(St George's Hall)では、イラク戦争で命を失った兵士の顔写真を使ったスティーヴ・マックイーンの切手アートが公開中(ちなみにこの作品は現在、国の正式な切手として採用されるよう署名を募集している。詳しくはこちらで。『美術手帖』10月号にも載っています)。

また、新たなアートのメッカとして注目の倉庫街グリーンランド・ストリートにあるAファンデーション(A Foundation)では、大学の最終学年を対象とした公募展「ブルームバーグ・ニュー・コンテンポラリーズ2008」、一時期ロンドンにも拠点を置いていたベルリンの作家集団アーティスト・アノニマスの個展などを開催中。また、セント・ジェームズ・ガーデンズ脇にあるリバプール大聖堂(Liverpool Cathedral)では、荘厳なステンドグラスの真下にトレイシー・エミンのネオンが飾られている(私が行ったときには子供向けの「ナルニア祭り」が開かれていて残念ながらネオンは消えていましたが)。

最後に、ビエンナーレの公式メニューではないが、ムーアフィールズ駅向かいにあるリチャード・ウィルソン《Turning The Place Over》が、ズバぬけて素晴らしいので紹介させてもらいたい。こちらはオフィス街のビルの壁を楕円形にくりぬき、そのくりぬいた部分を、これ用に特別に設計された回転装置を使って360度回転させるという、なんとも大胆で奇抜な作品。毎日、夜明けから日没まで、直径8メートルの楕円の壁が時々身を前に乗り出しながらぐるぐると時計のように回転。ロンドンからリバプールまで行きが電車で2時間半、帰りが4時間。地図を片手に見知らぬ街を歩いて回るのも結構シンドイものだが、ウィルソンのこれを頭上に見つけた瞬間、目から鱗、晴天の霹靂、棚から牡丹餅どれだか覚えてないが、「やっぱり来てよかった」と思った。今回一番のオススメです。

 


(左)Richard Wilson, Turning The Place Over @ Moorfields L2
(右)Steve Bishop's sculpture from Bloomburg New Contemporaries 2008

Liverpool Biennial 2008
リバプール市内要所で9月20日〜11月30日まで開催

Official Website:
www.biennial.com

Useful Links:
Tate Liverpool
FACT
Open Eye Gallery
the Bluecoat
Walker Art Gallery
A Foundation
Bloomburg New Contemporaries 2008
Novas C.U.C
The Independent 08
Jump Ship Rat
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