Roger Hiorns, Seizure
An Artangel / Jerwood Commission
Photo: Nick Cobbing



文: 伊東豊子(Toyoko Ito)

解体を待つばかりの廃屋のドアをくぐると、その先は深海か、
鍾乳洞か?はたまたは銀河系の彼方か?室内すべてが真っ青な突起物で覆われ、まるで生き物の体内のように艶々と濡れている。その先っちょは鋭利な刃物のように尖くて、粒もかなり大きい。天井の一角からはミラーボールのように丸い物体が下がり、床は月夜の雪道のようにシャーベット状。歩くと、入り口で借りたゴム長靴がジャリジャリと音をたてる。金鉱ならぬサファイア鉱の中のようだが、突起物の正体は硫酸銅の結晶だという。

こんな一風も二風も変わった作品《Seizure》が登場したのは、地下鉄ボロ駅からエレファント&カースル方面に向けて歩くこと10分。モスクやイスラム系の商店がならぶハーパー通り沿いにある、近く開発のために取り壊されることになっている集合住宅の一戸になる。会場となっている中庭に面した一階中ほどの室内は、わりと小さくて1DK程度。この部屋の天井に穴を開けて、水槽に水を張るように上の階から硫酸銅の水溶液を流し込み、10日間ほど放置してポンプで液を吸い上げたところ、結晶が床、壁、天井すべてにできていたという。

制作の段取りは、地元サザック・カウンシルの協力のもと展示場となる住宅探しからはじまり、業者を通じて劇薬指定の硫酸銅を大量に購入し、土木作業のような大掛かりな工事を経て結晶づくりに着手と大変な作業。その込み入った業務を監修した美術家のロジャー・ヒオンズ(Roger Hiorns)は、今回の硫酸銅をはじめ合成洗剤や殺菌剤などの化合物を用いて、化学現象を利用した一過性の作品作りで知られるロンドン在住の若手になる。2005年の国内巡回展「ブリティッシュ・アートショウ6」で発表した陶器から洗剤が泡となって流れ出る立体や、硫酸銅で覆われた車のエンジンなど、これまで比較的に小さな作品が多かったが、今回は一転して建築級のスケールに初挑戦している。

その裏方をサポートしているのが、ジャーウッド財団とアートエンジェルの二つの美術機関になり、実はこの作品はこの両団体が2006年夏に設立した、制作資金100万ポンド(約2億円)の大型企画を募るコンペ「Jerwood/Artangel Open」の受賞第一号になる。ご存知の方もいるかと思うが、前者のジャーウッド財団は立体、ドローイング、写真など媒体ごとに賞を設けて若手の育成に力を入れている美術支援団体。後者のアートエンジェルは、レイチェル・ホワイトリードの「ハウス」やジェレミー・デラーの「オルグリーグの戦い」など、伝説の域に達している名作を数多く生んできた美術企画団体になる。

このように資金、インフラ、技術などあらゆる点で作家個人のスケールを越えたなんとも大掛かりな作品。その内容も鉱物を用いるという奇想天外な発想。また場所も美術展のイメージから程遠い閑静な住宅地の中。すべてがユニークでマジカル。ロンドンに来られる方、ぜひお見逃しなく。


Seizure
Rober Hiorns
080903 - 081102
151-189 Harper Road, London SE1 6AE (map
最寄の駅は地下鉄BoroughまたはElephant & Castle
会場に着いたらまず係員に長靴を借りましょう!
www.artangel.org.uk


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