Loris Greaud: Cellar Door (Once is Always Twice), ICA, London, 2008.
All works courtesy the artist and Yvon Lambert, Paris & New York.
Photograph by Steve White.




黒いシャッターが下りた展示室を見て休館日と思われた方、ICAまでお戻りください。5秒もすれば、どこぞの秘密結社のアジトのように電動シャッターがするりと開き、甲高いオペラの歌声と一緒に、なにやら不気味なブラック・キューブへと通されます。部屋の中央には、人の頭を寄せ集めたような異様な物体がもこもこ、黒ミサの備え物のようにワイヤーで吊るされて存在。血糊のように黒いペイントが表面にへばりついていてなんだか悪趣味だが、よく見ると繊細な樹脂でできたランプであり、さらによく見るとところどころに振動版が埋め込められたスピーカーでもあり、このオペラを奏でる音源になっていることに気づく。まあ何とも妙なオブジェだが、奇妙な体験はそこで終わらず、次の部屋、その次の部屋へとつづく。おちを先に話してしまうと、限りなく同一に近い部屋がその先に二つ続き、パラレル・ワールドならぬトリプル・ワールドになっている。

《Cellar Door》と題されたフランスの作家ロリス・グレオーこの作品は、実はまだ現在進行中のプロジェクトだそうで、本展のほかに、この冬にパリのパレ・ド・トーキョーで開催された彼の展覧会と今年年末に予定されているパリ・オペラ座での公演、さらにパリに現在建築中の作家本人のスタジオの4部を持って完結するのだとか。これらが一体どう繋がるのかは筆者には不明、正直言って本展の意味の方もさっぱりだが、面白いことにその不可解なところにグレオーの最大の魅力があるように感じる。黒魔術のような空間とオブジェと音楽が、リピートという非現実的な現象と一体になって狂気へと向かうその徹底した世界観。怪奇映画やSF小説のなかに足を踏み入れたような異様な体験。この手の大型の体感型インスタレーションアートが別に新しいわけでは決してないが(ヘイワードギャラリーの今の展示がよい例)、プロセスを合言葉にモノからの離反が進み政治活動家のような作家が評価を受けている今の英国のアートのトレンドと照らし合わせると、それに対抗するイマジネーションという名の爆弾のようでいて小気味がいい。

このグレオー、まだ20代の若手だそうだが、フランスアート界では「久々のプリンス」登場と持て囃されている期待の新星だとか(『美術手帖』2008年6月号P94三木あき子氏のレビューを参照)。非常に多才な作家のようで、実験映画のスタジオを設立したり、音楽レーベルをプロデュースしたり、建築家らと一緒にプロジェクトを実現する会社を設立したりと、他方面で活躍しているようだ。また、今回も、このインスタレーションの制作のみならず、その中のオペラで使用されたリブレット(台本)を書いたり、カフェに設置されたお菓子用の自動販売機を作ったりと、その制作の幅もなんだか妙に広い。一袋1ポンド50ペンス(約300円)で売られていたそのお菓子は、「味はご自由に想像してください」との動機から、何も味がついてない代物だそうだが、私もそこまで物好きにはなれない。ありがたく遠慮しておいたが、久々に面白い作家に出会った。

Loris Creaud
080425- 060622
ICA


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