Thomas Scheibitz, The Yellow Kid, 2007
Courtesy the artist; Tanya Bonakdar Galler, New York; Monika Spruth & Philomene Magers, Cologne, Munich, London; Produzentengalerie, Hamburg: VG Bildkunst, Bonn



文:伊東豊子(Toyoko Ito)

2005年のヴェネツイア・ビエンナーレでドイツ館代表を務め、ここロンドンでもサーチ・ギャラリーの「絵画の勝利:パート2」展などで紹介されてきたベルリンの作家、トーマス・シャイビツの個展がカムデン・アーツセンターで始まった。ヴェネツイアでは色をつけた巨大な立体物を積み木のように配置した大道具風の作品で話題をさらっていたが、その風変わりな個性は今回も健在。

絵画と立体、写真で構成された展示は、カンディンスキーやジョアン・ミロもうなずく円や三角、立方体などの抽象フォルムの楽園。これらの図形がキュビズムのような複雑な構図を展開し、絶妙なバランスを見せているのだが、よく見れば見るほど何かが引っかかる。この違和感は何だと指摘できるほど明らかなものではないが、画中の幾何学模様がどうかすると人や物のようにも見えなくもなく、またその独特の表現がどことなく漫画やイラストを思わせるところもあり、見ているうちになんだか愉快な気分になってくる。つまり、抽象画にしては妙にポップなのだ。

このポップさは近年より力を入れている立体において一層顕著になる。こちらも同様に幾何学模様に溢れているが、「人」という文字や天体儀を思わせる記号調の立体や、ガラスケースの中の作品のみならず台座の部分までもが作品の一部になったディスプレー棚風の立体や、ボール紙でつくった建築模型図など、デザインミュージアムの展示室に似合いそうなオブジェもどきのような作品が並ぶ。

抽象画というオーソドックスな表現を選びながらも、伝統絵画はもとより映画、雑誌、新聞、漫画、広告、デザイン、建築とビジュアル・カルチャー全般にインスピレーションを求め、また、デジカメでありとあらゆるものを撮りまくる記録マニアでもあるという。展覧会のタイトルは19世紀の元素周期表と「ジャングルでの死」を意味するフレーズとの組み合わせ。意味の方はさっぱりだが、別にそれでもいいような気もする。抽象画がリキテンシュタイン化している不思議な感覚と、今にも踊りだしそうな躍動感だけで満足感を味わえる。惜しむらむは、写真で紹介されているシャイビッツのスタジオの光景が、ここでは実現されずにお預けになっていること。記号のような平面と立体が次元の法則を破るかのように複雑に入り混じるワンダーランドのような制作の現場。あそこにこそ足を踏み入れてみたかった。


Thomas Scheititz
(上)Sir Louise M. 2007

(下)Landschaft bei Genual 2007

Courtesy the artist; Tanya Bonakdar Galler, New York; Monika Spruth & Philomene Magers, Cologne, Munich, London; Produzentengalerie, Hamburg: VG Bildkunst, Bonn

Thomas Scheibitz
about 90 elements / TOD IM DSCHUNGEL
080222-080420
Camden Arts Centre


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