Anthony McCall
You and I, Horizontal, III 2007 ,
Solid light installation
Courtesy the artist and Sean Kelly Gallery, New York, © ;2007 Anthony McCall


文: 伊東豊子(Toyoko Ito)

憂鬱なロンドンの冬。日照時間が短いうえに、日が明けようが明けまいが変わらない空模様がつづき、そのおかげで「冬季うつ病」なんて言葉をちらほら耳にするこの頃だが、そんな灰色の街にしばしの恵みが到来。サーペンタイン・ギャラリーに英国人作家アンソニー・マッコール(Anthony McCall)の光のシャワーが登場し、来場者を覚醒力に満ちたワンダーランドへと導いている。

マッコールのスペクタクルなライトショーは、会場奥の3室を使って展示中。霧がぼんやりと室内に漂うなか、光のヴェールが幾何学模様を描きながら薄っすらと広がり、その中に来館者の姿が一つ、二つと、影になって浮かんでみえる。乳白色で半透明の光の束は、まるで絹のように滑らかで、思わずつかんでみたくなるが、それはもちろん無理なこと。その縁に触れた瞬間、闇へと変わってしまう。光のその有るようでいて無い希薄な存在が不思議で、手をかざしたり、頭を突っ込んだりして、戯れずにはいられない。

総称して『Solid Light Installation』と呼ばれるこれらの一連の作品は、一見、高輝度の電球のみでできた作品のように見えて、実は映像の原理を用いたインスタレーションになっている。つまり、ビデオプロジェクタを用いて、向かいの壁に「映像」を投影しているわけだが、映像とはいっても実写映画のようなものではなく、線状化された光が壁にダイレクトに像を描く、いわば「光で描いた動くドローイング」になる。それを投影する際にプロジェクタと壁の像との間に生じる投影光を、霧の粒子に反射させることによって最大限に視覚化したのが、上で説明した光のヴェールの部分になる。つまり、来場者が包まれていた光の幕は、プロジェクターから発された光線だったわけだ。


Anthony McCall
You and I, Horizontal, III 2007
Installation view at Sean Kelly Gallery, New York, 2007
Solid light installation
© 2007 Anthony McCall, Photograph Steven P. Harris


今回の個展では、この『Solid Light Installation』シリーズから3点を展示。そのうち2作はデジタルテクノロジーを駆使した近作になり、数学者フィリップ・オーディングが書いた公式を出発点にそれを図式化、ストーリーボード化し、特殊コンピュータプログラムを用いてデジタル画像化されたものをビデオプロジェクタを用いて投影。他方、シリーズ第一号である残りの一点は30年以上も昔の作品になり、16ミリフィルムを用いて同様の効果を作り上げた、いわば映像による三次元立体表現の走り的存在の作品になる。

さて、このアンソニー・マッコールという作家、日本ではまったくの無名かと思うが、実はここ英国でも知る人ぞのみ知るといった存在になる。しかしながら蓋をあけてみると、グラフィック・デザインに移行した20年というブランクを挟みながらも、そのキャリアは30年以上にものぼる。活動の領域は前衛フィルムになり、60〜70年代にここにあったロンドン・フィルムメーカー・コーポラティブの主要メンバーとして活動し、火や風などを使ったグループパフォーマンス映像を当時幾つも制作している。今回その中から、可燃性素材を入れた何十もの皿に火を点火していく屋外パフォーマンスの収録映像『Landscape for Fire』など3点が展示されているが、そのシンプルかつシステマティックな構成、屋外での自然のモチーフを用いた作風に、当時のハプニングやランドアート、ミニマリズムの影響が窺えなかなか見ごたえがある。

マッコールはいまでは若手の映像作家の間でカルト的存在として崇められているそうだが、この展示を見ればそれにも納得。映像についての深い知識と経験はさることながら、それを二次元部の像と、三次元部の映写光に解体し、「見る」を超えた体感度の高いインスタレーションアートへと変貌させるその発想と手腕には目に見張るものがある。また、プロジェクター、コンピューターといったメディアアートの道具に火、霧、光といった自然素材を組み合わせる柔軟さもとても今風だ。同じ領域の作家として浮かぶのがジェイムズ・タレルやオラファー・エリアソンら今の体感アートのグルになるが、なんとマッコールはエリアソンの30年近くも前にその分野を開拓している。本展はそんな先駆者の傑作が見れるまたとない機会。ロンドン組みの方お見逃しなく。


Anthony McCall
071130 - 080203
Serpentine Gallery


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