Santiago Sierra
21Anthropometric Modules Made from Human Faeces by the
People of Sulabh International, India, New Delhi | Jaipur, India 2005-2006
20 modules of human faeces and Fevicol


文&写真: 伊東豊子(Toyoko Ito)

アートバブルに乗るとクソまでもがアートになるのか……。いきなり下世話な話題で申しわけないが、アニッシュ・カプーアやリチャード・ディーコンなど英国の大御所を多数抱える老舗画廊のリッソン・ギャラリーが、人糞スカルプチャーを売っている。

シングルベッドサイズの排泄物の板が全部で20枚。固形化および運搬用に使われた木箱から出したままの状態で、52〜54番ベル・ストリートの展示室全室に鎮座。そのミニマルな形状とどっしりとした存在感、墓地を思わせるような配置はクソながらも圧巻で、どことなく神聖でさえあるくらいだ。

制作者はスペインの悪名高き作家サンチアゴ・シエラ(Santiago Sierra)になる。インドで低コストの水洗トイレの開発/導入を行っているNGO、スラブ・インターナショナル(Sulabh International)との共同プロジェクトになり、ニューデリーで回収された排泄物が素材に使われている。

水洗トイレの普及が滞っているインドには、「scavengers」と呼ばれる汲み取り作業員が現在約100万人もいるらしく、その回収作業は21世紀とは思えぬほうきと塵取りを使った手作業、さらった排泄物を頭上のバスケットに入れて運ぶ方法がとられている。しかし、その原始的な運搬方法は、雨が降ろうものなら全身糞まみれ、よって衛生上の問題による疾患や危害が発生し深刻な社会問題になっている。

今回シエラが使った排泄物は、彼ら清掃夫が回収した汚物になる。三年間の乾燥プロセスを踏んだあと、フェヴィコルという物質を混入して型に入れて現在のように固形化。一部の報道によると、実際の作業はすべtスラブ・インターナショナルの取り仕切りのもと行われたそうで、シエラ自身はノータッチ。清掃夫に報酬は支払われてないという。

その無償の汚物処理による産物が、シエラの介入によりアートに格上げし、英国の一流ギャラリーで取り扱われている。さすがに金額は教えてもらえなかったが、すでに全点まとめて某財団に売却済だそうで、そんなことを聞くと、まさにこれこそアートという大義名分のもと行われた搾取ではないのかと感じなくもないが、資本主義経済を事実上支える搾取というものを、制作のテーマのみならず方法論として用いている作家にそんなことを言っても始まらないし、そもそも彼が使った素材にしても商品価値がないどころか衛生問題になっている排泄物だ。ニューデリー側としては万々歳だろう。

 

Santiago Sierra
29 Bell StreetでのFour Black Vehicles with the Engine Running inside an Art Galleryの展示風景

シエラの作品は写真、映像からスカルプチャー、パフォーマンスまで多岐にわたるが、その主な共通項といえば、お金で人を買ってアートにするという点になるだろう。闇商人133人を集めて60ドルあげる代わりにその髪を金髪に染めたり、失業者6名にお金をあげて消さないという条件のもと彼らの背中に刺青をいれたり、一般人10名をお金で買って公の場でマスターベーションをさせたりと、世の中にある搾取行為を実演することによってその存在を浮き彫りにしている。

また、そのテーマも搾取のみならず人種差別や公害問題など社会問題全般に渡り、前々回の50回ヴェネツイア・ビエンナーレでスペイン館代表を務めたときには、スペインのパスポート所有者のみ入場可能という制限を設け、世の中に存在する国籍よる差別問題を実践をもって明らかに。一方、今年2月にはベネズエラのカラカスで、公営ギャラリーの室内に車4台を置き、エンジンをふかして、その排気ガスをギャラリー内に張り巡らしたパイプを使って屋外に排出するという、公害に更なる公害を加える作品を発表している(この映像とパフォーマンスに使われたスカルプチャーの一部が29番ベル・ストリートで展示されている)。

このように「問題作」が多いため、シエラの展示は発表直前や途中で中止になるケースが少なくないようだが、それにしてもひと頃までオルタナティブ系のギャラリーでしか見れなかったこの手の「売れない」作品が、リッソンのようなハイソな画廊で扱われ、しかも売れているとはアート業界も売り手買い手共に随分進歩したものだ。可愛らしい自前の糞の缶詰で有名なあのスカトロ・アートの巨匠ピエロ・マンゾーニも真っ青であろう。


Santiago Sierra
071130 - 080119
Lisson Gallery


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