Thomas Schutte, Model for a Hotel, 2007
The Fourth Plinth Programme
Trafalgar Square


文・写真:伊東豊子(Toyoko Ito)

ロンドンの観光の名所、ネルソン提督碑がそびえるトラファルガー広場で先週、ドイツの美術家、トーマス・シュッテによる待望のパブリックアートが公開された。マーク・クイーンの両腕のない妊婦像に替わって「第四の台座」に鎮座したのは、オレンジ、黄色、ブルーの硝子の板が抽象模様をえがく立体彫刻。どうやらホテルの設計案を模型化したものらしく、「Model for a Hotel」と題がつけられている。

台座を軽やかに飾る約8トンの作品は、光をふんだんに通すだけでなく、眺める角度によりその形状が微妙に違ってみえる工夫の力作。その色鮮やかな風貌は、岩に添えられた一厘の花(造花)のように見えなくもないが、その美しさに反しロンドンっ子の反応はすこぶる辛い。この場にそぐわない、意味がわからない、チャチ、税金の無駄遣い……といった厳しい言葉が新聞の展評欄をにぎわしている(噂によるとこの作品の制作費は270,000ポンド、約6千万円だとか)。彼らほど辛くはないが、私が受けた印象も実を言うとかなりの興ざめで、トラファルガー広場にホテルの模型図という組み合わせの意図からしてまずわからない。綺麗だけど何を考えているのかわからない美人と会話をするようなストレスを感じる。

トラファルガーの海戦勝利を祝って敷設されたこの広場には、その四隅に台座がある。そのうち3つにはジョージ四世やヘンリー・ハブロック総督など英雄の彫刻が奉られているが、この最後の台座だけは、19世紀にウィリアム四世の騎馬像設置の計画がお流れになって以来ずっと空のまま。その空いたスペースを現代アートの展示に活用しようと生まれたのが1999年に発足したこの「第四の台座」プログラムになる。以来、今年のターナー賞候補者でもあるマーク・ウォリンジャーを筆頭に、ビル・ウッドロー、レイチェル・ホワイトリードなど英国のトップアーティストがこれのために特別に作品をつくり、大衆の理解を超える斬新さが時に話題を振りまいてきたが、2001年に一連のプロジェクトが一旦終了。その後、故ダイアナ妃やネルソン・マンデラの記念碑設置の話などが持ち上がったが、これもお流れになり、ロンドン市長のケン・リヴィングストンの提唱のもと同プロジェクトの第二弾が2005年秋に再開した。

今回のシュッテはその第二弾の作家のなかの二人目になるが、いまの美術家の多くとおなじで作品についてあまり語らない。今回もコメントがほとんど出ていないので解釈は見る側の勝手ということになるが、どこかにパブリック・アートのパロディーではないかと書かれているのを読んだ。つまり、世界あちこちの広場にある、その場の居心地をよくするムードメイカーのような彫刻のことになるが、そう言われてみるとシュッテのこの作品はその特徴をうまく抑えている。適度に綺麗だけど深い意味はない。しっかり存在するんだけど無視できる程度の個性。周囲にそれとなく溶け込んで不快感を与えない。この四番目の台座自体がロンドンでも超一流のパブリックアートの舞台になるので、それを揶揄する作品はテーマ的にもあっているのだが、冷めた作品を見ていると何となくこちらの気持ちまでしらけてくる。曇り空の下、光の射さぬガラス板を眺めるのも何となく寂しい。お向かいのナショナルギャラリーでルネサンスのステンドグラス展を見て過ごす方が心地よいかもしれない。

Thomas Schutte
The Fourth Plinth Programme
Trafalgar Square, London
2007年11月7日より18ヶ月間展示


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