The Working Class Goes to Paradise 2000-6




今年のテート・トリエンナーレで目立つのが、映像、音楽、舞踏などクロスメディアな表現として再評価が進むライブ・パフォーマンス。参加者35名中、4名がこれのみで参加、常設型のティノ・セーガルを含めると5名になる。さっそくその第一弾として今月1日、マンチェスターのアングラミュージックシーンの女王、リンダーのパフォーマンスが開催された。18世紀の宗教儀式をエレクトロニクスサウンドで包んだ異様な世界が、リンダーと12名のダンサー、インディーズバンド3組によって二時間に渡って繰り広げられた。

会場に入ると、普段はギリシャ神殿のように澄みきったデュヴィーン・ホールが、艶っぽい朱色に染まっている。大きな楕円を描いて並んだミュージシャンらが倦怠感のあるアンビエントな音をたてるなか、黒装束に身を包んだダンサーらが一列に並んで観客の間を縫うようにゆっくりと歩く。一歩進んで静止して、物乞いをするように両手を出す。その手を胸の前で交差して一礼、そしてまた進む。ノンストップでうねる音に乗って、操り人形のようにこれを果てしなく繰り返す。



The Working Class Goes to Paradise 2000-6


パフォーマンスのクライマックスは閉幕30分前、会場の隅でずっとメイクアップをしていたリンダーが、キリストの再来とも受け取れる長髪、ヒゲ面の教祖に扮して登場する場面。マイクをもって床に座り込み、狂ったように身をもだえながら、愉悦と苦悩の入り混じった絶叫を長いこと披露。やっと起き上がったかと思ったら今度は腰を小刻みに振る何ともいかがわしいポーズで、罪を清めるようにダンサーひとりひとりの身体に触れていく。

そう、まるで、怪しげなアングラ教団のパロディーってところだが、パンフレットを見てそれにも納得。というのはこの作品、マンチェスターで18世紀に結成されて後にアメリカに布教の場を移した、身体を振る独特なダンスゆえにそう呼ばれるようになったシェーカー教団のそれを基にしているとか。

この教団は現在もアメリカのメイン州にひっそりと存在するが、その古い儀式を掘り起こし、「The Working Class Goes to Paradise(労働者階級はパラダイスに入る)」とエリオ・ペトリの71年の映画『労働者階級は天国に入る』を連想させるタイトルをつけ、かつての労働者の街マンチェスターのミュージシャンとダンサーを使って、工場労働者だった教祖アン・リーが築いた教団の儀式を演じる(ちなみに映画の主人公も工場で事故にあってから人生の歯車が変わる)。セクシーでタブーに満ちたスペクタクル劇の裏に、パンクミュージシャン、フェミニストとして活動してきたリンダーの政治的側面を窺うことができる。



The Working Class Goes to Paradise 2000-6

さて、このリンダーだが、若い世代にとっては「誰?」って感じだろうが、実は70年代後半から80年代前半にかけて存在したポストパンクのバンド、ルーダス(Ludus)のボーカルだった女性という意外な一面がある(当時はリンダー・スターリングと名乗っていた)。ファクトリー・レコーズやハシエンダなどで盛り上がった当時のマンチェスターのアンダーグラウンドシーンに君臨したディーバのひとりだったようだ。

そしてそのバックグランドのせいか、美術家としての作品も音楽絡みが多く、モリッシーなどミュージシャンのアルバムカバーを結構手掛けている。なかでも有名なのが、バズコックスの『Orgasm Addict』(1977)用につくったコラージュで、ヌード姿の女性がガッツボーズをとるように両腕を上げたこの作品では、女性の頭部がアイロンに、乳首が歯をむいた女性の唇へと置き換えられていて、何ともシュール。オリジナルはフルカラーで制作されたが、アート・ディレクターのマルコム・ギャレットによってに青一色に単色化され、よりグラフィカルになってカバーに使われた。今回のトリエンナーレでは残念ながら展示されていないが、デザインミュージアム三階の「Designing Modern Britain」で紹介されているので興味のある方は足を運ばれてみては。

Linder: The Working Class Goes to Paradise 2000-6
4月1日にテート・ブリテンにて催された

Tate Triennial 2006: New British Art
060301 - 060514

 


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