テート・モダンが氷河期に突入? いや氷河期とはいっても、7月のテロ以降来館者数が激減しているというビジネス側の寒い話ではなくて、昨日タービンホールで公開されたレイチェル・ホワイトリードの氷山のようなインスタレーションの話。

今年の春に、「氷点下30度の北極圏を歩く」という極寒プロジェクトを展開したホワイトリードなだけに、この「雪景色」はいかにもロジカルな結果だが、その正体は意外にも段ボール箱を模ったポリエチレン製のキューブ。その数なんと1万4千個、容積にして1,437立方メートル。高さは一番高いところで12メートルで、搬入のために使われたトラックは40台とか。

 

 

「段ボール箱はユニバーサルなもの」。そう語るホワイトリードがこれを思いついたのは、母親の遺品を整理していたとき。その昔は自分のオモチャを、のちにはクリスマスの飾りをしまっていた色あせた段ボール箱を見つけたのがその始まりとか。それ以来、思い出の箱としての素質を秘めながらも、普段は運搬のための道具、物以下の存在として無視されている段ボール箱に注目するようになり、街を歩いて撮影をしたりしながら10種類の箱をこの作品用に選んだ。

そこから第一歩が始まった彼女の作品は、英国一の規模を誇る『ユニレバー・シリーズ』の先人たち、去年のブルース・ナウマンや一昨年のオラファ・エリアソンに負けずとも劣らぬ、巨大空間をみごとに制覇したスペクタクル劇。雪山を切り開いたように通る迷路のような道。少しでも振れようものなら雪崩を起こしそうな山、触るとひんやりとしそうな乳白色のキューブ。うっすらと透けたその中をやさしい光が通り、すべてが別世界のように不思議に満ちている。

 

 

そしてこの作品のもうひとつの楽しみが、二階からの眺め。中に入っていたときには見えなかった複雑な地形を一望することができる。ロマンチックな白銀世界が、一歩引いたところから見ると、量産された箱がいまクレーンで降ろしましたとばかりに大量に雑然と置かれ、まるでどこかの倉庫や工事現場のよう。タイトルも『Embankment(堤防)』と「現場」調で、まるで使って下さいとばかりに目の前にはテムズ河が流れている。

これまで貯水タンクや家まるごと一軒など巨大な「入れ物」を対象に、対話を拒絶するかのように石の塊のような作品をつくってきたホワイトリードだが、段ボール箱という粗末な「入れ物」 に向くことにより近寄りやすくなった。粗末を数で補った結果、過去最大の作品になったが、外から眺めるだけの塊が私たちを迎え入れるオープンな世界へと変わった。氷河期に突入したようにみえて、実は雪解けの始まりなのかもしれない。

 

 

The Unilever Series: Rachel Whiteread
ENBANKMENT
Tate Modern
10月11日〜2006年4月2日まで


10月19日〜11月3日までGagosian, Brittania St.でレイチェル・ホワイトの個展が同時開催される


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