カメラ搭載のロボット、インターネット、携帯電話…とハイテク・ジャパンを強調するプレスリリースを目にしたときには、日本のアートが秋葉に要約されてしまうと焦った。そう思ったのにはここ数年英国でみかける日本のアートが、マンガやハイテク、消費大国じゃなければセックス大国というステレオタイプにはまったものが多く、美術展がばら撒く偏った日本のアートのイメージに苛立ちを感じていたからだったが、そんな心の内が通じたのか、FACT(Foundation for Art and Creative Technology)のディレクターのケリ・ハンドはこう言う。

「今回の3組にはある独特な匂いというか、共通した冒険スピリットのようなものがあると思うんです。すべての作品にプログラミングが含まれていて、実際そのプログラムによって作品が実現しているので技術的なのは確かなんですが、でもそれと同じくらい美的でもありパンク精神も感じられ、私には画期的なアプローチに思えるんですね」。

そう言われれば、この「Rock the Future」展には、型破りなパワーとともに感覚のスイッチをひねられたときに感じるような不思議があふれている。物や空間使いも如才なく、それぞれが色で統一されているため展示室に入るたびに別世界に入ったような気分になる。また、プログラミングやリアルタイムの撮影・画像編集など高度な技術が使われているわりには目立たず、ハイテクという感じがあまりしない。


「日本のファンキーなアーティストが未来を揺るがす構図」。そんなシーンを思い浮かべながら構想が練られたという本展の出品者は、日本のメディアアートの最先端を突っ走る、るさんちまん、exonemo、クワクボリョウタの三組。展覧会のキュレーターでもあるケリさん自身が今年1月に日本に赴き、東京のICCや森美術館、山口のYCAMなどの美術館を訪ねて選んだという。

「彼らの作品にはある種の楽しさや遊び心があるとともに、物を買っては捨てるといった私たちの使い捨て文化や消費のし方を風刺するような問題意識があると思うんです。私が魅力に感じたのは、彼らがそれを受け入れるのと同時に問題視し、拒絶もしているという点なんです。身近な物を使って行った分析のように感じるんですね」。

ケリさん曰く、日本の作品は大衆文化との接触を恐れない娯楽性の高いものが多いが、英国では政治的なものが目立つとか。英国でテクノロジーとアートとの融合というと、90年代に盛んになったネット・アートの存在が大きいが、これも社会的問題に関心を促すなど政治的なアングルが強かったという。もちろんこの違いには国民性による文化的相違が大きいかと思うが、やはり技術の浸透具合も除外できないようだ。


「日本は携帯電話やPDAといったガジェットから地下鉄のなかのテレビまで、テクノロジーが文化の隅々にまで浸透していますが、英国ではやっと始まったばかりなんです。例えば、デジタル作品を紹介するNHKの人気番組『デジタル・スタジアム(デジスタ)』のような番組もここにはありませんし、メディアアート専門の機関も日本にはICCとYCAMと二箇所にありますが、ここはFACTだけなんです」。

トイレにまでアンビエントなサウンドが流れるここにいるとそう悪くも思えないが、確かにここは別格だ。20億円をかけて二年前に完成したこの建物は、映像作品の展示のために設計されたその種では英国初の専用ビルだし、建物内には同じく国内唯一という美術館向けに映像機器の提供と技術支援を行っている機関マイツ(MITES)が入り、英国最大のインディペンデント・シネマ、ピクチャー・ハウスの映画館もあり、国内でも類を見ない映像王国となっている。

「FACTがコミッション機関として設立してからすでに17年が経ち、その間にヴィデオやフィルムを見せる美術館がたいぶ増えましたが、それでもまだ一部に限られていると思うんです。また、そういう美術館にしても、急速に変わっていく技術についていけず、実は苦戦しているところが多いんですね。なのでそういう美術館への技術的サポートも私たちの仕事のひとつなんです」。


普段、美術展を通してでしか美術館というものと接しない私にとって、美術館のこういう裏の活動は見えないだけに興味深い。映像をインスタレーションに取り込むアーティストが増え、或いは今年のヴェネツィア・ビエンナーレのように映像が他の媒体を押さえ主流になっているのを見ると、わざわざ「メディアアート」と分けること自体が古臭く感じられ、こういう専門機関が必要なのだろうかと疑問に思うこともあったが、現実にはだからこそ必要なのかもしれない。

そう思うと最近ネットで知ったICC閉館の噂が残念に思え、同種の機関のディレクターであるケリさんの意見を聞いてみたくなった。残念ながら全くの初耳だったらしく、大きな驚きで終ってしまったが、アーツ・カウンシルなどから助成を受けて運営している公的機関のFACTではまず考えられないこと、英国には民間企業が運営する主要ギャラリーがほとんどないことなどを聞き、改めて国の違いを感じた。

結局、日本のアートが秋葉に要約されるという私の懸念は取り越し苦労に終わり、代りに日本の作家と英国の美術館の息のあったコラボを目の当たりにして帰ってきた。ケリさんは何も言わなかったが、今回の展示ではFACT側が英国の鑑賞者と日本のアーティストの距離を縮める努力をだいぶしていたようだ。るさんちまんのリヴァプールの人から物を寄付してもらうという高橋知子風のアイデアも、クワクボリョウタの展示室を青く塗るというイヴ・クライン風のアイデアも美術館側からの提案だったという。まったく新しい世界に触れるのはもちろん新鮮だが、自分が理解できる取っ掛かりがあるのは鑑賞者にとって有難いものだ。お陰様で私もかなり入り込めた。

Rock the Future
050826 - 051030
FACT (Foundation for Art and Creative Technology)
88 Wood Street
Liverpool
L1 4DQ
Tickets & Information: 0151 707 4450
www.fact.co.uk

出品作家:
クワクボリョウタ
るさんちまん
exonemo



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