テロのおかげでだいぶ前のことのように感じる。実際、かなり時間も経ってしまったが、翌週にスコットランドでのG8サミットを控え、ハイドパークに20万人の観衆が集まったライヴ8の当日。イングランド東部の街ノリッチ(Norwich)で初の国際現代美術際「CAN05」が開催されると知り、その鑑賞ツアーに参加させてもらった。

50人を越える業界関係者が集まったツアーは、ノリッチへの玄関であるロンドン・リバプールストリート駅前のグレート・イースタン・ホテルからスタート。ここで一時間ほどグループ展を見たあと、電車でノリッチ入りし、バスでセインズベリー視覚芸術センターノリッチ城イースト・インターナショナルの会場と順に見てまわった。以下はそのレポート。

STAY @ Great Eastern Hotel

まずはヴィクトリアン建築とテレンス・コンランの美学がひとつになったグレート・イースタンホテルで、グループ展「STAY」を鑑賞。美術鑑賞をしながら自慢のインテリアを見て歩くとでも言うように、ロビーからかつてのフリーメーソンの会合部屋まで、建物の随所に作家11人の作品が忍び込まされていた。


(左)リンダル・フェルプスの壁紙があしらわれたホテルの吹き抜け部分。(右)クリス・ウッドの光の反射を巧みに利用したガラスのスクリーン。しま模様の正体はガラスの裏に置かれた水の入ったワイングラス。


コンランへのラブコールなのか、ほとんどの作品がホテルの一部になってしまったようなしっくり具合。入口にはレオ・ヒラー(Leo Hillier)のマンガ調のイラストが施されたコーヒーテーブル。ロビーの吹き抜け部分には、リンダル・フェルプス(Lyndall Phelps)のウィリアムモリス調の花柄模様の壁紙。その横の壁際には、クリス・ウッド(Chris Wood)のワイングラスを隠し並べて作ったスクリーンと、インテリアに同化したものが目立っていた。

しかしそうは言ってもやはり現代美術展、お行儀のよい作品ばかりじゃない。リチャード・デドメニチ(Richard Dedomenici)は、英国政府が81年に制作した非常事態発生時の生存ガイドラインに沿って客室を核シェルターへと変え、水とベイクドビーンズの缶詰をかてに二週間篭城生活をするというパフォーマンスを展開。一方、その隣りの部屋ではジョバンナ・マリア・カセッタ(Giovanna Maria Casetta)が、ドアの覗き穴から中を覗くと、カップルの情事のシーンが見えるというホテルに相応しい作品を披露。このカセッタ、翌週にオーロラの階段でディオールめいたドレスを着てパフォーマンスをすることになっていたが、あのテロ騒ぎのなか一体どうなったのだろうか(写真トップ)。

Out There @ Sainsbury Centre for Visual Arts

電車に二時間揺られノリッチ入りした後は、バスでセインズベリー視覚芸術センターへ。去年の8月から改築が始まったここは、来年春のオープンに向け現在工事のまっ只中。今回の展示は、閉館中のセンターがブラジル、インド、オーストラリア、日本などの国々からアーティスト8名を招き、センターを囲む広大な緑地帯を使って行われていた。


(左)クリス・ドルーリーの枝を螺旋状並べた作品。(右)エル・アナツイの材木を積んだ立体。

 


(左)ボグダン・アキメスの家具入りテント。(右)マチコ・アガノのフルーツ付きカーテン。

三週間のレジデンシーの結果として発表された作品は、天然素材を用いたランドアート系が主流。木の幹と枝を芝生に並べて作ったクリス・ドルーリー(Chris Drury)の迷路は、ストーンヘンジの国らしく原始的な素材のなかに神秘的なルールがのぞく古代遺跡風。ヘイワードギャラリーの「アフリカ・リミックス」にも出品していたナイジェリアのエル・アナツイ(El Anatsui)は、色さえ塗ってなければ見過ごしてしまいそうなくらい自然な丸太の山。

一方、これらのナチュラル派に対し、日本のマチコ・アガノ(Machiko Agano)とポーランドのボグダン・アキメス(Bogdan Achimescu)は、人工素材で違和感を演出。果物のヴェールが枝からのびるアガノのインスタレーションは、この場に合っていながらも果物はキッチュなプラスチック製。モンゴルの遊牧民にヒントを得たアキメスの作品はレースのテントを使ったものだが、中にはベッドやテレビなど定住型の家具。一体、雨が降ったらどうなるのだろうかと考えてしまった。

East International 05 @ Norwich Gallery

鑑賞時間が20分しかなかったノリッチ城の展示は割愛し、この日のハイライト、イーストインターナショナル05の会場ノリッチ・ギャラリーへ。マーティン・クリードやジェレミー・デラーなどターナー賞作家を輩出しているこの公募展は、多くの若手作家が一度は当って砕けている美術界への登竜門的存在。選考者によって毎年傾向が変わるのが特徴で、公募展ながらも企画展のようなテーマ性をもった展示として国内でもユニークなポジションを占めている(ちなみに海外からの応募も可)。

今年の傾向は、破壊芸術の提唱者として知られるグスタフ・メツガー(Gustav Metzger)が選考を努めただけあって、アンチアート剥き出しの「タカ派」。現代メディアとテクノロジーを駆使し、従来の表現に留まらない自由な発想とメディアを好むとともに、政治色の匂いたつ「活動」めいた作品が目立っていた。


(左、右) キャット・ピックトン・フィリップスとピーター・ケナードの作業部屋兼インスタレーション。



(左)デイヴィッド・バロウズとサイモン・オサリヴァンのマンガとそれを使ったインスタレーション。(右)JJチャールズワーストとムスタファ・ヒュルシのパフォーマンス。


まず特筆に値するのが、キャット・ピックトン・フィリップスとピーター・ケナード(Cat Picton Phillipps & Peter Kennard)のペアによる、美術展なのか政治活動なのか分からない展示。地下の薄暗い作業場には、ネットからダウンロードしてその場でプリントされたブレアやブッシュの顔写真付きの穏やかじゃないポスターが至る所に貼られていたが、見せるだけに留まらず、「週末にG8サミットにもっていって、抗議デモをしている人たちに配るんだ」とケナード氏。

このような政治とアンチアートの組み合わせは他の作家にも顕著だったが、その多くがマンガを開けたら中はがちがちの学術書といったような似非ポップ路線を採用。その好例がデイヴィッド・バロウズサイモン・オサリヴァン(David Burrows & Simon O'Sullivan)の若手ペアで、ゲリラグループの活動とマニフェストをカブカル色の強いコミックとして表現。同様のスタンスはマーク・ウィルシャー(Mark Wilsher)の作品にも通じ、机のうえにモニター一台とマーティン・ルーサーキングの演説文のコピーがたった一枚、憮然と置かれていた。これと一緒に行う予定のパフォーマンスを見逃したので何とも言えないが、本をコピーしただけの紙切れを見て「?」と思ったのは筆者だけではないだろう。


(左、右) 中山かおりの映像インスタレーション。光の玉が現われては消えるこの不思議な作品は、ガラス板を鉄球で破壊していくシーンを映像に捉えたもの。腹にずっしりとくる破裂音とともに亀裂が広がっていくその様は、宇宙誕生を思わせるような破壊とは対極の創造的なエネルギーに満ちている。


そして今回筆者の周囲で良くも悪くも一番話題になっていたのが、若手評論家JJチャールズワースムスタファ・ヒュルシ(JJ Charlesworth & Mustafa Hulusi)のペアによるパフォーマンス。アームチェアに悠長に腰掛け、テレビを見ながらそれについてああだこうだと、いわゆる評論家(armchair critic)を演じたもので、実際にペアのひとりが本物の評論家なだけに可笑しくもあったが、趣旨が伝わりにくかったのか意外と不評。熱演する画面上のピンク・フロイドを見ながら隣りのライターが「ライヴ8に行きたかった」とボソッと呟いたのが忘れられない。

とまあ全体的に、アンチアートとは小難しい概念をマンガやテレビやネットなどの既存メディアのモードを借りて伝えることなのかと思わせるような展示だったが、なかにはその反骨精神を古典的手法で表現している作家もいた。そのひとりが、オープニングの席上でメツガーが、破壊芸術のエッセンスが凝縮した作品と絶賛した中山かおり(Kaori Nakayama)の映像インスタレーション。この作品は、ガラスを打ち砕くという破壊行為が、暗黒の世界に無数の星を生んでいくという(実はガラスの亀裂)、破壊が生産のエネルギーへと転じてしまった作品だ。足を踏み入れたとたん宇宙の果てにワープしたような作品は、スローガン、マニフェスト、演説文、テレビ解説・・・と言葉の攻撃に疲れていた身に、感覚を呼び覚ますシャワーのように快適だった。

CAN.05 (Contemporary Art Norwich)は7〜8月にかけて開催された
展示についての詳細は各団体のサイトで(画像も見れます)
Stay @ Great Eastern Hotel
Out There @ Sainsbury Centre for Visual Art
East International 05

Photo credit)
Top right: Giovanna Maria Casetta, 'A Descent into Glamour', 2005, photo © Kerry Brown

STAY:
'Drift', 2005, Flock wallpaper, acrylic paint and postcards, photo © Richard Davies
STAY: Chris Wood 'Optical Aggregate' 2005 Glass, mirror, water, light - installation
photo © Richard Davies



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