ヴェネツィアから帰ってきてからというもの行く先々で、「ヴェニス、どうでしたか?」と聞かれ、そのたびに答えに詰まっている。一言二言で感想を述べるにはあまりにも見すぎたし、人にも会いすぎた。パーティー、セレブ、コレクター、キュレーター、アーティスト、パビリオン、企画展……、この人は一体どの部分を知りたいのだろうかと考えるうちに面倒になり、適当に答えるのが習慣になってきている。

これではまずいと反省し、まずはこのダイアリーの対象である国別展示について、少し今年の傾向を挙げてみることにした。とりあえずキーワードは、「映像」、「建築」、「パフォーマンス」、「女性」あたりだろうか。

まず、断然目立っていたのが映像だ。英国の女優ティルダ・スウィントンを起用したトルコ代表、ファッションデザイナーでもあるフセイン・チャラヤンのマルチスクリーン映像。ビョークが音楽を担当、パフォーマンスもしているアイスランド代表ガブリエラ・フリドリクスドッティの映像インスタレーション。大聖堂の天井にアダムとイブの話をベースにした映像を流しているスイス代表のピピロッティ・リストこれら3名ほどの華やかさはないものの、オランダルクセンブルグもハイプロダクション系の映像で勝負。一方、カナダスペインセルビア&モンテネグロデンマークポルトガルポーランドロシアなど欧米の多くの国が、ドキュメンタリー、パフォーマンス、アニメーションのいずれかに分類できるアート系映像を展示(映像一本でない国も含まれています)。

また、昨今の「アート+建築」の流行にならい、建物自体を表現の一部に取り込んだ国もちらほら。その筆頭が、パビリオン自体を山のようなストラクチャーに変えてしまったオーストリア(延期になったMVRDVのサーペンタイン・パビリオンにそっくり)。作家15人によるグループ展を開催中の韓国館では、アーティストの作品が建物の壁や二階部分を兼ねるもの。ノルウェースウェーデンが交互に使用している北欧館では、ガラスの外壁が取り払われ屋根だけの姿に。建物に完璧に主役を食われたルーマニア館では、館内はノータッチ&もぬけの殻(前回のスペイン館に似ているところがありますが)。

パフォーマンスは、ドイツ館ティノ・セーガル以外はみな映像や写真を介しての展示。映像系は、カナダポーランドポルトガルなどの体を張った70年代前衛+フェミニズムを思わせるタイプと、イスラエルスイス台湾などのヴィト・アコンチらに通じる愚行を強調したタイプに大別。またこちらはデジタル加工のされた写真になるが、イギリス館ギルバート&ジョージも同じくパフォーマンス組み。

また今年は110年のビエンナーレ史上、初の女性ディレクターが担当ということもあり(しかも二人です)、女性パワー全開のアルスナーレの特別展ほどではないにせよ、国別展示でも女性がさりげなく目立つ。先のフェミニズム色匂うパフォーマンス映像に加え日本館ウルグアイ館などでも女性がテーマの対象に。国別部門で金獅子賞を受賞したフランスも女性アーティスト。他の部門の受賞者もバーバラ・クルーガー(アメリカ)、レヒナ・ホセ・ガリンド(グアテマラ)、ララ・ファヴェレット(ヴェネツィア)と女性が目立つ。

以下は筆者の鑑賞ダイアリー第一弾になります。写真は残念ながら筆者の撮影につきイマイチですが、ご参考にしていただければ。画像をクリックすると拡大画像が見れます。拡大画像と一緒に作品図版を掲載している国もあります。

 
 
 
 
 
これから数日何度も通うことになったビエンナーレのメイン会場ジャルディーニ(Giardini)。会場の場所は水上バスの船着場から歩いて5分たらず。ここに各国のパビリオンが集まっている。このあたりはサンマルコ広場がある街の中心部とは違って、木々が鬱蒼と茂るリゾートのような雰囲気。二年前のプレビューは40度を超える猛暑のなか行われたそうだが、今年は日によってはTシャツ一枚では肌寒いという、ヴェニスにしては異常ながらも鑑賞にはもってこいの気温。写真はイタリア館の前で撮ったもの。
 
 
 
 
会場内に入り正面のイタリア館に向かって進むと、道の左右にフアン・ムニョス(Juan Munoz、2001没のブロンズ彫刻。階段のようなものに座って、あるいは転がって、大笑いしている13人の男たち。その表情が妙に不気味。イタリア館のファサード全体を覆う文字&ドローイングは、生涯業績部門で金獅子賞を受賞したバーバラ・クルーガー(Barbara Kruger)のもの。中では企画展「The Experience of Art」が開催されていたが、この日はとりあえずパス。
 
 
 
 

オーストラリア館の公式オープニング。30分前に到着したにもかかわらず既に大勢の報道陣が。コミッショナーらに続き、同館史上最年少のリッキー・スワロー(Ricky Swallow)の応援にかけつけた女優のケイト・ブランシェットが挨拶。「リッキー・スワローは、オーストラリアでもっとも大胆でエキサイティングな若手作家のひとり・・・ニューサウスウェルズの展覧会で初めて彼の作品を見たのですが、精巧に彫られた魚介類を前に言葉を失ってしまいました」。

 
 
 
 
マーク・ウォリンジャー、クリス・オフィリと若手が続いていたイギリス館は、今年は打って変わって大御所のギルバート&ジョージ(Gilbert & George)。コンファレンス開始直前にパビリオンに行ってみると、二人はまだファンに囲まれてサインに大忙し。私もすかさず戴いたカタログを持って彼らの元へ。「ありがとう、来てくれて」とジョージ。このあとパヴィリオンの下の階でコミッショナーとキュレーターの挨拶があり、シャンペンで乾杯。
 
 
 
 

イギリス館のお隣り、カナダ館のオープニングセレモニー。代表のレベッカ・ベルモア(Rebecca Belmore)は、同国のビエンナーレ参加始まって以来、初のアボリジニのアーティスト。館内には彼女の湧き出でる感情を表した映像インスタレーション「Fountain」が展示されていた。滝のように流れる水の裏にスクリーンが設置され、鑑賞者は水を通して彼女のパフォーマンスを見ることになる。

 
 
 
 

撮影禁止のドイツ館の代表は、今年1月にロンドンのICAで個展が開かれたティノ・セーガル(Tino Sehgal)と、トーマス・シャイビツ(Thomas Scheibitz)。館内に入ると、セーガルが送り込んだ白いシャツに黒いパンツ姿の男女が、「Oh, this is so contemporary, contemporary, contemporary」と叫びながらダンスをしていた。目を丸くして突っ立っている者もいれば、一緒に踊りだすノリのいい人も。壁紙をひと思いに剥がしたようなシャイビツのアブストラクトな絵画が、舞台の大道具のように置かれていて可笑しかった。

 
 
 
 
普段は国名が表示されている建物のサインを、展覧会のタイトル「Casino」に変更したフランス館。カーテンをくぐって入館すると、作品を最初から最後まで通しで見るよう促す貼り紙(15分くらいだったと思う)。3つに分かれた展示室には、ピノキオに発想を得たアネット・メッサジェ(Annette Messager)のワンダーランドのようなインスタレーションが。その神秘な世界はとカジノという言葉の響きを超え、奇しくも魔物が生息する妖艶な世界。フランスはこの展示で金獅子賞を受賞(国別部門)。
 
 
 
 
床一面に直径2cmくらいの「パチンコ玉」がばら撒かれていたチェコ&スロバキア館。ここの展示品は、日差しがいい具合に差し込む空間美を邪魔しないようにしたのか、空間を遮る立体はガラス製と限りなく透明。この爽快感あふれる空間で、みんなが楽しそうにパチンコ玉を蹴っていたことと、それがたてるゴロゴロとした音が印象的だった。仰々しいものを作らなくても、ちょっとした工夫とセンスがあれば場所は活きると言われているような。
 
 
 
 
建物のガラスの外壁が取り除かれ、屋根だけの姿になった北欧館。「Sharing Space Dividing Time」という展覧会のタイトルの通り、展示はスウェーデンノルウェーが毎日交互に行う。この日はスウェーデンの番。作品はMiriam BackstromCarsten Hollerのサウンド作品で、屋根の下では外の雑音が聞こえ、外では屋根の下の雑音が聞こえるというものだが、超低音量で流されていたため、みな気付かず素通り。なかには館内中央に立つ大木を作品と勘違いした人も。 確かに異様だったが…。
 
 
 
 
公式オープニングが始まった北欧館に群がる人達を見ながら、カフェで一休み。ジャルディーニの敷地内にはサンドイッチなどを買えるカフェが何箇所が設けられていたが、この日はどこも長蛇の列。よって時間がもったいないと、イリーのエスプレッソだけで我慢(スポンサーのイリーのスタンドが会場のあちこちに水の配給スタンドと一緒にあった)。去年のアートバーゼルに引き続きここにもダン・グラハム(Dan Graham)の特殊ガラスを使ったスカルプチャーが置かれていた。
 
 
 
 
母親の遺品を撮影した石内都さんの「Mother's」が展示された日本館。履いてボロボロになった靴やエレガントなレース使いのランジェリーの写真が、故人の人生を忍ぶように実物を遥かに超えるサイズで展示されていた。床に埋め込んだスクリーンには、「絶唱・横須賀ストーリー」からの写真がスクリーンに流れていた。『Time Out』でお馴染みの美術評論家サラ・ケント氏がちょうど鑑賞中だった。
 
 
 
 
今回私のベスト3に入るのが、若手15名の作品を展示していた韓国館で、もっとも現代性を感じさせてくれた国のひとつ。特に印象に残ったのが、作品と展示空間が一体化していたこと。たとえば、建物1階の半透明のグリーンのガラスの部分は、建物の一部でありながらもキウォン・パク(Kiwon Park)の作品。同じく二階に聳える赤い壁の部分も作品で、100円ショップなどで見かけるプラスチック製の籠を積上げて作ったチェ・ジョン・ファ(Choi Jeong-Hwa)の迷路のような空間。その数2万個とか。
 
 
 
 

コミュニケーションをテーマとするロシア館は、テクノロジーを用いて観客とのインターアクションを図る作品。アーティスト4人から成るThe Escape Programの映像作品は(写真)、雪原のなかを赤いスノースーツを着た男女四人が徐々にで近づいてくるものだが、展示室内に入ってくる鑑賞者の数に応じて映像のストップモーションのスピードが変わる作品。二階には、Galina MyznikovaとDergej Provorovのトンネルのような空間に強風が吹きまくるインスタレーション「Idiot Wind(馬鹿な風)」。迫力が凄い。

 
 
 
 
出品作家5人中、映像が大半を占めていたデンマーク館。作品の一例を紹介すると、一年半にわたり友人を撮ったギッテ・ビレセン(Gitte Villesen)のドキュメンタリー映像、画面上の手話と音声の両方で話しかけてくるエヴァ・コッホ(Eva Koch)のコミカルなパフォーマンス映像、シュールな色使いの仮想空間が次々と展開するアン・リスレガード(Ann Lislegaard)のアニメーションなど。展示は意欲的なものの、鑑賞に時間がかかるのが玉に瑕。
 
 
 
 

スイス館、ベネズエラ館、スペイン館を見たあと(写真を撮らなかったので省きます)、オノレィ・ドゥオウ(Honore d'O)のプリクラ的発想の自動撮影機が好評だったベルギー館へ。赤いカーテンのなかで撮影を済ませると、向かいの大きなボックス型のプリンターからラベルが出てくる仕組み。キチガイ博士のラボのようなベルギー館の出来については、友人のライターとの間で意見が割れた。彼女曰く、ちょっとゴチャゴチャし過ぎ。でも、大小様々の線状のオブジェが壁や空間にあしらわれたインスタレーションは、空間を使った三次元ドローイングのようで私は結構気に入った。

 
 
 
 

翌日の下見のためにイタリア館にサクっと寄ったあと会場を後に。会場の目の前に聳えるのは、ファブリツィオ・プレッシー(Fabrizio Plessi)の高さ40メートルの巨大タワー。一見水が流れているように見えるタワーの中心部の青い部分は、LEDスクリーンを埋め込んだもの。夜ヴァポレットに乗っていると、この青が遠くからよく見えた。寝静まらないヴェニスの夜を物語っているようでいい感じ。

 

 

 

 

ヴェネツィア・ビエンナーレ訪問ダイアリー2』はこちらからどうぞ。
 

51. Esposizione Internazionale d'Arte
La Biennale di Venezia
www.labiennale.org

開催期間:050612 - 051106
入場料:15Euro

会場:ジャルディーニ(Giardini della Biennale)
開館時間:1000-1800、月曜休館
水上バス(1, 4, 42, 51, 52, 61, 82)でGiardini下船

会場:アルスナーレ(Arsenale)
開館時間:1000-1800、火曜休館
水上バス(1,41, 42)でArsenale下船



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