「もう二年してないの。寄ってくる男はいっぱいいるけど、ゴメンって感じかな…。私ってロマンチックなタイプだから、そっちが先じゃなきゃダメなの。本当はあまりセックスに興味がないのよね、13の時からしてたし…。」

想像であれ事実であれ、ホワイト・キューブで始まった4年振りのトレイシー・エミン展は、自慰行為にいそしむ彼女の姿でいっぱいだ。これらの挑発的な姿に、「あんたみたいな奴は、私みたいなのとするしかないの」といったブランケット上の暴言が加わり、展示ムードは「When I think about Sex...」という展覧会のタイトルの通り。つまり、今回も、一夜を共にした102人の名を綴ったテントや、下着やティッシュが飛び散ったベッドで築いてきた彼女の得意分野、性ライフを堅く守った展示となっている。

変わってないのは、展示構成と作品の種類も。メッセージを縫いこんだパッチワーク、エゴン・シーレのようなドローイングに刺繍、彼女の定番中の定番ネオン、故郷マーゲートに想いを馳せたジェットコースターのような巨大立体物と、まるで4年前の個展が蘇ったような構成を取っている。そんななか唯一変わったのが、カラフルな少女カラーから白へとトーンダウンした色彩だが、そちらにしてもレース、花柄模様とロマンチックムードの強い素材を前に、彼女が期待するほどの違いは感じられない。

つまり恐ろしいまで同じなのだが、これが意外にもエミンの場合、一概には悪いと言えないようだ。作品の変化に作家の成長を求める鑑賞者にはがっかりなこの点も、作家に永遠のスターを求めるファンには嬉しいもの。実際、鑑賞者の様子を見ていると後者が圧倒的に多いようで、まるで好きなロックスターの趣味や生活癖を知って楽しむファンのように、ブランケットに書かれたエミンの言葉を読んでは友人同士ああだこうだと喋っているのが目立つ。プレス向け内覧会に出席した報道陣にしてもその点は同じで、彼らの目は作品よりもエミンの身と発言の方に集中していた。

そこで考えさせられるのが、皆が見ている物が何なのかという疑問だ。エミンの作品でなくとも皆ここまで熱心に見るのだろうか、彼女の私生活が覗けるのであればドローイングやブランケットでなくとも写真でも映像でもいいのではないか、いやそれどころか極端な話、彼女が出ているテレビ番組でもいいのではないか、と疑問は尽きない。

内覧会で会ったあるジャーナリストが、「やっぱり感動するよね。こんな想いをしたんだなあ思うと、苦しみが伝わってくるじゃない」と言っていたが、たぶん見ていたのは作品の向こうにある彼女自身なのだろう。つまり、作品はエミン。しばしば「最高」と称される語り術を使って、レイプ、中絶から愛猫のドケットに至るまで数々の身の上話で、鑑賞者のハートを掴んでしまった彼女自身。メディアにスターのごとく登場して、アートのことは分からないけどトレイシーは面白いと大衆を味方につけた彼女自身。意地の悪い言い方をすれば「ただのセレブってことなんじゃないの」となるが、自らをここまでカルト的な存在にしてしまう彼女のようなアーティストは稀だ。


Tracey Emin
When I Think about Sext...
050527- 050625
White Cube


Top

Exhibitions

Home


fogless.net
e-mail: editor@fogless.net
This site has been designed and managed by Toyoko Ito (Toko) copy; 2000-2010 All Rights Reserved
このサイトは伊東豊子(トコ)によってデザイン及び管理・運営されています。本
サイト内で用いられているコンテンツ(文章・画像など)を無断で複製・転載・転用することはできません。