「仕事はしないし、薬はやるし、女とは寝るし」。男の子を腕に抱え、涙を流しながら語る、年の頃20代半ばの若妻。「あたしゃ、人生を、監獄の扉を睨み付けながら過ごしたようなもんさ」。まっすぐな瞳に、左翼系インテリとしてのプライドが光る初老の女。「ここは最高。何でもできるし、デカい音出しても誰もなんも言わないし」。スピーカー売り場のような自室でのんきに喋るヒッピー風の青年。

彼らはみな、KUBAの住民。その在り処は、イスタンブールの南部とも、そんな場所は存在しないとも、その噂は色々。一部の資料によると、KUBAとは、60年代に左翼系過激派によって形成さたコミュニティーで、その後色々な反体制組織に吸収されてきたとのことだが、現在その在り処について知る者はほとんどいない。昨年のターナー賞候補に選ばれたカトルーグ・アタマンの新作では、この曰く付きのコミュニティーの住民40人がインタビューの対象になっている。

 


「KUBA」の会場の風景。40人の人格が乗り移ったかのように、ひとつずつサイズやデザインが違うテレビ、テレビの台、椅子。

 

アタマンのロンドン版「KUBA」は、ここ十年ほど野放し状態にある元ロイヤル・メールの集配場に出現した。真黒な壁に控えめに口をあけた通路をくぐると、わざわざこの展示のために描いたのだろうか、薄汚い落書きが壁をおおっている。だが、それ以外にはこれといって特に展示らしきものはなく、受付が階段の隅に隠れるようにあるが、それも無反応。どうやら壁の矢印を辿って自分で探せということのようなので、ならばと階段をのぼり、抜け殻のような建物を上へ奥へと進む。

こうして辿り着いた先は、どこか怪しげなアジトのようだった。寒々しい空間に40台もの中古テレビが並べられ、拡大された顔がモニターを乗っ取り、それぞれの口から発された声が一丸となって身体に迫ってくる。その一方で、モニターの前の肘掛け椅子が手招きをするかのように意識を揺さぶり、足はいつの間にかそちらの方へ。ゆったりとした背もたれに身を預けながら、モニターの中の男女の声に耳を傾けていた。

話し手一人につきテレビ一台で展開するKUBAの住民の話は、四方山話とはこんなにも面白いものかと、自らの好奇心を恥じるほど、イケている。また、みんなよくこれだけ話せるものだと感心するほど、よく話す。映画のこと、恋愛のこと、浮気や離婚、生活苦などの割とよくある話から、ドラッグ、警察との衝突、人殺し、獄中生活などの想像を絶する体験談まで、各々によるモノローグが果てしなく続く。他人の私生活をのぞく行為を卑しく感じながらも、ついつい話に引き込まれ、なかなか席を立てない。

 


順序は逆になるが、展示室の下の階に設けられたカフェとその周辺。「KUBA」へはここを突っ切って行った。

 

しかしながら、一抹のフラストレーションも感じなくもない。KUBAをもっと深く、バランス良く知りたいのだが、それがなかなかできない。みな一様にKUBAについて口は開くものの、話はいつのまにか身の上を彷徨い、その輪郭が一向に見えてこない。一体どこにあるのか。どういう思想をもち、何を目的としているのか。国内ではどういう存在で、他の人はそれをどう見ているのか。また、アタマンはなぜ彼らを選んだのか。五人、六人、七人、八人…と話を聞いていくうちに、フラストレーションはますます募り、要点を絞った解説が欲しくなる。

もしこれがテレビドキュメンタリーだったならば、端的な解説を付けて小一時間くらいにまとめてくれただろうが、アタマンの場合、40時間かけても見終わらない。おまけに、情報はおそろしく混沌としている。しかし、不思議な事に、この欠点としか聞こえない特徴も、ひとたび視点を変えるならば、編集作業を省くことにより見る側の解釈の幅を広げていると、好意的に受け止められなくもない。つまりは今回の作品も、アタマンの作品についてよく言われる、合理的だが一方的なジャーナリズムに対する挑戦と受け止められなくもない。一見ジャーナリズムのようであって、そのルールをめちゃくちゃに無視しているアタマンの世界。それと上手に付き合うには、気長な気持ちと時間が必要だ。

 


ビルのあちこちに描かれた「KUBA」の在り処を示す道しるべ。

 

"Kuba"
Kutlug Ataman
05/03/22 - 05/05/07
火〜日11:00 - 19:00 (木:21:00まで)
The Sorting Office
21-31 New Oxford Street
London WC1
詳細は
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