マシュー・バーニーとアート・リンゼイ。ビジュアルアート界とミュージック界のカリスマ的存在二人によるコラボ。あの「クレマスター」以来の新作。公開されるのはブラジルにつぎ世界二番目。しかもリンゼイ氏自らが作品を解説してくれるとくれば人気のアート系シネマでやっても行列ができそうだが、それがどうしたことか大学の講義室。それもなぜか建築の名門校AAスクール(Architectural Association School)。会場には折りたたみ式の椅子が120程あっただけで、上映はこの晩限り。PR活動もほとんどしなかったようで、筆者もリンゼイ氏の制作仲間である平川典俊氏から聞かなかったら確実に見逃していたことだろう。

このプロジェクトのためにバーニーとリンゼイは、カーニバルで有名なブラジルはバイア州にあるサルバドールでパレードを企画した。パレードはリンゼイ率いる30名のドラマーで構成されたバンドがステージとサウンドシステムを搭載したトラックに乗り、何千人もの参加者を従え街中を走るトリオ・エレトリコ(trio eletrico)という形式で展開。そしてその熱気のなか、バーニーがパフォーマンスを指揮し、後に展示することを念頭にこれをフィルムに収録したという。このようにしてミュージック、ダンス、パフォーマンスがひとつに収録されたのが今回の作品『De Lama Lamina』だ。

リンゼイのノイズ的サウンドで始まる映像は、メタファーに満ちた華麗なビジュアルとミュージックビデオ風の映像が入り混じるなか、神話めいたストーリーが展開する不思議なものだった。ストーリーは、カンドンブル(Candonmble)と呼ばれるこの地の宗教の神の中から、オグン(Ogun)とオサイン(Ossaim)の二人を軸に展開。植物人間のような姿で登場する男優扮するオグンは、鉄と戦争の神で、破壊を象徴。アバダと呼ばれるカーニバル参加用のコスチュームを着た女優扮するオサインは、森林と薬草の神で、繁殖を象徴。この二人の対比を通じ、この国が抱える深刻な問題、森林伐採による自然破壊をシンボリックに捉えようとしている。

このように書くと単純明解な作品と思われるかもしれないが、そこはやはりバーニーのこと。局部的なシーンからじわりじわりと全体に広がっていくメタファーに満ちた映像は、謎のベールに包まれ容易には全貌がつかめない。カーニバルの喧騒から離れた地下深くで、回転する鉄の棒を裸体で抱きかかえ(後でトラックのシャフトと分かった)、体からとった綿を棒に絡めていくオグン。一方、群集が川となって踊り狂う地上で、同じく綿のようなものが枝に絡みついた樹木を愛でながらこれに登ってゆくオサイン。ストーリはこのように地下と地上、オグンとオサインの二つの世界を交互に行き来しながら編まれていく。そしてその合間にリンゼイらミュージシャンの演奏シーンが流れ、ファンタジーに現実が重なる。はっきり言ってかなり複雑だが、これが最後にひとつに繋がり、パフォーマンス、ミュージック、カーニバルがちゃんとに融合されてしまうからまた不思議だ。

しかし、この点もさることながら、この作品を一際ユニークかつ異様にしているのが、物語のクライマックスへの高まりがオグンの性的高まりというメタファーを通じて描かれていることだ。次第に上半身が植物化し、「クレマスター」の登場人物同様に怪物のようになっていくオグン。それに伴い彼の性欲は高まり、回転するシャフトに身を寄せマスターベーションをし始める。客席に恥ずかしい空気が漂うなか、オグンはひたすら我が世界に没頭。いつの間にか手に握られていた猿を破壊の神らしく一捻りに握りつぶし、垂れ流れる茶色い液体を潤滑油に快楽の頂点へと上りつめてゆく。この上なく、グロテスク。そして、バイオレント。(ちなみに使われた猿は人形とのこと。この猿のモデルは、便が抗生物質の生産に使われていると言われるゴールデンライオンタマリン)

上映の後に質問に応じたリンゼイ氏によると、パレードと同時にマスターベーションのパフォーマンスを行ったこの作品への人々の反応は、絶賛した者、驚愕した者、憤慨した者と様々だったようだ。また、この作品は役者にとってもハードルが高かったようで、予定していたオグン役の俳優が現場をみて怖気ずくなど三人も俳優が交代したと言う。さらに、当然のこととして出たポルノ映画まがいの性描写については、カーニバルではみんなあっちこっちでやっているからねえ、と会場から笑いがこぼれるほど率直な答え。

後で二階のバーでリンゼイ氏と話す機会があった時に、この最後の点ついてチラっと触れてみた。と言うのも、今月上旬にNYのSalon 94で発表された平川氏のパフォーマンスにも似たような性的描写があったと聞いていたため、またどうしてみんなして?と思ってしまったからだ(ちなみにこちらは男女絡みで、女性が電動マッサージ器を持って登場したとか)。でもリンゼイ氏はすかさず、ギャラリーの床下でマスターベーションを行ったヴィト・アコンチの72年の作品を引き合いに出し、現代アートの世界じゃこんなの全然珍しくないよ、と笑って一言。なんと30年以上も前のあの場に居合わせたという。なんとなく釈然としないところもあったがアコンチを出されては仕方ない。また、そんな時に高嶺格氏の展示中止になった「木村さん」のことを思い出し、まあ上映できるだけ良いのかもしれないと思う事にした。

伊東豊子(Toyoko Ito)、2005年3月22日

マシュー・バーニーとアート・リンゼイの『De Lama Lamina』は、ロンドンのAAスクール(Architectural Association School of Architecture)にて3月16日に公開されました。

こちらのイベントについてお知らせ戴いたアーティストの平川典俊氏についてはこちらをどうぞ。

バーニーの新作(別の作品)が6月に金沢21世紀美術館で公開されます。こちらについての関連記事がDazed&Exciteに掲載されています。

本作『デ・ラマ・ラミナ』についてアート・リンゼイに
聞いたインタビュー記事が、『STUDIO VOICE』8月号の特集「アート界最後のカリスマ!? マシュー・バーニーの世界」に掲載されました。


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