サーチ=YBA。90年代に成立したこの公式が完全に崩壊した。公約どおり、「鮫」も「ベッド」もサーチを有名にした作品がすべて消え、廊下からも「壷」や「像の糞」などの"置物"がなくなった。時は確実に流れているのだが、ユニークなのが時代に逆行しているかに見える点。まるで90年代が存在しなかったとでも言うように、館内には80年代に死んだと言われた絵画が並んでいる。

サーチギャラリー開館20周年記念展「The Triumph of Painting」は、国際舞台で注目を集める絵画の功労者たちを紹介するもの。展示作家は、70〜80年代に最盛期を迎えたハーマン・ニッシュとヨルグ・インメンドルフ、90年代以降に注目を集め始めたピーター・ドイグ、リュック・タイマンス、マルレーネ・デュマス、後者と同じ世代だが97年に他界したマーティン・キッペンベルガーの6名。

 


会場に展示されていたハーマン・ニッシュの写真集。60年代のパフォーマンスの様子が記録されている。

Hermann Nitsch
Splatter Paintings, 1986, oil on canvas

 

70年代最盛期組みは、いかにもサーチが好みそうなセンセーショナルな作家二人。かつて「ウィーン・アクショニズムの法王」と呼ばれたハーマン・ニッシュは、60年代に動物を生贄にした血なまぐさいパフォーマンスで名を馳せたアーティスト。45年生れのヨルグ・インメンドルフも同じく“BAD”なひとりで、一昨年、デュッセルドルフのホテルで売春婦7名とコカインでお楽しみのところを捕まるなど、話題に事欠かない大御所。

そんな二人の今回の展示品は、ニッシュは流血パフォーマンスの副産物といった感じの赤いペイントが飛び散った抽象画。血ではなく絵具という点と、ジャクソン・ポロックを思わせる「アクション」的なところが今というよりは少々昔風。同じくインメンドルフの表現主義と風刺画をミックスした絵画も、説明書きにある「モダンさ」とは対照的に今的センスに欠ける少し前の「絵」。70〜80年代の感性にメモリを合わせて見ることをお勧めする。



Martin Kippenberger
Kellner Des... (Waiter Of...), 1991, oil on canvas

Jorg Immendorff
Gyntiana-Birth/Onion Man (detail) , 1984, oil on canvas

 

一方、ここ数年再評価がで進んでいるマーティン・キッペンベルガーの作品をまとめて見れるのは嬉しいことだが、忘れてはならないのは、そもそも彼の成功は、反抗児的姿勢と逞しいPR精神の上に築かれたものだということ。リヒターの絵をテーブル代わりに使ってみたり、世界のあちこちに地下鉄の通風孔を設置してコンセプチュアルに世界を繋ごうとしたり、その発想が大胆だっただけに、絵画だけで彼を把握するのは正直言って困難だ。とは言え、キャンバスを繋ぎ合わせたり、塗る代わりにタオルを縫い込んだり、子供の落書きを思わせる元祖“バッド・ペインティング”はそれでも一見の価値あり。

 


Peter Doig
White Canoe (detail), 1990-91, oil on canvas

Marlene Dumas
The Cover-Up, 191, oil on canvas

 

今回もっとも見ごたえがあったのが、今注目されている画家達、リュック・タイマンスマルレーネ・デュマスピーター・ドイグの3名。特に前者二人の作品は、控え目で静的な印象を与えながらも、戦争、売春、幼児虐待、ヴァイオレンスと現代社会に蔓延する問題を取り入れた作品が目立つ。いずれも写真や映画などをベースに制作をしているせいか、時にレンズの存在を感じさせる大胆にクロッピングされた構図や、スタイライズされた色使いなど、メディア社会を通して見たヴィションを感じ取れる。

そのなかでも一番のお勧めは、館内唯一のホワイトキューブであるボイラールームに展示されたデュマスの作品群。子供で主題を固めたこれらの展示品は、ヨーロッパの伝統である表現主義と実存主義に通じる痛々しさと、ナン・ゴールディンの画家版とでも呼びたくなるようなクールさが共存する作品群。子供を主題にしている画家は日本人も含めて結構いるが、問題を直視する凄みとそれをクールに表現する手腕が何といってもデュマスの魅力だ。

 


ボイラールームの展示風景(Marlene Dumas)

Martin Kippenberger
Capri by Night (detail), 1982, oil on canvas

 

このように絵画の勝利宣言をもって迎えたサーチ・ギャラリーの20周年記念だが、ご想像の通り、この主張に意義を唱える評論家も少なくなく、「Small Triumph」(Time Out)、「The Triumph of Painting?」(The Independent)といった見出しが紙誌面を賑わした。中には何とか好意的に捉えようと、今回の作家の多くが他メディアを通過した上で絵画に行き着いたことを指摘する評論家もいたが、どう好意的にみてもこのタイトルの裏には「勝利した」ではなく「勝利させたい」という展覧会企画者側の誘導的な思惑が感じられる。

しかし、メディアにどんなに叩かれようとも、彼らの関心を集めたという点ではサーチは今回も成功を収めたのではないだろうか。少なくとも、アートの課題のひとつである議論の場の提供という点では成功している。芽を出すかどうかは別として、何もないところに巨大な種を蒔くサーチの大胆不敵さには、90年代にYBAを率いて英国の現代アート界に変革をもたらした扇動家としての健在振りがうかがえる。勝利の女神が微笑んでいるのは絵画ではなくサーチの方なのかもしれない。

 


Martin Kippenberger
Self-Portrait, 1988, oil on canvas

Luc Tuymans
Still Life, 2002, oil on canvas


The Triumph of Painting
, Part 1
05/01/26 - 05/06/05
The Saatchi Gallery


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