Roni Horn, Doubt by Water (What), 2003-2004
Courtesy Hauser & Wirth Zurich London, © Roni Horn







ロニ・ホーンといえば写真が有名。とくに知られているのがアイルランドで撮ったポートレートや風景写真で、その代表作のひとつが、同じ少女の顔写真100枚で構成された「You Are the Weather」で、東京国立近代美術館の「連続と侵犯」展などで日本でもすでに紹介ずみ。ここロンドンでも、2001年にシティーグループ・フォトグラフィー・プライズにノミネートされるなど、同じく写真での活躍が目立っている。もちろん今回も、ギャラリーの2階と地下を使って写真を使ったインスタレーション2点が紹介されているが、意外なのが一階のメインギャラリーでの展示。世に知られる「写真家」ロニ・ホーンとは一味違う作品が展示されている。

それは'カーペット'という意表を突いた姿で存在。こちらの展示室用に特別に誂えられた『Rings of Lispector (Agua Viva)』という作品で、1.75メートル四方にカットされた天然ゴムの板を隙間なく敷き詰めるという形をとっている。脱いだ靴を片手に、ゴムのフワッとした感触を足の裏で楽しみながら歩いていくと、'カーペット'のところどころに控えめな色使いで渦巻き模様を描くように文字が書かれている。ブラジルの作家クラリッセ・リスペクトール(Clarice Lispector)の著書『Agua Viva (Stream of Life)』からの引用らしいが、「見えないものは存在しないのだろうか?」とか、「私の心を一番震わすのは見えないけれど存在するもの」とか、読んでいくと時々、建物の内装に溶け込んでしまったこの作品自体のことを言っているような文面にあたる。


Roni Horn, Rings of Lispector, 2004
Courtesy Hauser & Wirth Zurich London, © Roni Horn


ニューヨークを拠点に活動するホーンが本格的に制作を始めたのは、'75年頃と意外に早い。冒頭で紹介した写真ベースの作品をつくり始めたのは90年代以降のことで、それまではアンソニー・カロを連想させるミニマリズム的な立体を主につくっていた。今回の'カーペット'の原型といえるゴムを使ったシート型の作品は、早くも70年代後半、まだエール芸術学校に在籍中に第一号が手掛けられ、その後もゴールドやアルミニウムなどと素材を替えながらシート型の立体を多数発表している。

一方、彼女の作品でミニマリスト的なフォルムと同じくらい顕著なのが、今回の'カーペット'にも引き継がれている活字による言葉の使用で、これはホーンの文学に対する関心と密接な関係がある。多くの場合、19世紀のアメリカの詩人エミリー・ディキンスン(1830-1886)をはじめとする既存の文学作品からの引用という形式をとっているが、自分で執筆した文章を使うことも時々あり、前出の写真賞の展覧会で発表された「Still Water (River Thames, for Example」(99)では自著「Another Water」からの文章が、脚注のように写真の下に小さな活字で添えられていた。

つまり、今回の'カーペット'は、ホーンの初期の頃からの積上げということになるが、興味深いのが、似たような素材と形状を見せながらも初期と近年の作品ではその性質が微妙に違うこと。展示室の床の中央に置かれた初期の作品が外から眺められることを目的とした鑑賞物である一方、今回の'カーペット'を含む近年のサイト・スペシフィックな作品は鑑賞物に飽きたらずインテリアとしての実用性も果たしている。次回までには取り外されていると分かってる所為か、ハウザー&ワースの展示ではこの実用性が弱く感じられるが、インテリアの一部としてビルの中と外に常設されているミュンヘンの気象局に行けば受ける印象もだいぶ変わることだろう。

重いゴムの板を運んだ業者たちの中には、「一体、これのどこがアートなんだよ」と内心つぶやいた者もいたかもしれないが、それはさておき、今回の展示はホーンのあまり知られざる一面を発見できるのと同時に、建築との距離を縮めたり見せ方を工夫することによって、微妙に性質を変えている立体というものを考える場になりそうだ。


Roni Horn
041117 - 041223
Hauser & Wirth London

 


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