Marlene Dumas, Stern, 2004



「人生が何であろうと、死んでしまったらアートは作れない」。別にアートに限ったことじゃないと思うが、何故、マルレーネ・デュマスはこうまでも死に拘るのだろうか。血の気の失せた青ざめた顔。半開きの瞼から覗くドロっとした瞳。不自然に曲った首……。みな死に顔か、好意的にみても亡霊くらいにしかみえない。

終焉の世界に降り立つ救世主を待っているのだろうか…。フリス・ストリート・ギャラリーで開催中のマルレーネ・デュマス展は、思わせぶりに『The Second Coming(再臨)』と題されている。地上階と地下の3つの展示室には、フィクションと現実の世界から選ばれた男女が渋い配色と水彩のような淡いタッチで、時に宗教的なタイトルをもってしめやかに描かれている。

「人物を特定しても作品の解答にはならない」。デュマスはこうも言っているが、その背後にドイツ赤軍派(RAF)のリーダーや金賢姫(キム・ヒョンヒ)など破壊的著名人が隠れているとなれば目を向けずにはいられない。例えば黒い紐が首に巻かれた油彩「Stern」。こちらのモデルは'76年に獄中自殺を図ったドイツのテロリストグループのリーダー、ウルリケ・マインホフで、ゲルハルト・リヒターが油彩「18 Oct 1976」のモデルにしたドイツの雑誌『STERN』に掲載された写真をもとに描かれたものという。

その奥に掛けられた仰向けに横たわる女性の油彩「Alfa」は、一昨年にモスクワで起きたチェチェン独立派武装勢力による劇場占拠事件の被害者のひとり。絵画のソースはおなじく報道写真で、題名は劇場に突入したロシアの特殊部隊の名前から引用したもの。一方、大韓航空機爆破事件の首謀者を描いた「Kim」は薄目を開けたのっぺり顔で登場。逮捕後の記者会見の写真をもとに描かれたものだが、説明を受けないかぎり誰と特定できないほど大幅にディフォルメされている。また、この他にも、カラヴァッジオやミレーの絵画にベースした作品も、これらと一緒に展示されている。


Marlene Dumas, Lucy, 2004

70年代から制作をしているマルレーネ・デュマスは、ベルギーのリュック・タイマンスと並び現在ヨーロッパで最も注目を浴びている画家のひとりだ。幼少時代をアパルトヘイト期の南アフリカ共和国で過ごし、その後オランダに移り住み現在に至っている。その生い立ちが影響しているのか、作品には人種、アイデンティティー、宗教、死、性など人間の本質に挑むテーマが目立つ。

なかでも大きな特徴となっているのが、実存主義的な絶望感とポルノグラフィーの狭間で揺れる容赦のない性描写だ。「私の芸術はすべてを曝すポルノグラフィー的な傾向とその実態を隠そうとするエロチックな性質との間に位置する」と、かつて本人自身が語っているとおり、過去の作品には売春婦やピンナップガールを主題にした消費としての性を見つめた作品が目立つ。今回の『The Second Coming(再臨)』には、一見して性を直視していると言える作品はないものの、人物の透き通るような肌やその恍惚とした表情には別の‘Coming’を髣髴させるような色気が漂っている。

「メシアが来るなんて思っている人まだいるの?」と今回のプレスリリースのなかで問いかけているデュマス。もちろん、テロリストにテロ被害者らが横たわる展示室からは楽観的な答えは聞こえてこない。ましてや展示冒頭の「Prophet(預言者)」に登場する救世主風の男が、フセイン政権崩壊後のバグダッドのある病院で撮られた精神病患者をモデルにしているときている。答えを出すまでもないようだ。


The Second Coming
Marlene Dumas
041112 - 041223
Frith Street Gallery

 


Top

Exhibitions

Home


fogless.net
e-mail: editor@fogless.net
This site has been designed and managed by Toyoko Ito (Toko) copy; 2000-2010 All Rights Reserved
このサイトは伊東豊子(トコ)によってデザイン及び管理・運営されています。本
サイト内で用いられているコンテンツ(文章・画像など)を無断で複製・転載・転用することはできません。