「中央刑事裁判所(Old Bailey)で現在進行中のファヤディ・サワイ・ザダド(Faryardi Sarwai Zardad)の裁判の為、法的アドバイスに従いこの作品は一次的に展示から取り外されています。」

展示を予定していたラングランズ&ベルの映像作品が取下げになったという報道が、ターナー賞の展示公開を間近に控えた先週17日『オブザーバー』紙に掲載された。記事には現在進行中のある裁判のことが取り上げられ、この作品を展示すればテートが訴えられるかも知れない、弁護士の助言に従い展示を取止めにしたといった内容が書かれていた。そして公開当日、問題の作品の代わりにあったのが、スライド上映された上の文面。

これに象徴されるように、今年のターナー賞は過去に例をみないほど政治色が強い。映像が半数以上を占める展示室には、オサマ・ビンラディンの要塞からジョージ・ブッシュの故郷まで、アートよりはジャーナリズムと呼ぶに相応しい作品が展示されている。



Langlands & Bell,
上)The House of Osama bin Laden
, 2003
Interactive digital animation
Courtesy the artists and V/Space LAB

下)NGO(part 1)
, 2003,
Dual screen digital animation
Courtesy the artists and the Trustees of the Imperial War Museum

その筆頭が前出のラングランズ&ベル。中止になった『Zardad's Dog』を含む今回の展示品は、二年前に帝国戦争博物館から依頼され訪れたタリバン政権後のアフガニスタンが題材。カブールに着いた彼らがまず最初に驚いたのが、国内外あわせ280団体もあったという膨大な数のNGO(非政府組織)。旗とデジタル映像で構成された『NGO』では、各団体のロゴがにモチーフとして使われ、観る者にNGOという存在の役割を問いかける。

またこの滞在中に二人はかつてオサマ・ビンラディンが篭っていた家も訪問。その写真をもとに制作されたのが、インターアクティブ・アニメーション『The House of Osama bin Laden』。『Quake』などのコンピューター・ゲームをプレイするように、戦車や武器が置き捨てられたバーチャルな空間を観客は自在に移動してまわる。現実の戦争をゲームにしてしまった彼ら。現代戦争はメディア・イベントとよく言われるが、その究極の姿と言えなくもない。



Jeremy Deller, Memory Bucket, 2003.
Video 23mins, Originally commissioned by Art Pace San Atonio,
Courtesy the artist, Art Concept, Paris, and the Modern Institute, Glasgow

ジェレミー・デラーの関心事も時事情勢。イベントの企画から制作・監督までを担う彼の代表作は、80年代に英国で起きた炭鉱労働者と警察との衝突を再現した『The Battle of Orgreave』で、このスペクタクル・パフォーマンスはマイク・フィギュス監督によって映画に収録。今回の展示品『Memory Bucket』ではテキサス州の政治的要所、クローフォードとウェイコが焦点に。ブッシュ大統領の故郷である前者では彼お気に入りのダイナーの経営者が、カルト教団ブランチ・ダビディアンが立て篭もり事件を起した後者では生き残り教団員がインタビューに登場する。

カトルーグ・アタマンもインタビューを好む作家だ。これまでにも多くの人をインタビューし、彼らの語りによって聞き手の意識に形成されていくアイデンティティー、その真実性・虚偽性に焦点を当ててきた。今回の作品『Twelve』では、トルコ南東部に住む転生輪廻を信じる男女6人が登場。真顔で前世のことや死んだ時のショックなどを語る彼ら。理性に満ちた表情で、この上なく狂気じみたこと語る彼ら。アタマンの「真実だと信じていても実は虚構に過ぎない」というメッセージをそこに感じ取ることができる。



Kutlug Ataman, Twelve, 2003
Six-screen video installation, each approx 1 hour
Courtesy the artist and Lehmann Maupin Gallery, New York

四人中、唯一華のあるのがユンカ・ショニバーレ。18世紀のフランスの画家フラゴナールの絵画を基にした立体『The Swing』のほか、コスチューム劇をパロッた映像等を発表。ロンドンとラゴスで育ったショニバーレは、自らのことを西洋文化とアフリカ文化を混合した'バイ・カルチャー'な存在と呼ぶ。そんな彼の作品に必ず登場するのが、ロンドン南部のブリックストンで購入したカラフルな布地バティック。アフリカの象徴とされるこの布、実はインドネシア、オランダ、イギリスと西洋と非西洋とを混合した歴史的背景を持ち、文化的にバイな彼自信に似たものだったりする。



Yinka Shonibare, The Swing (after Fragonard), 2001
Dutchwax printed cotton textile, life-size mannequin, swing and artificial foliage, 330 x 350 x 220cm
Tate. Purchased 2001

これまで主流だった自伝的作品と一線を隔し、社会的な問題を見つめる作品が揃った今回のターナー賞。イラク戦争の責任追及や同地における紛争・人質拉致などの報道が絶えないこのご時世に、波長がだいぶ合っているようだ。だがここにあるのは客観的報道と伝達を重視したジャーナリズムではない。アーティスト個人個人の感性を通して時事情勢を理解しようとするのはかなりの努力が必要となる。

Turner Prize 2004
041020-041223
Tate Britain, London


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