リージェンツ・パークを拠点にアートフェア3つが同時開催された先月のロンドン。国内外から集まったギャラリーの数は3フェア合わせて226団体。四日間で5万人を軽く上回る来場者を動員し、「ロンドンにはバーゼルのような国際アートフェアがない」という長年のコンプレックスを払拭した。

この快挙に最も貢献したのが、今年で二年目の『Frieze Art Fair』だ。出展申し込み数は昨年の二倍の400団体、その中から厳選された150団体、作家2000人による作品が、来場者4万2千人の視覚と購買欲を満たした。また、売上も前年に比べ11億円の増加、予想を上回る50億円(26ミリオンポンド)を達成し大成功を収めた。


一方、『Frieze』の成功にあやかってアメリカから上陸したのが、ホテル利用型フェア『scopeLondon』。ニューヨークで4回、マイアミで2回の開催経験を持つ『scope』は、選考の厳しい大型フェアの傍らで若手ギャラリストに出展の機会を与えるオルタナティブ的な存在。顧客層も「スーパーコレクターよりはもっと小さなコレクターたち」。ロンドン版では世界9カ国から50団体が参加した。また、『Frieze』と同じ公園内にあるロンドン動物園には、開廊3年以下の市内のギャラリー26軒が集合、『Zoo Art Fair』を旗揚げした。動物園という意表を突いたロケーションも手伝ってか三日間でおよそ一万人を動員し、小規模ながらもその存在をアピールするのに成功したようだ。

 

Frieze Art Fair

サム・テイラー=ウッドら業界内セレブからケイト・モス、グウィネス・パルトローら本格派セレブまで集まった『Frieze Art Fair』。会場内には仕立ての良いスーツ姿のコレクターに、一点ウン百万円の作品がゴロゴロ。パオラ・ピヴィの滑り台が目立っていた去年に比べアトラクション度はイマイチだったものの、さすが「来場者の80%が鑑賞を目的に来た人たち」と主催者が豪語するだけはある。数、質、スケール、バラエティーどれにおいても3フェア中ダントツ。

 

デイヴィッド・アジェイ設計による会場の魅力のひとつが、リージェンツ・パークと本会場を繋ぐこのシュールな通路。世俗の汚れを清め崇高なモノに接せよ!という妙な緊張感を感じる。今年はオレンジ。

トンネルを抜けると先は暗黒の世界。今年増設されたこのスペースは、展示会場拡大の証。インフォメーションをはじめ各種サービスの受付カウンターがここにある。頭上を走るオレンジのライトがクール。

こちらが会場。ビジネスの規模に関係なくギャラリーを一律に扱うのが『Frieze』の趣旨とは聞いたものの、中心にはハウザー&ワースホワイト・キューブガゴーシアンなどのマンモス級が…。

会場の隅にあった「スロー・ダンスクラブ」。コミッションワークの一つで、作者はロス・スーパー・エレガンテスアシュームド・ヴィヴィッド・アストロ・フォーカス。残念なことにスタッフしか踊っていなかった。

 

『Frieze』体験の辛い所が、いくら見渡せども見付からない休憩所。その改善策のひとつとして今年から入口付近にベンチが登場。傘と化したテント屋根の下で、激しい雨音を聞きながらみんな一休み。
屋外にも展示品。リチャード・ロングミンモ・パラディノの立体と一緒に、ジュリアン・オピーのヌード像もここに。芝生の公園に道路標識のようなヌード像。なかなかのコントラストでした。

フェアの主催者は雑誌『Frieze』の創刊人マシュー・スロットーバー氏(写真)とアマンダ・シャープ氏。「僕達はもともとアート系から来ているんだ」と、他のフェアの主催者たちと一線を引く彼ら。

バーゼルに習ってか、今年から『Frieze』の会場にもアイスクリーム屋さんが登場。でもロンドン版は紙をガムテープで張り合わせたお粗末なつくり。レストランあぶれ組みのランチ代わりという噂も。

 

サム・テイラー=ウッド @ Frieze
アート誌のみならず新聞やファッション誌でもお馴染みのサムは、ロンドンのアーティストの中でもセレブ中のセレブ。ご存知、ヤング・ブリティッシュ・アーティスト(yBa)の一人で、ホワイト・キューブの経営者ジェイ・ジョップリング氏の奥様でもある。後ろの写真はサムが空中浮遊するセルフポートレート。不思議なまでのしなやかさに、「どうやって撮ったの?」と聞いてみると、「身体をロープで固定して撮った写真をあとでデジタル処理したとのよ」とサム。素敵な板張りの部屋は自分のスタジオだそう。先週からホワイト・キューブで始まった2年ぶりの個展でも展示されています。


ジム・ランビー @ Frieze
準備万端のフェアの会場で、床に座り込んで必死になって作業をしているジムの姿を発見。使い古しのハンドバッグを取り出しては、目がたくさんプリントされた不気味なシールをせっせと貼っていた(写真拡大)。その庶民的なムードに‘これなら私にも買えるかも’と閃いたが、残念ながらこちらは展示中の立体用のパーツ。売り物ではないとのこと。。ジムはテートのトリエンナーレ「Days Like These」などでも活躍の有望な若手。ガムテープやベルト、レコード盤など身近な物をを使ったカラフルなインスタレーションを得意とする。今回に限らず制作はいつも手作り。

 

ドッグフードの缶詰に囲まれて気持ち良さそうに寝ていた猫。作品の素材欄にしっかりと「Cat」と書かれていたこの作品、人種差別やドラッグの問題に取り組んでいる米人作家デイヴィッド・ハモンズによるもの。

骸骨の顔をした壷。作者は女装の陶芸家グレイソン・ペリー。値段は約400万円で既に「リザーブド」。この予約済みという言葉、これ以上お話できません…と柔らかく伝える便利な言葉のようで今回よく耳にした。

こちらの猿はシリコンで作った偽者だが、等身大の身体にナイフやシャベルが突き刺さった姿は見るに絶えない。作家は写実的なマネキン像を得意とするトニーマテーリ。ロン・ミュエクのアメリカ版のような人。

水戸で観た方はご存知、ファイバーグラス製の立体に奇妙な顔をした生き物を映写したトニー・アウスラーの作品。魚と人間のハイブリッドのような顔が、コミカルかつ不気味。

汚れのないウンコ? @ Frieze
今年もやってくれたWrong Gallery。NY在住の平川典俊さんの作品は、女性が椅子に座っているだけのパフォーマンスと言えないようなパフォーマンス。だが問題は、床に落ちている茶色い物体。実はこれ、彼女自身の排泄物で、期間中毎朝持参することになっている。平川さんによると、便を無菌・無臭にするために、彼女には二週間の特別ダイエットを行ってもらったという。ちなみに後ろの写真はそれの出所の拡大写真。彼女→出所→排泄物と、そこには生き物たる以上避けれない人間の基本的な生理活動の流れが提示されている。

オイル漬けのリーダー達 @ Frieze
ブレア、ブッシュ、ベルルスコーニの三人がドラム缶から顔を出すこのコミカルな作品は、ペルーの作家イオタ・カストロ(Jota Castro)によるもの。タイトルは三人のリーダーの頭文字と、戦争をしてしまうくらい大好きな石油を組み合わせた『B.B.B. Oil Shame II』。ポップな外見に込められたシニカルなメッセージ、背後に展示されたヴァネッサ・ビークロフトのヌード写真のインパクトも加わって一際光っておりました。ちなみにこちらのギャラリーはイタリアはブレシアにあるマシモ・ミニニ・ギャラリー(Galleria Massimo Minini)。

 

車のエンジンを使った作品。表面を覆う青い粒子は、一見ガラスのように見えて実は硫化銅の結晶。作家は去年テートの「Art Now」でも紹介された若手、ロジャー・ハイオンズ。ギャラリーはコルヴィ・モーラ

チャップマン兄弟の新作を発見。「Hell」にそっくりなこちらは、5年前に作り始めてつい最近完成したもの。今回ホワイト・キューブで一番注目を集めていた作品でした。ちなみに一点もので、リザーブド。

デミアン・ハースト?と目を疑ったこのドット・ペインティングは、村上隆の弟子のひとりMr.の作品。よく見ると幾つかの丸のなかに漫画風の絵が描かれている。その隣りも村上一派で青島千穂Perrotinにて。

日本のギャラリーも健闘。数は去年の半分と少ないながらも、Taka Ishii Gallery(写真は代表の石井孝之さん))とギャラリー小柳が出展。ロンドンでも人気の畠山直哉花代の写真が光っていました。

 

A4が4枚でお幾ら?@ Frieze
ムードに押されて普段聞きにくい値段を聞けてしまうのもフェアの魅力。今回はターナー賞史上制作費がもっとも控えめなマーティン・クリードの作品について質問。上の写真の作品は、A4サイズの紙を使ったクリードの典型作のひとつ。紙はそれぞれ、ぐしゃぐしゃにして伸ばしたもの、細かく折って開いたもの、黒のマーカーで塗ったもの、黄色のマーカーで塗ったものの4点。原価は100円にもならないだろうが、作品の値段は4点セットで3百万円相当。コンセプチュアルアートだから仕方がないか…と思いたいところだが、コンセプトはゼロ、有るのは物だけと本人自ら先日あるインタビューで主張していたっけ…。

キース・タイソン @ Frieze
アートの不条理さに頭を悩ませている間に、ホーンチ・オブ・ヴェニソンでは2002年のターナー賞受賞者キース・タイソンが大判振る舞いを開始。謎が込められたダイスを積んだ高さ2メートル級の立体『A Work That Requires A Different Form Of Investment』を披露し、謎を最初に解いた人にこれを無料でプレゼントすると発表。ちなみにこれと同サイズの作品のお値段は75,000ポンド(1千5百万円相当)。タイソンと言えば去年の秋に、長年世話になったアンソニー・レイノルズ・ギャラリーからこちらのギャラリーに移籍。11月3日からターナー賞後初の個展『geno/pheno paintings』が始まる。

 

scopeLondon

観るのが関の山、ギャラリストの視線も一般人は素通りという『Frieze』に対し、『scopeLondon』はまだ手の届く範囲。メリア・ホワイトハウス・ホテルの1階と2階を使い、世界9カ国から集まったギャラリーがアットホームにビジネスを展開した。ベッドの上にドローイングを広げた‘高級’フリーマーケット風の部屋あり、トイレやベッドを作品の一部にしてしまったサイトスペシフィックな部屋ありと、展示とビジネスの展開の仕方はギャラリーによってまちまち。日本からは東京のミヅマアートギャラリーと、パリ在住のギャラリスト河瀬由起子さんが出展していた。

 

メリア・ホワイトハウスの場所は『Frieze』の会場から徒歩約5分、内装は英国風に重厚な感じ。通路を歩きながら個室をひとつひとつを覗いていく感覚が、オープンスタイルのアートフェアと違ってユニーク。

ヘッドに映写されていたダイアン・ハリスの映像。既存の映像や絵画をコラージュしたこの作品にはベッドで過ごす男女が次々と登場。ホテルという環境を上手く活かしていた作品のひとつ。

シルヴィア・レヴェンソンもベッドを有効活用。だがこちらの場合、もしも寝ようものならば大変なことに。ガラスのタイルで覆われてたベッドの表面には、ワイヤーが有刺鉄線のように一面に突出。

彫刻と一緒に写るリチャード・スティプルさん。セルフポートレートだという彫刻は、悪夢を見たの?と思うほど表情が暗い。「そう?笑ってるのもあるよ」とのことだが、笑い顔も狂気に満ちていた。カナダ在住。

 

悟くんのお部屋?@ scopeLondon
自室で徹夜の作業に勤しむ青山悟さん…と言いたくなるこの写真。実はメリア・ホワイトハウスの193号室、ミヅマアートギャラリーでの光景で、道具一式を運び込み制作実演をしていたところ。クラフツ・カウンシルの「Boys Who Sew」などでも活躍の青山さんは、自分で撮った写真をもとに、刺繍で人物画や風景画を作り上げていく。レトロな色と形のSingerのミシンは、今時珍しい足踏み。糸で描いていくのはかなり骨の折れる作業と見受けたが、本人は、「この調子だと直ぐに出来上がってしまう」と、休憩を挟みながらの実演。

爬虫類館 @ Zoo Art Fair
会場となったロンドン動物園は一般公開1847年の世界一古い動物園。園内の建物は各時代を代表する建築家による力作で、様式もクラシックからモダンまでバラエティーに富んでいる。個人的に一番好きだったのが、オープニング・パーティーが開かれた爬虫類館。若草色の毒蛇や亀が沢山いるこちらは、普通の動物園からは想像もつかないほどカラフルな世界。廊下伝いに並んだケースの中には、ジャングルや砂漠を想定して絵が描かれ、これが本物の木や土と上手くミックスしていて、ちょっとしたインスタレーションのように見えた。

 

Zoo Art Fair

大雨にもかかわらず、オープニングの晩には会場前に長蛇ができた『Zoo Art Fair』。こちらの特徴は、参加ギャラリーだけでなく出品アーティスト、鑑賞者すべてが若いこと。会場にはロンドンのアート界特有の「やるが勝ち」という熱気が立ち込めていた。スケールとバラエティーにおいては『Frieze』の比ではないが、所詮みな開廊して間もないヒヨコたち。でもそれでいながらも、世界に自らの存在をアピールしてしまった彼ら。やっぱり、やるが勝ち。

 

爬虫類館からスタートした私の『Zoo Art Fair』体験。どこに作品があるの?と会場じゅう捜し回ったが、結局ここには展示品はなし。代わりにを観てきたが、これが下手なアートよりずっと面白かった。

装飾がエレガントなこちらは、今回の展示会場のひとつ、プリンス・アルバート・スイート。ギャラリー18軒がここにブースを構えた。普段は結構式など各種パーティーに使われているという話。

もうひとつの会場がこのマッピン・パビリオン(1913-14)。神殿風の柱に支えられた扇形のこの建物は、重要建築物にリストされている優れもの。ギャラリー8軒がここにブースを構えた。

マッピン・パビリオンでの展示風景。みんな展示品を見ているというよりは、知り合い同士で雑談。つまり、よく見かけるオープニングでの光景。正直言ってあの人込みでの鑑賞は辛かった。

 

 

 

 

 


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