Steve McQueen, Once Upon A Time
112 of 116, 2002
Astronaut in Space photo: NASA






1977年8月、宇宙探査機ボイジャーII号が太陽系の彼方に広がるコスモスへと旅立った。探査機には地球上の生命と文明を伝えるべく、天文学者カール・セーガンによって選ばれた115枚の画像と55の言語、自然の音、音楽を記録した一枚のディスクが搭載された。

スティーヴ・マックイーンの新作「Once Upon a Time」の要となっているのが、このゴールデン・ディスクに記録されたこれらの画像だ。真っ暗な展示室には巨大スクリーンがモノリスのように聳える。そこに地球を物語るこれらの画像が一枚ずつスライド映写されていく。バックにはグロッソラリア(舌語り・異言)と呼ばれる解読不明な言語による音声が流れ、観客は未知の音声に包まれながら映像を解読するエイリアンの立場に置かされる。

今更そんな写真を流してどうするの?と疑問を感じる方もいることでしょうが、この作品、すでにメディアで公開されている既存の写真を使ったものにしては考えさせられる点が多い。鑑賞という目でこれらの写真一枚一枚に改めて対峙してみると、選んだ人間の視点が明らかになってくるだけでなく、そこには汚点を省略したPR用の地球が存在することに気がつく。






Steve McQueen, Once Upon A Time
上) 27 of 116, 2002, Conception with silhouette diagram: Jon Lomberg
下) 47 of 116, 2002, Leaf Photo: J. Arthur Herrick
Courtesy Marian Goodman Gallery, New York & Paris and Thomas Dane, London

特に目立つのが科学者からみた視点だ。ここに描かれているのは、数式、化学式、天体図、人体図などの図式で説明のつく、合理的な存在としての地球であり人類だ。また、車、電車、飛行機などの輸送技術、高層ビルなどの土木建築技術、レーダーシステム、宇宙プロジェクトなどの通信衛星技術など、高度な技術をもつ文明という印象が強調されている。

その一方で淡白なのが人間の描写。喜怒哀楽などの多様な感情は無難なスマイルに要約され、愛や友情などの公式化できない抽象的概念は一切無視、セックスにいたっては理科の教科書でお馴染みのおたまじゃくしの図に省略されてしまっている。また、貧困、病気、暴力、宗教、戦争、自然破壊などの、人間の歴史に欠かせない特徴も大胆に省かれてしまっている。



Steve McQueen, Once Upon A Time
94 of 116, 2002, UN Building by Night photo: United Nations

しかし科学者による編集作業を責めても仕方のないこと。所詮誰が選ぼうが、そこには必ず選択者・編集者の視点が存在する。そもそもわずか100枚足らずの画像で人類の文明を定義すること自体が無謀なことなのかもしれない。

ヴォイジャーと一緒に今もなお宇宙を彷徨うゴールデン・ディスク。地球が滅びようとも漂浪を続け、いずれ地球外知的生命体の目に触れるのだろうか。そして、地球のPRミッションを託されたこれらの画像は、「むかし、むかし、大昔… (Once Upon a Time …)」と、その任務を果たすことになるのだろうか。

"Once Upon A Time"
Steve McQueen
040917-041107
South London Gallery


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