Jiri David, Untitled from the series No compassion (Tony Blair), 2001
Musee de l'Elysee, Lausanne,
© the artist 2004



ロンドンの地下鉄に置かれているフリーペーパー「Metro」に、最近おもしろい調査の結果が載せられていた。トニー・ブレアの顔写真を、コンピューターで女性的なソフトなイメージと、男性的なマッチョなイメージの2種類に加工し、どちらに人々が好感を持つかを調べたというもの。結果は、女性的なイメージの方が大衆受けし、支持率が上がる傾向にあるとか。

コンピューターによるイメージ操作や、整形手術が当たり前となった現代社会。近代テクノロジーの進歩のおかげで、顔を作り変えるという選択肢は無限に近い。今回のヘイワード・ギャラリーでの「About Face」展には、様々な国から70人の作家による、100点以上のポートレイト写真が出展されている。今回の展示内容は、「写真、そしてポートレイトの死」という副題が提案するとおり、写真の顔のイメージが、必ずしもその人物の内面を写し出しているとは限らないという現状を象徴している。



Orlan, Refiguration / Self-Hybridation #30, 1999
Courtesy of the artist, Paris. © the artist 2004

顔がテーマのアートと聞いて、フランスの作家オーラン(Orlan)を思い浮かべる人は少なくないはず。自分の顔の整形手術を、インターネットで生中継するという強烈なパフォーマンスが有名な彼女。ダ・ヴィンチのモナリザの額や、ボッティチェリのビーナスの顎など、数々の名画の美女の顔のパーツを組み合わせた完璧な顔を手に入れるというコンセプトで、1990年から計9回の整形手術を施し、外見は全くの別人となった。今回の作品は、理想的な美を表現していると言われる、コロンブスのアメリカ大陸発見以前のアメリカの古器物と、自分の顔のイメージを合成したもの。美を追求すればするほど、どんどんそれから遠ざかるという皮肉な現実。彼女の作品は、美の概念とは一体何なのかという疑問を、見ている人に突きつける。

日本から参加しているのは、最近、国内外の多くのメディアから注目を浴びている若手作家、澤田知子(Tomoko Sawada)。彼女のデビューとなったこの作品は、変装で400人の別人になりすまして撮った証明写真。小学6年生から平凡な女子大学生、水商売のお姉さんからナニワのおばちゃんまで、とにかくその化け方が半端ではない。十人十色、400人400色というわけで、それぞれが全く違った性格を持っているように見えるのだ。これでは本人が実際どのような人物なのか、とても予想がつかない。一見ユーモラスな作品だが、外見で人の内面を判断するという行為の曖昧さを示唆している。



Nancy Burson, Warhead I, 1982
Musee de l'Elysee, Lausanne. © Nancy Burson 1982

90年代初期に出版された「Face」という重い障害や火傷を負った子供たちをプラスチックレンズのカメラで撮った作品集が印象深い、アメリカの作家ナンシー・バーソン(Nancy Burson)。最近では、コンピューターで合成した作品を多く手がけている。今回の作品は、一見とても濃い顔のおじさんの写真。実は、80年代冷戦当時に、核軍拡競争に関わっていた世界の権力者の顔写真を、その国の核兵器保有量の比率にしたがって合成したもの。レーガン(アメリカ)55%、ブレジネフ(旧ソ連)44%、サッチャー(イギリス)・ミッテラン(フランス)・搶ャ平(中国)、各1%。せっせと核兵器を蓄えるという腹黒い行為が、きちんと顔の不気味さとなって現れているのがおかしい。



Aziz+Cucher, Rick from the series DYSTOPIA, 1994
Courtesy of Henry Urbach Gallery, New York and Galerie Yvonamor Palix, Paris. © Aziz + Cucher 1994/2004

「泣きべそをかいたブレアにブッシュ?!」思わず目を疑ってしまうのは、チェコの作家イジー・デビッド(Jiri David)の作品。アラファト(パレスチナ自治政府議長)、アナン(国連事務総長)、ブレア(イギリス)、ブッシュ(アメリカ)、シラク(フランス)、プーチン(カナダ)、ベルルスコーニ(イタリア)など各国10人の有力な政治家の顔写真に、作家本人の目と涙がデジタル処理で合成されている。顔のたった1つのパーツに手を加えただけなのに、世界のリーダーという肩書きがひき剥がされて、人間的な弱さがむき出しになってしまった彼ら。人格も、顔のイメージ1つで大きく左右されてしまう。「イメージを作る」のもたやすいが、「イメージを壊す」のも現代の技術では容易だ。

この他にも、マーティン・パー(Martin Parr)、トマス・ルフ(Thomas Ruff)、ジリアン・ウェアリング(Gillian Wearing)など、豪華な顔ぶれが揃った今回の「About Face」展。いろんな顔に遭遇できて面白いだけではなく、普段何気なく見ている顔のイメージが、価値観や判断などに大きく影響していることに改めて気づかされるという点で、とても興味深いものとなっている。


About Face
040624-040905
Hayward Gallery, London


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