血を流した故ダイアナ妃の肖像画をチャールズ・サーチが買った時から、彼女はメディアの注目の的となった。ロンドンの現代アートシーンに新たな衝撃を巻き起こしたステラ・ヴァインに時の人となった感想を聞いてみた。

チャールズ・サーチがあなたの絵画を購入して以来メディアの関心を沢山集めてきましたが、関心の的となってみてどう感じていますか?

まるで小さな女の子になったみたいで最初は好きでしたが、悪いことを書かれたりや批判も沢山されました。否定的なものが多くてずいぶん鍛えられましたが、とても感謝もしています。お蔭でショッキングなアートグループに便乗したただのセンセーショナルなストリッパーとしてだけでなく、アーティストとしての自分を証明するために頑張らなければいけなくなりました。そのつもりは全くなかったんですけど。

まだストリッパーとして働いているんですか?

いいえ、もうまったく。6年間くらい時々ウィンドミルで働いていて、テーブル・ダンス系のクラブもありとあらゆるところで働きました。ここ最近は、小さな少し怪しげなクラブで働いていて、そのことでちょっと神経質になっていました。マスコミが来ているんじゃないかとか、店の経営者が中に入れてくれないかもしれないとか気を回していました。人目につかないように、離れていた方がいいかもしれないと思って、それで少し離れていたんです。そうこうするうちにインターネット上で絵が売れ、実際には今までにないくらい上手く切り抜けてしまいました。

サーチとはどのようにして知り合ったんですか?

ダイアナの絵が、ハックニーにあるトランジションというギャラリーで開かれたグループ展「Girl on Girl」で展示されたんです。このショーは女性に関する作品作りをしている女性アーティストを集めたもので、その最終日に彼が来てダイアナの絵を買ったんです。


Photo: keiko kurita, 2004 ©

サーチが買ったと知ってまず最初にどう思いましたか?

まさに天にも昇る思いでした。いままでで一番幸せな日でしたね。私はサーチ嫌いではないので批判する気はありません。大金持ちでやり手のビジネスマンで、さらに情熱とハートが沢山あって最高の人生を送っている人間が、その上に芸術を見る目を持っていたとしても私はいいと思っています。彼が好きな作品は私もほとんど好きで、そのこと自体気に入っています。彼がやっている事との共通点も沢山あるように感じるので、ただひたすら嬉しかったです。これまでに起きた最高の出来事のひとつでした。

ダイアナの絵について語ってもらえますか?

あのダイアナの絵は新聞から来たものなんです。ちょうど執事のポール・バレルが、ダイアナから受け取った、頭の怪我がもとで死ぬかと思ったと書かれた手紙を暴露していて、その夜、家に帰って直ぐに描いたんです。あの三日間の間に、あの事故に関する絵を沢山描きました。彼女が乗っていない車だけの交通事故の場面、子供達、ポール・バレルが女王と一緒にいる場面など、フリー・メイソンっぽいものを沢山。かけ離れたこと…というかコンスピラシー・セオリー(陰謀理論)の域にほぼ達していましたね。

次にサーチが買った絵は「レイチェル」でしたよね。これはどういう風に描いたんですか?

レイチェルの写真は世界中に出回っていました。手に注射器を持ったままのレイチェル*の死はどこか不可解な空気に包まれていて、私は何年もの間そのイメージに取りつかれていて、色々な絵に描いていたんです。なぜ描いているのかはも分かりませんでしたが…。それで注射器を持った写真に苦戦していた時に、ネット上でそれと一緒に載っていたこの写真を見たんです。直ぐにダウンロードして、ものの20分で描きました。


Stella Vine, (Left) Hi Paul I'm Scared..., 2003 (Right) Rachel, 2004
Photo: keiko kurita, 2004 ©

この絵は衝撃を巻き起こしましたよね。レイチェルの両親が不愉快に感じていると報道もされましたし。

レイチェルを描いた時には、私がやっていることに関心をもつ人がいるなんて思いもしなかったんです。私の直感は、死んだこの少女に向かっていました。彼女のなかには不幸、ヘロイン、不吉なストーリーなど、人生のすべてがありました。だから彼女から血を流させるのは自然なことでした。

いまニュースになっている少女も、すごく描きたいんです。バスルームで男に絞め殺された女の子で、レイチェルと同じ無邪気な女子学生というイメージなんです。でもあえて血を描こうとも、いま描こうとも思いません。「ああ、また彼女がやったよ」とか「利用しているよ」とか「女の子が死ぬたびにステラが描く」って言われそうなので。でも、それでも私の本能は彼女を描きたがっています。たぶん私がやるべきことは、この少女の綺麗な絵を描くことなんでしょう。要は、描いても許される絵です。誰にも不愉快な思いをさせたくありませんし、ショッキングは私の使命ではありません。

サーチ・ギャラリーの「New Blood」展以降の展開について聞かせてもらえますか?

絵の購入希望者が大勢できました。大体30人位です。それに同じサイズの絵が今、2,200ポンドで売れていて、トランジションのショーに出品中の絵画は8割から9割方が売れてしまっています。

考えてみた仕事も沢山ありました。6,000ポンド出すから新車の絵を50x30フィートのサイズで描いてほしいと頼んできた自動車メーカーがありました。場所はリヴァプール・ストリート駅の外で、その場で三週間で描いてほしいということでした。でも先方が描く内容を指示しようとしたり、利用されているなと思えるところあったので引き受けませんでした。あとその他に、私の本を映画化するための映画製作権を買いたいと言ってきた人もいました。


Stella Vine, (Left) Stella Spain, 2004 (Right) Joseph and Joan, 2004
Courtesy: Transition

これらの最近起こった事にくわえ、ステラさんは自分のギャラリー、ローズィー・ワイルドも運営していますよね。これはかなり大変なように思いますが…。

もう本当に混乱しています。別に取り立てて新しいことではありませんが、自分で決めなければいけないことが沢山あるんです。うちで展示したいとか、代理人になって欲しいとか、そういう用件で人が大勢ギャラリーに押しかけてきます。でも今は本当に、まったく時間がなくて。実務経験のある人が絶対必要なんですが、今はそれをするだけの気力がないんです。

いま抱えている問題は時間管理だけですか?

経済面でも色々とあって、今にも災難に遭いそうです。渋滞税(Congestion Charge)の罰金が10件くらい溜まっているし、先週、ショーの準備をしている時にも駐車違反のチケットを切られてしまいました。サーチの件が起きる前に来ていた差し押さえ執行吏が最近また来始めて、昨日ギャラリーに来て私の持ち物を控えていったんです。こんなに気が重いのはきっとその所為です。ごく普通の日常的な事となると、私は超ムカついてしまうんです。

でも、ストリップに戻る気はしないんです。行けば一日の終わりにお金が貰えると分かっているので理には適っているんですが、自信がないんです。ストレスでだいぶ太ってしまってとても不健康な状態だし、それに、もし誰かが私がサーチのストリッパー・ガールだと知ったらと思うとゾッとします。マスコミに出ていたので、私の写真を撮るに決まっています。


Photo: keiko kurita, 2004 ©

ステラさんはトレイシー・エミンから影響を受けたとどこかで読んだことがあります。彼女の作品についてどう思いますか?

トレイシー・エミンの作品は、ターナー賞の展示で初めて見ました。新聞でベッドについて読んで、それで行ったんです。すごく感動して、「PJ ハーヴィーにそっくり。まったく同じ路線を行っている」って思いました。と言うのも、私にはこのかたずっとPJハーヴィーしかいなくて、パフォーマンスが年に一度しかなくていつも残念だと思っていたんです。で、それからトレイシーの作品を見て、「これは凄い!」って驚いてしまったんです。ストリップクラブで私が暇つぶしに書いていた小さなドローイングみたいにも思え、すべてがぴったりきてしまったんですよね。そのあと、彼女が「ジョン、クレイグ、ピーター、ポール、これはあなた達のものよ」って踊りながら言っているフィルムを見て、そこに座りながら涙がこみ上げてきてしまいました。


二人の間に共通している点はあると思いますか?

人としての共通点がかなりあると思います。私もノーフォークにビーチ・ハットを持っていましたし(!) 私は、「トレイシー・エミンみないなアートスターになりたい」と思うようなお馬鹿さんじゃありませんが、年齢もとても近いですし、お互い頑張り屋だとも思っています。それと、自己流でやってしまえという考え方あたりに、お互いアンディ・ウォーホールっぽいところも少しあるでしょうか。資金繰りのためにジン・ボトルを宣伝するしかなければ、それをする。DIY美学の中から出てきたトレイシーを私は尊敬しています。アートの世界はいま凄く如才のない人達で固められているせいか、DIY系をやり始める人たちがまた沢山出てきています。ブリットアートの時代が一種のルールになっていく中で、みんなそれに反発しているんです。具象的な作品もたくさん出回っていて、何だかよくは分からないんですけれど、こう何か、空気が感じられるんですよね……"ポップ・ハート"みたいな!

*2000年にヘロインの過剰摂取で死亡したレイチェル・ウィッティアー(Rachel Whitear)のこと。二度と同じようなことが起きないようにと、注射器を持ったまま床に蹲る当時21歳だったレイチェルさんの死亡写真を両親が公開したことによって、英国全土で大きな話題となった。


取材時期:2004年6月/3月  取材&訳:伊東豊子
© Toyoko Ito, August, 2004

関連記事:
「New Blood」展レビュー
日誌(2004年6月10日)
日誌(2004年2月24日)


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