Shhh…。シーッ…。静かに…。と、注意を促すこの展覧会は、来館者に耳を澄ますことを求めるもの。ここでの主役はサウンド、そして、耳。見ることが中心の美術館にしては少々珍しい企画となっている。

やることは基本的には音探しだ。チケットを買ったら二階のコンテンポラリー・ギャラリーで特性MP3プレイヤーとヘッドホーンと地図を受け取り、ここから散策が始まる。タイムリミットは2時間。忍ばされたサウンド作品は14点。音が「展示された」部屋に入ると、館内に導入されたハイテクシステムとMPプレイヤーが作動し、自動的に耳に流れてくる。参加作家はUKヒップホップ界の雄ルーツ・マヌーヴァからターナー賞作家のジリアン・ウェアリングまで、ミュージック界とアート界から集めた国内外のクリエーター10組。

この展覧会の良い点は、既存の展示物をフレッシュな感覚で鑑賞できることだ。体にダイレクトに伝わる音が加わったことによって、感覚が喚起される。目だけでは味わえなかった次元へと引き上げてくれる。

それを最も鮮烈に感じたのが、ラファエロの部屋を選んだエリザベス・フレイザーだ。V&Aが自慢するこの部屋には、ラファエロがバチカンのシスティーナ礼拝堂用に作ったタペストリーに使われた下絵7点が展示されている。下絵と言うと軽く響くが、入念に色が付けられ一枚の横幅が4、5メートルもあろうかというこれらは、独立した絵画と言ってもよい代物。フレイザーの甘美かつ崇高な歌声を聴きながら眺めていると、大昔の礼拝堂に立っているような気にさせられる。

トイレに盛大なフラッシュ音をプラスしたデイヴィッド・バーンも冴えている。こちらのトイレは、ヴィクトリア様式のエレガントなタイル装飾をそのまま残したレアなもので、トイレとしても機能しているが、クラフトワークとしても一見の価値がある。そんな宝石箱のようなトイレに、大洪水のようなフラッシュ音。トイレに"存在理由を思い出せ!"と一撃を飛ばすような遊び心がとてもいけている。

このようにサウンドの助けを得た館内散策はかなり新鮮だが、その一方で鑑賞に浸りきれない残念な点もある。まず、全7フロアー200以上の展示室で構成されたV&Aは半端じゃなく広い。そのうえレイアウトも複雑なため目的の展示室に辿り着くまでがひと苦労だ。やっと辿り着いたと思ったら今度はMPプレイヤーが作動しない。センサーが取り付けられた入口を行ったり来たししてみるがやはりダメ。仕方なく近くの係員に訊ねてみると「機械のことは分からない。受付に戻って新しいプレイヤーと換えてもらうしかない」と"親切"なひと言。お陰様で往復10分のロス。

こうなってくると、2時間という時間制限がさらに苦しくなってくる。ただでも作品の収録時間が合計で59分41秒、つまり聞くだけで一時間はかかる。さらに各サウンドピースが展示室の美術品を考慮して作ったものと聞けば、展示品の鑑賞もしたくなる。プラス、館内をウロウロする時間も必要だ。正直言って最後は時計を睨みながらの鑑賞だった。歩き疲れもした。だから最後のガラスの部屋でコーネリアスの「Music for Glass Room」が流れてきたときには、ガラスの煌きと戯れる神々しいサウンドに心身ともに癒されていくような気がした。

とまあ多少苛つく点もあったが、体験しがいのある企画だったことは確かだ。加えて、美術の枠組みではビジュアルの付随的存在であるサウンドを主役に持ってきた点や、サウンドの助けを得て常設展示品の鑑賞に新たなアングルをもたらした点にはエールを贈ってあげたい気分だ。2時間ずっととはいかなくとも、文化財の墓場にスピリットが宿ったかなと思えた瞬間が何度もあった。


"Shhh..."
04/05/20 - 04/08/30
V&A

 


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