鼓膜を圧迫するギターの唸り。原色が眩しいポップな絵。忙しなく点滅する電光掲示板。そしてヌードに、ヌードに、ヌード・・・。洗練された現代彫刻を得意とするリッソン・ギャラリーにしては珍しい光景だ。

「絵がスピーカーになったんです」記号化したブライアン・アダムスを見つめながらジュリアン・オピーは穏やかにこう語る。ロック・スターが道路標識風に描かれた作品は「絵」のように平坦だが、近づいてみるとそこが音源であることがわかる。(Bryan plays guitar 2)

「ある日、ブライアンから私のウェブサイトにポートレートを描いてくれないかというメールをもらったのが始まりなんです。そこで私の方から、支払いは要らないので、その代わりに曲を一曲書いてもらえないかと提案してみたんです。そして出来上がったのがこの曲です」


Julian Opie, Bryan plays guitar 2, 2004

今回の個展はブライアン、モデルのサラ、コレクターのモニカの三名にそれぞれ一室を宛がうという構成のもの。漫画『タンタン』を思わせる点目平坦顔が目立った三年前の個展に対し、今回はボディーに重点をおいた全体像が中心となっている。

「動き。いま、僕が興味をもっているのは、この動きをどう表すかなんです」違うポーズを取る三人のブライアンを見ながら、新作における「動き」の重要性を説くオピーさん。そして、360度違うアングルから見たブライアンを一枚の絵に載せることによって彼の動きを伝えようとした、とどこかキュービズムを連想させるようなことを言う。すかさず指摘してみると、この作品はピカソの「Three Musicians(1921)」を基に描いたものだと教えてくれた。

  
Julian Opie, Sara undressing, 2004
アニメーションからの静止画像

促されるままに次の展示室に入ると、こちらではどこから見てもそっくりなサラ12人がブライアンの曲に乗ってストリップショーを展開中。ここでも目立つのはやはり動きで、あるサラは漫画のコマのように左から右へ、別のサラはコマ送りのアニメのようにモニター上で果てしなく服を脱ぎ続けている。

特に印象に残ったのが、官能的なダンスを披露する電光掲示板上のサラ。装置はふだん道路標識などに使われている色気もそっけもないものだが、サラの動きはそのドット姿からは想像もつかないほど優雅。この作品のためだけに58枚もデッサンをしたと聞いたが確かにそれだけのことはある。(Sara Dancing Topless)。

その隣りの、見る角度によってサラの格好が変わる「Sara gets undressed」もなかなか。鑑賞者自身が動くことによってイメージが動いているような錯覚を与えるこの作品は、昔、お菓子のオマケで貰った眺める角度によって絵が切り替わる、レンチキュラー加工されたシールを思わせるもの。メラメラと銀色に光る素材の安っぽさが、サラの冗談めいた記号姿と、脱ぐという軽い行為に合っていていい感じ。



Julian Opie
写真上)一階奥展示風景
左Sara, Turning (Silkscreen), 2003; 右Sara, Turning, 2004
写真下)二階展示風景
左Monique, Walking, 2004; 右This is Moniqu, 2004

スタイリッシュなマンガ風のデザイン、ミュージシャンとのコラボレーション、コンピューター画像と現代的な感性に溢れているオピーの作品。その現代性には「美術」という堅苦しい言葉を忘れて、ただ純粋に親しめてしまえる魅力がある。しかし、今回、彼の「動き」への拘りを辿ってみて気がついたのは、そんな今風のイメージとは一味違う正統派な一面。

どんなに軽く見えようとも、彼の作品を支えているのは画家としての確かな目と腕。描いて描き抜いた末に生れた確実なライン。それらを組み合わせることによって、動きの錯覚が作り上げられてゆく。この点はパネルがコンピューター・スクリーンになろうと変わらず、滑らかなアニメの裏には何十ものデッサンが隠れている。そんな作品を通して見えるのは、トレンディーな現代作家の中に潜む正統派画家としての意外な一面。どうも奥はまだまだ深いようだ。


Julian Opie
040305 - 040414
Lisson Gallery
取材は3月4日リッソン・ギャラリーにて行われた。

 


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