Terry Duffy Blind Leading the Blind, 2002


「盲人が盲人の道案内をすることができようか。二人とも穴に落ち込みはしないか。」こちらは聖書に書かれている言葉で、盲人が盲人を手引きしても所詮穴に落ちるだけ、手引きをする者は愚か者であってはいけないという教えの喩え。絵画の主題としても親しまれ、16世紀の画家ピーター・ブリューゲルの「盲人の寓話」(1568)がその代表的な例だ。

その「盲人の寓話」が、340オールド・ストリートで開催されたテリー・ダッフィーの絵画展「Whitewash」にも登場。しかしこちらでは、落ちてゆく盲人の先頭にはイラクの元独裁者サダム・フセイン。これにブレア、ブッシュと世界のリーダー達が数珠繋がりになって、国連事務総長のコフィ・アナンを誘導してゆく。題名の「Whitewash」とは過失や汚点などをごまかしたり、体裁をつくろうという意味をもつ単語で、当局などによる隠蔽工作を指す時によく用いられる。ダッフィーの「盲人」ではリーダー達の愚劣さが、“いくら隠しても無駄”と嘲笑するように単純明快に描かれていて小気味がよい。



Terry Duffy, Scapegoat, 2004

もうひとつの展示作品は「スケーブゴート」。ラファエル前派の画家ウィリアム・ホルマン・ハントの「贖罪の山羊」(1854-55)にベースした油彩で、顔はイラクの大量虐殺兵器に関する情報操作をめぐって自殺に追い込まれた元国防省顧問のデイヴィッド・ケリー。盲目な政治家たちによってスケープゴートにされてしまったイラク戦争をめぐる被害者のひとりだ。実は、この「Whitewash」展は、ケリー氏の自殺に関する調査報告書ハットン・レポートの公開にタイミングを合わせて開かれた企画で、もともとの題名は「Hutton Report」だったらしい。しかしレポートの不十分な結果をみてダッフィー氏はこれを「Whitewash」と替えることにした。

偶然にも先週、ブレア内閣の元閣僚のひとりクレア・ショート前国際開発相が、英国情報部がコフィ・アナンの電話を盗聴していたと暴露し、英国の新聞の見出しを賑わせた。その前日には情報漏えいで訴えられていた英国政府通信本部(GCHQ)の元職員キャサリン・ガンに対する告訴が取り下げられた。ガンが漏らした情報は、米英がイラクに対する武力行使を唱えていた去年三月、米国が英国に非常任理事国に対するスパイ活動の援助を求めてきたという内容。告訴取り下げの理由は、イラク戦争に関する情報を政府が出したくなかったからではないかというのが巷の見解だ。その直後に発されたクレア・ショート女史の発言のタイミングも絶妙だったが、ダッフィー氏も負けていないようだ。

文:伊東豊子(2004年3月1日)
 © Toyoko Ito, March, 2004

"Whitewash"
Terry Duffy at 340 Old Street
本展は2004年1月から2月にかけて開催された。


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