今月のロンドンはポートレート写真展が気になる。ひとつはハリウッドから英国王室までセレブを総なめにしたセシル・ビートンの生誕百周年展。もうひとつはアメリカのミュージック史を切り取るアニー・リーボヴィッツ展。

美貌に権力と、この世のグラマーが凝縮するビートン展。デビューは1922年、ケンブリッジ大学在籍中に撮った妹の写真。モード受けをねらったこれらの写真が詩人イーディス・シトウェルの目にかない、それを機に上流社会への仲間入り。その後『Vogue』『Vanity Fair』との契約を経てハリウッドにも進出。そして1939年、デビュー17年目にして宮廷に召喚。被写体は当時のエリザベス女王、現女王の亡き母“クイーン・マザー”。ビートンに許された時間はわずか20分だったそうだが、気付いてみれば日が暮れていたという神話が残っている。

女王や女優だけでなく、ピカソにコクトー、カミュにサルトル、シャネルにスキャパレリと文豪や美術家、デザイナーらの存在も目立つ。そんななか私の目が留まったのは、エレガントなビートンとは水と油、フランシス・ベーコンを撮った一枚の写真。解説文によるとベーコンからもビートンに肖像画が捧げられたそうだが、それはビートン曰く「顔が重症の象皮病患者のように目の前で崩れてゆき、ほぼ判別できなかった」という代物。両者並べて拝見したかったところだが、肖像画は画家の手によって処分されてしまったという残念な話。

 

Cecil Beaton
Greta Garboi, 1946.
Courtesy Sotheby’s, London

Cecil Beaton
Marilyn Monroe
, 1956.
Courtesy Sotheby's

 

一方アニー・リーボヴィッツは、若干24歳で『Rolling Stone』誌のチーフ・フォトグラファーに就任したアメリカン・ミュージック界お墨付きの記録者。代表作はジョン・レノンが撃たれる直前に撮ったジョンとヨーコの最後のポートレート「John and Yoko in a Hug」(1980)。四年がかりの新作シリーズ「American Music」が展示中の今回の会場にも、B .B. キング、イギー・ポップ、ブルース・スプリングスティーンからホワイト・ストライプス、メアリー・J・ブライジまでミュージックシーンの「顔」たる存在が続々と登場する。

ビートンのすまし顔の美男美女に対し、リーボヴィッツのミュージシャン達は自然体だ。撮影場所は自宅や車のなかや道端。新作でも大部分がモノクロ。トーンも報道写真のように素面だが、オーディオガイドからのリーボヴィッツの声がそれに色を添えてくれる。B.B.キングが誕生日には決まって田舎に帰ることを思い出してはミシシッピー・デルタまで車を飛ばし、ローリー・アンダーソンを訪ねてコーニー・アイランドに行けばルー・リードがそこに登場、散歩がてら港で二人のツーショット。という具合に一枚一枚エピソードを聞きながら観れるのが嬉しい。おまけにミュージックまで聴けてしまう。

バックグラウンドも出身国も、活動の時代も、写真のスタイルも違う二人。しかし「セレブ」という共通点が、一見接点のなさそうな二人を結び付けてくれる。片方だけでは見えなかったものが見えてくるように感じられる。そのうえ集まったヒーローにヒロインたちは80年分。それだけでも訪れる甲斐はあるだろう。

 


Annie Leibovitz
Ryan Adams, Hollywood Hills Best Western Hotel, Los Angeles, 2002.
© 2002 A. Leibovitz


Annie Leibovitz
B.B. King, Club Ebony, Indianola, Mississippi, 2000.
© 2002
A. Leibovitz

 

 

Cecil Beaton
"Portraits"
040205 - 040531
National Portrait Gallery

Annie Leibovitz
"American Music"
040220 - 040509
The Hospital



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