伊東豊子(T): 田中さんの作品は「マイナス・ワン」のハイライトと聞いていますが、出品作品について少し聞かせてもらえますか?
 

田中紀子(N): ハイライトかどうか私の方からはなんとも分かりませんが、観客参加型作品という意味では必然的に人の関心を呼んでしまうのかもしれません。また作品の素材が食べ物ということがそれに輪をかけることになり…。そうですね、視覚以外の感覚でも堪能できる作品というわけです。ただ、今回は地下鉄の駅という場所柄、ネズミの問題があるためナマモノ系は出せないのが心残りではあります。具体的には駅の構内の一角にテントを張り、その中で作品の一部であるお菓子とみんな何かしら持っているハッピーな話しとの交換が行われます。
 
 
 
T: 連作プロジェクト「Happy Hour」の一部のようですが、こちらはどんなプロジェクトなんですか?

 
 
N: まずこのプロジェクトは私、田中紀子と船木美佳の二人が始めたコラボレーション・ワークで、私と小島巳和が運営するアート・オーガニゼーション「courier」の企画の第一弾として成り立っています。移動可能なテントの中でハッピーな話しを集めてゆくプロジェクトで、集めてゆく方法、インスタレーションは行く場所によって変わっていきます。人々の美しい話を集めていくという舟木美香の作品と、私の食べ物を使った作品の、簡単にいえばその二つが合体したものです。

第一回目はオランダのロッテルダムで観客をアフタヌーン・ティーに招き、お茶をしつつインタビューと言う形でハッピーな話しを集めるものでした。第二回目はロンドンのバー、Hat on Wallにて一晩限りのアートイベントを催し、バーでお酒と共に渡されるコースターの裏にハッピーな話を書き込んでもらい、それとケーキを交換するという行為でもって私達はハッピーな話を集めました。今回はその2回目の続編、Hat on Wall でのイベントが1本のテープのA面だとすると今回はB面という感じで考えています。
 

 
T: その場で食べられる作品というのは、私は田中さんの例が初めてですが、どういう経緯で食べ物を使うようになったのでしょうか?

 
   
N: 私の制作の流れとして、この食べ物シリーズの前に「プライベート・ランドスケープ」というシリーズがあります。そこで出てくるランドスケープはなぜかいつもケーキのクリームのごとく滑らかな形でした。そこからの影響で、“だったら、実際に素材としてそのものを使ってしまえば!”とティラミスマウンテンを作ったのがはじまりです。
 

 

 Noriko Tanaka + Mika Funaki, Happy Hour Project in Rotterdam 2003, Photo: Courier ©
 
  
T: 田中さんにとって食べ物とはどういう存在ですか?
 

 
N: 食べ物を使って作品を作っている以上マテリアルの一つです、と言いたい部分もありますが、私はそんなにクールになれません。でも逆に、マテリアルの一部のとして使われているとしか思えない程、純粋に美しい料理はたくさんあります。それでも美味しいということは最重要なところで、本当に美しい料理は同時にすごく美味しかったりもします。私の食べ物作品もその"美味しい"という所は押さえるべきところと心得ています。

  
T: よくケーキを使われていますよね。その理由は?
 

 
N: とても個人的な感情かもしれませんが、ケーキという存在にとてもエキゾチックなものとノスタルジックなものを同時に感じてしまいます。その両犠牲がとても魅力的なのです。
 
  
T: 来場者のリアクションはいかがでしたか?

 
 
N: みんなまず一番初めの人が緊張します。ケーキにナイフ入刀…と言うフレーズを思い出しますね、いつも。でも、毎回普通とは言えない大きさのケーキが多いため、やはり甘党の人達には大変魅力的なようです。感極まって思わずドバーっと持っていってくれるのを見ると、なんだかこっちも気持ちいいですね。
 
 
T: 見方によっては、観客とのコミュニケーションを図るために食べられる立体を作っているとも受け取れますが、いかがでしょうか?
 

N: 作品とそれを見る人のコミュニケーションはとても大切だと思っています。同じく作家と観客の関係もとても大切だと考えます。問題はそのバランスです。私はその作品と観客、作家と観客の距離が上手くとれていると感じられる作品がとても好きです。そのコミュニケーションを考える時に、食べるという行為がなされること、そして今までの一連の作品の場合、その食べられていく短い時間に私自身がその場にいることで、作品−観客−私の距離を縮める手がかりが一つ増えるということだと思います。
 

 

 Noriko Tanaka + Mika Funaki, Happy Hour Project in Rotterdam 2003, Photo: Courier ©
 
 
T: 展示の後、変わり果てた作品の姿をみてどう感じますか?

 
 
N: 前と後では、後の方に審美的な美を感じます。宴の後のテーブルみたいでちょっと物悲しいのだけれど、幸せを感じます。
 
 
T: 田中さんにとって制作活動とは?
 

N: 一見進行していない時も実は常に進んでいて止まることのないもの。
 
 
T: いま関心を持っているエリアやテーマを教えてください。
 

N: 沢山ちょこちょこあるのですが、一つはインタビューについて。「Happy Hour」プロジェクトでインタビューしたり、今回こうやってインタビューされたり。普段とは違った方向から物事を見れる感じが心地よかったりしています。今後の作品のツールとしてちょっと気になる領域です。
 
 
T: 今後の方向性について聞かせて下さい。
 

N: 目下、「courier」 として「Happy Hour Project in Tokyo」を実現すべく活動しつつ、月一でとあるカフェをシェフとして切りもり。そこでのイベントも企んでいたりもします。どちらにしても当分食べ物から離れられなさそうですね。

(取材:伊東豊子、2004年1月)

 
 

田中紀子
1972年生まれ、岡山県出身。
1995年に名古屋芸術大学美術学部デザイン科造型実験コースを卒業後、渡英。ロンドン大学スレードスクールにて修士課程修了後(97)、チェルシーカレッジ・アソシエイトリサーチコースを経て、ロンドンを拠点に活動。2002年からアート・オーガニゼーション「courier」の運営を始める傍ら、食べ物を素材に観客を巻き込むパフォーマンス的コラボレーション作品を展開中。


作品掲載サイト:
courier-art.org

開催場所:

Aldwych Underground Station
The Strand
London WC2B

開催期間:
プライベート・ビュー
30 January 2004, 18:00 - 20:00

展覧会:Minus One
28 - 29 January 2004, 14:00 - 20:00
30 January 2004, 14:00 - 18:00
入場無料

チャリティー・パーティー:Underground Party
31 January 2004, 19:30から
要入場券(前売りのみ、10GBP)

入場券からの収益は児童チャリティーWellChildに寄付される
詳細についてはwww.minusone.org.uk

 

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