伊東豊子(T): マイナス・ワンは手短に言ってどんなイベントなのでしょうか?
 
 
伊東篤英(A): 「マイナス・ワン」は展覧会のタイトルで、イベントは「アンダーグラウンド・パーテイ」と言います。マイナス・ワンでは現在活躍中の30名の作家が集まって、閉鎖されている地下鉄の駅オールドウィッチ駅で作品を発表します。 彼らの作品はフィルムにデザイン、絵画、陶芸、写真、ファッション・デザイン、サウンド、さらには食べられるインスタレーションまで、幅広い表現手段を使っています。アンダーグラウンド・パーテイは一晩だけのイベントで、児童チャリテイーへの寄付が目的です。
 
 
 
T: タイトルの由来を教えてもらえますか?

 
 
 
A: 僕がキュレーションを引き受けることに決まった時点で、他のタイトルから「マイナス・ワン」に変えました。このタイトルはいろいろに解釈できるとおもいますが、最初に頭に浮かぶのが「地下一階」という解釈。同じように下の層、またはこれから表面に現われてくる層とも解釈できます。または、自我、自分自身を消すともとれます。一歩下がってみると言う感じが解りやすいかと思います。「押して駄目なら引いてみろ」ともよくいいますね。このタイトルから微妙かつ非直接的なニュアンスが伝われば良いのですが。

実はここ三年の間にアーテイストの友人を二人失ったために、何かが欠けていて、不完全な感じが抜けません。だから、彼らの仕事から何か引き継いでいけないかと思っています。もしなにか引き継いでいけるものがあるとすれば、それは悲観的な意味ではなく、否定性という観念です。謙虚さや、削減、陰、消隠、あるいは、批判としての否定性です。

 

 

 Louise Camrass, Where Have All the Gods Gone?, 2003
 
  
T: どういう理由から地下鉄の駅で展示することにしたのですか?
 

 
A: 地下鉄の駅は常に別世界への入り口です。ドストエフスキーの「地下室の手記」を読んだことはありますか。これがかかれた19世紀後半から20世紀中ごろにかけては、表面化に隠された原理や無意識についての関心がとても強かった時代で、フロイドの心理学がその好例と言えます。さらに最近では、亡きマーテイン・キッペンバーガーのインスタレーションを思い起こす人も多いと思います。かれは地下鉄の駅の入り口を作ったんですが、この入り口は地球の片側の駅と反対側の駅をつなぐものだそうです。まあ、これはかなりイカレていますけど。

 
  
T: 別世界のような展覧会を意識して駅を選んだということですか?

 
 
A: そこまで直接的ではありません。もちろん、そういう風に想像をしていただくのは自由ですが、心理学との接点をほのめかすつもりもありません。どちらかというと、日常世界から意識的に隔絶された劇場空間を訪れるような感覚です。
 
 
T: 「ホワイト・キューブ」(真っ白に塗られた箱型の展示室)に対抗して選んだという訳ではないのですか?
 

A: それは特にありませんね。実を言うとホワイト・キューブは好きです。ホワイト・キューブに挑戦するなんて、退屈なほど、保守的だと思います。一般に言われる「挑戦」という考え方自体が、伝統的な「前衛的」概念のリサイクルに過ぎません。ホワイト・キューブという空間は案外と新しいものですが、画廊や美術館といった美術の分野でその役割を果たしていると思います。
 

 

 Angela Fechter, She made the leap in what had never been, 2002
 
 
T: 展示に関して、何か大変なことなどありますか?

 
 
A: あのスペースを使いこなすのは容易ではありません。面白い点もありますが、問題もいろいろとあります。作品ひとつひとつに相応しい場所をあたえ、全体の流れをつくるには膨大な作業が要求されます。壁に穴を開けられないとも聞いているので、それによって、展示方法がかぎられたり、ポスター用パネルによって平面作品の展示位置が限られてしまったりと、頭が痛いところです。
 
 
T: どのように対処するつもりですか?
 

A: 他の問題を解決するのに忙しく、まだ考える余裕のない状態です。資金の調達や宣伝、アーティストとのコーディネートなど、いろいろと処理していく仕事があります。限られた時間のなかで、組織の枠組みもなくこう言ったプロジェクトを実行するには、自分で全てのことに触れなければならず、プレッシャーを感じます。 しかし逆に、マイナス・ワンの強みは、組織的な仕事の仕方に縛られないその瞬発力です。
 
 
T: どんな作家が参加する予定ですか?
 

A: まずは映像作家、ルイース・カムラスで、彼女は繊細な感性と洗練された表現力を持ち合わせた作家で、日常のなかで見えにくい微妙な感覚を浮き彫りにできる作家です。ステイーブン・イーストウッドもおなじく映像作家で、「The End]や「I make things happen]など観るものを笑わせながらも考えさせる映像を撮っています。写真ではアンジェラ・フェヒターが自らを登場人物とする作品のなかで、どこか、自己破壊的な匂いをただよわせています。それから貫井トシは犬と人との関係をどこかコミカルにみせています。生まれてから死ぬまでお金をあつめた英国版忠犬ハチ公のような犬を題材にしています。

 
 
T: 展覧会のハイライトは?
 

A: ケーキと綿菓子がもらえる屋台を田中紀子が出します。このケーキをもらうには「ハッピーな話し」を一つ書いてもらわなければいけないんですが、それから、甘いケーキをもらって、自分のオリジナル「ランドスケープ」をつくってもらうというものです。ほかにも優れものの映像作品が何本もあります。
 

 

 Toshi Nukui, Station Jim, 2003
 
 
T: ご自分の絵画も展示される予定ですか?
 
 
A: そうですねえ。実を言うと、どうしたら作品を見せなくて済むか考えているんですが、良い方法は思い当たりません。できるなら、目に見えない作品を展示したいくらいです。言い方をかえれば、展覧会に参加して、作品を見せるというその行為自体がとても重要な売り込みになっているような感じがしますが、発表すればそれが必ずアーテイストのキャリアや作品の価値にプラスになるわけではありません。良い形で作品が発表できなければ、無駄な努力に終わってしまします。
 
 
T: マイナス・ワンのテーマと同じく否定性を感じさせるコメントですね。ではキュレーションについて伺いますが、作家選考の基準を教えてもらえますか?
 

A: 僕が全員を選んだわけではありませんが、次のことははっきり言えます。僕は今流行りの「計算された不器用さ」は嫌いですね。不器用さは創造力の証しにはなりません。不完全、未完成を売り物にするのではなく、きちんと作品を制作できる作家を選びました。さらに成功していようがいまいが、アーテイストとしてのキャリアに身を捧げている作家を選びました。
 
 
T: キュレーターを務めてみての感想を聞かせてもらえますか?
 
 
A: 良い作家達を引き合わせることができて、嬉しいです。かれらが次のステップに進むのにあたって、この展覧会が何かの形で役にたってもらえれば更に嬉しいです。また訪れる人たちがこの展覧会を通じてマイナス・ワンの概念や、作品から感じたことを考える機会になってくれれば尚嬉しいですし、更には美術作品への接し方を再考できるような場になってくれるとありがたいですね。

(取材:伊東豊子、2003年12月)
 
 

伊東篤英
1965年生まれ、静岡市出身。
絵画と社会人類学をロンドンで専攻後、オーストラリアの西シドニー大学でオリンピックにむけての土産物の人類学的リサーチを実行、その後ロンドンに戻る。 スタジオでの仕事を続けながら、数々の展覧会・コンテストに応募するが、断られ続ける。この断られた手紙を集めた「Dear Thank You Yours Sincerely」が2001年にポコ・エデイションより出版される。2002年にサリー美術・デザイン研究所のサポートをうけ日本の東海道を軸としたランドスケープ・ペインテイングのプロジェクトをはじめる。



開催場所:

Aldwych Underground Station
The Strand
London WC2B

開催期間:
プライベート・ビュー
30 January 2004, 18:00 - 20:00

展覧会:Minus One
28 - 29 January 2004, 14:00 - 20:00
30 January 2004, 14:00 - 18:00
入場無料

チャリティー・パーティー:Underground Party
31 January 2004, 19:30から
要入場券(前売りのみ、10GBP)

入場券からの収益は児童チャリティーWellChildに寄付される
詳細についてはwww.minusone.org.uk

 

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