Sofia Hulten. Grey Area, 2001
Courtesy: The Photographers' Gallery, London


「好でも嫌いでも、大部分の人達のワーキングライフの中心を占めているのがオフィス」とカタログに書かれている通り、このグループ展では現代人の多くが一日の大半の時間を過ごすオフィスが主役となっている。

作家11人の写真と映像を集めた展示は、オフィスであれば何でも結構という雑多さのなかにも、二つの傾向が際立って感じ取れる。一つはオフィス空間を人工的に作り上げた「コンストラクション型」の写真で、もう一つはオフィスワーカーの無能ぶりや場違いな行為をコミカルに捉えた「テレビコメディー型」の映像だ。


Thomas Demand. Ecke (corner), 1996
Courtesy: The Photographers' Gallery, London

「コンストラクション型」を展開している作家には、トーマス・デマンド(Thomas Demandドイツ)やナイアル・ブランクレー(Niall Blankleyイギリス)などがいる。線と面が妙に目立つデマンドの写真のなかのオフィスは、紙やダンボールを使って精巧に作り上げたセットを撮ったものだ。一見ありそうでいて、人も居なければ人の残した痕跡もない「白紙」の世界には無機質なまでの人工さを感じてしまう。一方、ブランクレーはその対極を行き、オフィスはトイレや台所の隅に無理やり押し込められた即席事務所として存在する。恐ろしいまでの生活感に驚きながらも、「でもなんか分からなくもないかも」と自らの生活と照らし合わせ、一瞬これが作られたシーンであることを忘れてしまう。


Niall Blankley. Workstation Thos. Bogle, 2003.
Courtesy: The Photographers' Gallery, London

「テレビコメディー型」を展開しているのは、映像作品「Interregnum」を出品しているジョン・ピルソン(John Pilsonアメリカ)や「Gray Area」のソフィア・フルテン(Sofia Hultenスウェーデン)など。「サラリーマンはつまらない」という通俗的な意見に挑むピルソンの映像では、エグゼクティブがミスター・ビーンばりの無能さを発揮したり、社員がオフィスのパーティションを使ってハードル飛びを披露したりと、見てて笑えるだけでなく本物のサラリーマンが演じているとは思えない程よく出来ている。フルテンの場合女子社員に扮しているのは彼女自身だが、トイレの天井裏に隠れたりカーペットの下に潜ったりする行為は、ピルソンと同じで馬鹿らしいほどコミカルに見える。



John Pilson. Video still from Mr. Pick-up, 2001
Courtesy: The Photographers' Gallery, London

見ていると結構楽しめるが、残念なのは全体的に現実感が希薄なことだ。なかには実際にオフィスでの勤務経験を持つ作家も含まれれているようだが、あちこちに外部者的なよそよそしさが感じられる。テレビコメディーに倣って道化を強調するのもいいが、道化に転じざるを得ないやるせなさや逃げ場のない現状といったものが感じられず、現実味が伝わってこない。これくらいだったら、この展覧会と同じタイトルのドキュメンタリー・コメディー番組「The Office」(BBC)の方がずっとお勧めだ。製紙会社で働く地味で怠惰な社員達を描いた、ドキュメンタリータッチのシラけたこのドラマのほうが、何倍も正確にそして鋭くオフィスライフの核心を突いている。ユーモアももちろん比じゃない。

そうは言え、現代社会に欠かせない存在でありながら美術展では珍しいエリアを扱うこの展覧会は、アートと社会との関係を考える良いきっかけとなりそうだ。現代アートの世界では、欠伸がでるほど「日常(every day)」という言葉が使われながらも、不思議なことに日常のシンボルとも言えるオフィスやサラリーマンが題材として取り上げられる例は少ない。冒頭のコメントを思い出すと、つまり、私達の時間の大部分がオフィスで過ぎていくことを思い出すと、これはかなり由々しきことのように感じる。オフィスライフなんて面白くないし、絵にもならない。そのうえ芸術とも接点がないから当然扱われもしないのだろうが、しかし、そんな面白くもないところに面白さを見いだし、そこに避けようのない現実を込められるアーティストもいる。それはテレビ番組「The Office」を見ればわかる。

文:伊東豊子(2003年12月3日)
 © Toyoko Ito, December, 2003

"The Office"
031127-030118
The Photographers' Gallery, London

"The Office"
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