John Currin, The Pink Tree, 1999
Oil on canvas
78 x 48 inches (198.1 x 121.9 cm)
Hirshhorn Museum and Sculpture Garden, Smithsonian Institution, Joseph H. Hirshhorn Purchase Fund, 2000. Courtesy Andrea Rosen Gallery, New York. Photograph by Fred Scuton.
© 2003 John Currin



絵画にヌード。ここ最近にしては珍しいくらいオーソドックスな組み合わせだが、ジョン・カリンの描く絵にはそれがポルノに見えようが伝統絵画に見えようが、金髪、巻き毛、巨乳と三拍子揃った美女達が次々と登場する。そんな彼女達を鑑賞するのは結構楽しかったりするが、それはその美貌ゆえにと言うのとは少し違う。彼女達はむしろ滑稽なくらいに不恰好で、ヴィーナスのような澄まし顔をしながら体が妙におどけていたり、胸で懐妊?と言いたくなるほどそれが肥大化していたり、ろくろっ首じゃあるまいしと呆れるほど首が長かったりと、みな結構なひょうきん者だったりする。

絵画を始めてまだ十年たらずというカリンは、最初のころはピンナップ写真や昔の卒業アルバムの写真をみながら、これに豊かな想像力を組み合わせて描いていたという。この頃の作品をみると関心はとりわけ胸に集中し、青空をバックに黒手袋をした男の手が豊満な乳房を揉みしだく「Wizard」や、メジャーで胸の測りあいっこをする女の子達を描いた「The Bra Shop」など、フェミニズム活動家がみたら心穏やかじゃないだろうというものがかなり目立つ。

このピンナップスタイルが'98年頃を境に、アメリカで一躍注目されることになった伝統絵画を元にしたスタイルへと変化する。カタログのなかで美術史家ロバート・ローゼンブラムが名画とカリンの作品との接点を仔細に解説しているように、クラナッハやボッティチェリなどルネサンス期の巨匠はもとよりアングル、クールベなど19世紀の画家まで様々なスタイルが作品に取り込まれるようになる。ここ一、二年は、その矛先を女の花園からさらに男のカップル、静物へと広げている。



John Currin, Park City Grill, 2000
Oil on canvas
38 x 30 inches (96.7 x 76.2 cm)
Collection Walker Art Center, Minneapolis, Justin Smith Purchase Fund, 2000. Courtesy Andrea Rosen Gallery, New York and Sadie Coles HQ, Ltd., London. Photograph by Andy Keate.
© 2003 John Currin

伝統絵画にベースした作風に切り替えた当時のことを振り返り、「クラナッハっぽいヌード画にしたら、人々の反応がとても良くなった。たぶん、初めてアイデアを持たなくてもいいと感じられたからだと思う」と語っているカリン。伝統芸術のオーラを吹き込んだことにより閉ざされていた扉が開けた、女性のヌードを描くのにつべこべアイデアを込める必要がなくなった、と受け止めることができる。その分もっと描き方のほうに集中できるようになったともコメントしている。

名画からエッセンスを取り出し、それらをさらりと自らの作品に取り込んでしまうカリンの腕には感心する。描かない、又は、描けない作家が多く、たまに大型美術館で絵画展があっても取り上げられるのは大御所ばかりという現実のなか、描き始めて十年たらずでこれだけの場所でこれだけの纏まった絵画を大盤振る舞いできるカリンはかなりいい線をいっているのだろう。しかし、ノスタルジーたっぷりのスタイルで埋め尽くされたキャンバスの先には一体何があるのだろうか。女の花園あるいはお化け屋敷のほかにも何かメッセージが隠されているのだろうか。よくある伝統に対する反発もあまり感じられないし、単に『美術史アート』にベースしている事がエッセンスというのならば、残念ながらつい先月同じこの会場でシンディ・シャーマンの名画シリーズ(写真)を見たばかりだ。目の保養にはなったものの、何かが欠けていたような気がする。

文:伊東豊子(2003年10月8日)
 © Toyoko Ito, October, 2003

John Currin
030909-031102
Serpentine Gallery, London


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