8月7日午後6時30分。トテナム・コート・ロード近くにあるソファー販売店に、数百人の群集がいきなり現れた。店の主は呆気に取られ、ネタを嗅ぎつけたカメラマンはシャッターを切り、通りすがりの観光客もが「どうしたの?何なの?」と通行人に訪ねながらカメラを構え始めた。群集はその数分後、後かけらもなく雑踏に消えて行った。

ソファー店を襲ったのは、「London Mob」と呼ばれる謎のグループが企画したイベントに参加した男女数百名だった。イベントについての通達はすべてEメールで行われ、この日、グッヂストリート駅周辺のパブ3軒に集合するようにと指示があった。そこで集まった者達に、最終的な集会場所と集合時間についての細かい指示が配られた。

このイベントは、今年5月にニューヨークで始まりその後米国各都市に広がった「フラッシュ・モブ」と呼ばれる企画のロンドン版で、パフォーマンス・アートとの解釈もある。日本でも6月に東京渋谷で似たようなイベントが催されたみたいだが、ヨーロッパへのモブ上陸は7月24日のローマが最初で、その後ベルリンに広がり、そしてこの日ロンドンを襲った。

「馬鹿げているけれど、見せ物を作ること意外に目的はない。意外だけどやっていて分かったことは、これが本質的には逸脱的だということが魅力の一つになっているということ。」ニューヨークでこの企画を始めた「ビル」と呼ばれる人物はこのように語っている。

逸脱的な活動と言えば1916年にチューリッヒでヒューゴ・ボール達が始めた「Cabaret Voltaire」を思い出させる。その後ダダと呼ばれるようになった彼等の活動は、戦争という狂気のなか中立国スイスに亡命していたボール達にとって、無意味であり逸脱的な「アンチ・アート」がアーティストとして唯一選択できる表現方法だったと語られている。

現在の状況は多少異なるが、9.11以来西側諸国の都会では微妙な異変が感じられる。第一次世界大戦中のチューリッヒと同じように平和な日々が続いているという妄想を持つこともがきるが、今ニューヨークやロンドンの街中ではイラク帰還兵や中近東出身の人達、さらにはイスラム原理主義者達もが、水平線の向こうの現状がなかったかのように歩道を共にしている。似たような動きは60年代から70年代にも様々な形で見られた。

フラッシュ・モブを企画している者達は政治、又はその他の課題は一切ないと発言している。そして、参加した一人として僕も確かにアジェンダは無かったと断言できる。しかし、笑みを浮かべながらソファーに座っている見知らぬ仲間達を眺めていると、彼方から響きが聞こえてくるような気がしたのは僕だけだったのだろうか?

クマ、2003年8月


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Photo: © Kuma, 2003



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