Kutlug Ataman, Never My Soul, 2001
Video installation
Courtesy the artist and Lehmann Maupin Gallery, New York

去年のドクメンタ11以来、ロンドンの現代アート展を席巻しているドキュメンタリー。「Witness(証言)」と題されたこのグループ展はその代表格で、ドキュメンタリー形式を表現に用いる写真家と映像作家10名が世界から集められました。

ドキュメンタリー形式なんて言うとやや堅苦しく聞こえますが、平たく言ってしまえばテレビドキュメンタリー風にカメラが人や場所、出来事などを捉えた写真や映像。今回の展示ではNYのグラウンド・ゼロからカザフスタンの炭鉱、ベイルートの危険地帯に至るまで世界のあちこちで撮られた映像が、インタビューやレポタージュ形式となって展開しました。なかでも特に目立ったのが、登場人物が自分の身の上話や或る出来事についてモノローグを展開する「証言型」の作品で、カトゥルーグ・アタマン(Kutlug Ataman)やジ・アトラス・グループ(The Atlas Group)など10名中4名がこの形式を採用していました。

この「証言型」を最も極めていたのが、ドクメンタ11で話題を攫ったカトゥルーグ・アタマン(Kutlug Ataman)で、サーペンタイン・ギャラリーでの個展の相乗効果も加わって一際注目を集めていました。映画監督でもある彼の作品は、そのほとんどが、自分の身の上を延々と語る人物を映したインタビュー映像として展開され、編集を最小限に抑えた長時間物として存在します(最長作品は「Semiha B. Unplugged」で約8時間)。今回発表された「Never My Soul」も3時間に渡る長編で、パリで売春婦として働くトルコ人性転換者セイハン・フィラの波乱万丈の人生が、饒舌な語りっぷりで本人の口から語られました。撮影はその大部分がセイハンの部屋で行われ、厳格な親もとを離れパリが放つ自由のなかで女性として生きる彼のボヘミアンな私生活がカメラに捉えられていました。



The Atlas Group, Hostage: The Bachar Tapes (English Version) by Souheil Bachar, 2001
Video
Courtesy The Atlas Group

同じくドクメンタ11で注目を浴びたジ・アトラス・グループ(The Atlas Group)は、レバノンで起きた拉致事件をレポートにまとめた「Hostage: The Bachar Tapes」を発表しました。この作品は、80年代に親イラン派の民兵組織に拉致され十年間身柄を拘束されたレバノン人男性に焦点を当てたもので、当事者であるその男が画面に登場し、監禁時の様子や三ヶ月間共に過ごしたアメリカ人の人質についての証言が繰り広げられました。インタビュー映像に加え、所々に彼の証言をサポートする解説や関連映像が挿入された作品からは、まるでテレビのニュース解説番組を見ているような印象を受けました。レバノンの現代史の記録を使命とするこの団体の作品は、ベイルートの内戦などそのほとんどが歴史的事実を追ったテーマに特徴づけられていますが、実はこの団体はNY在住のレバノン人作家ワリド・ラアドが作った架空の存在、すなわちコンセプチュアルな団体なのです。

証言に重点をおく作品はその他にも紹介され、ベルファースト在住のイギリス人作家フィル・コリンズ(Phil Collins)の映像では証言者はNY同時多発テロを取材したジャーナリストで、彼に酒を飲ませながら撮ったインタビュー映像「Hero」が発表されました。リトアニア出身のアーチュラス・ライラ(Arturas Raila)の映像インスタレーション「Under the Flag」では、インタビュー対象者はリトアニアの国家社会党のリーダー達で、ファシズムの空気が匂う党旗を背に構える彼らが、オーストリアで撮影したライラの映像に対しコメントを述べるシーンが収められていました。

まさに報道に乗っ取られたような展覧会でしたが、でもそこにはストレートに事実を記録したドキュメンタリー作品もあれば、事実に嘘を忍ばせたり全てがお膳立てしたものという「半ドキュメンタリー」や「反ドキュメンタリー」作品もありました。例えば、前出のアタマンのインタビューは「生」のように見えながらもセリフを綴った台本が存在します。ジ・アトラス・グループの「Hostage」に登場する拉致された男性は架空の人物で、役者がセリフを読み上げているに過ぎません。つまり、これらの作品はドキュメンタリー映像のようでいて実はドキュメンタリーに見せかけた(staged)映像で、「ドキュメンタリー=事実の記録」という図式に疑問を投げかけている作品なのです。同じ点を突いた作品はよくありますが、ここまで事実と架空が巧妙に入組んだ作品はそうないように思えました。

売春婦から政治家までが証言し、移民、難民、労働問題、暴動、テロ、中東問題と世界が抱える諸問題が展開された今回の作品群。それらが事実に基づいたドキュメンタリーであろうとなかろうと、そこには現実社会との接点を、そして更には、そこで戦う人々との接点をアートに取り込もうとする作家達の意気込みが窺えます。様々な社会問題に加え主義の対立、テロ、国際紛争など世界に緊張が走る今日を思えば、彼らの関心が自ずとそちらに向いてしまうのがよくわかります。そして、彼らの関心がジャーナリズムとアートの両分野にまたがるドキュメンタリーに集中するのも、ジャーナリズムが持つ社会性とアートの持つ創造性を考えれば、当然の結果と言えるような気がします。

伊東豊子(Toyoko Ito), 2003年5月

"Witness"
03/02/13-03/04/27
The Curve
Barbican Centre


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