Margaret Barron, As it was now 2000 - 2003
15 paintings, Oil on vinyl
© the artist, Courtesy Rodney Tidnam/Tate Photography

意外にも一番印象に残ったのは、貼り紙広告のように電柱に貼られた小さな絵でした。入り口でもらった地図によると、Margaret Barron (マーガレット・バロン)の作品はマントン・ストリート側の出口からすぐの所にあるはずなのに、辺りを3往復歩いても係員に尋ねても一向に見つかりませんでした。ついに、外壁のシミさえもが絵のように見え始めた時、一緒にいた友人が電柱に張られた小さな風景画を発見。しおりサイズのその絵には、丁度その場所から見える風景が描かれていました。絵自体は何て事のない無難なものでしたが、三十分もお預けを食わされたせいか、その風景が妙に脳裏に焼きついてしまいました。

この宝探しのような体験は、テート・ブリテンで先月末から始まった三年に一度の現代アートの祭典「Days Like These」でのこと。ターナーやコンスタブルなど19世紀の画家が中心のここで、英国ポップアートの巨匠リチャード・ハミルトンやターナー賞作家レイチェル・ホワイトリードなど現代作家23名が紹介されています。

「現代アートのスナップショット」とキュレータが語るこの企画は、その言葉に相応しく、絵画、彫刻、写真、映像、ネオン、サウンド、インスタレーションと現代アートの右から左までを網羅したもの。企画の根底を流れる共通テーマがないために、適度な売れ線作品を集めた美術館の常設展でも見ているような感じですが、それにしては結構な上玉が集まっています。



Cornelia Parker , The Distance (a Kiss with string attached) 2003, Marble and String
Courtesy the artist, Ptoto: Tate Photography

正面玄関から館内ホールに入ると、まずレイチェル・ホワイトリードの家の彫刻に迎えられます。ホワイトリードと言えば、'93年にイーストエンドの空き地に忽然と出現し、その3ヶ月後には地元民の反対にあい解体されてしまった作品「House」が有名ですが、今回の作品もそれに負けないくらい巨大な家です。今回の展示品はホワイトリードの自宅兼スタジオの中を模ったものですが、「House」同様凸凹が逆転し、中に入ることのできない石の塊となっています。

重くてごっつい家の先には、滑らかな肌が絡みあうロダンの「Kiss」が置かれています。これはテートご自慢の収蔵品の一つですが、今回はこれに一捻りが加えられ、コーネリア・パーカーによってロープが巻きつけられています。ロダンの彫刻自体を自分の作品の一部にしてしまったパーカーの行為は、これまでに銀食器や管楽器などの既存物を作品に取り入れてきた彼女らしいアプローチと言えます。芸術の一級品にロープを巻きつけてしまうとは伝統芸術を小馬鹿にした行為のようにも受止められますが、その一方で絡みつくロープがカップルの情熱と欲望の表れと解釈もでき、なかなかいい線行っているように感じます。



(床)Jim Lambie, Zobop 1999 - 2003
© the Artist,
Courtesy Sadie Coles HQ, London and The Modern Institute, Glasgow, Photo: Tate Photography
(立体)David Batchelor, The Spectrum of Brick Lane 2003 © the Artist,
Courtesy of Anthony Wilkinson Gallery, London, Photo: Tate Photography

さらに先には、Jim Lambie(ジム・ランビー)の眩暈のしそうな空間が広がっています。ブリジット・ライリーの絵が床じゅうに広がったような彼のインスタレーションは、その華美な視覚効果とは対照的に、ビニールテープを部屋の端から端まで貼っていくという地味な作業の産物。ビニールテープというありふれた物の使用も、ボタンやカチューシャなどの日用品にこだわってきた彼だけあって頷ける選択。さらにここには、ランビーのオップな世界に共鳴するように、David Batchelor(デイヴィッド・バッチェラー)の塔が21世紀版トーテムポールのように聳えています。現代都市が発する色に興味を持つ彼らしく、作品が発する色はすべて都会のネオンを思わせる蛍光色。塔の背後にまわると床にはライトボックスからのケーブルが無数に垂れ、こちらは都会のオフィスの片隅にある機械室のようです。



Ian Davenport , Untitled Poured Lines (Tate Britain) 2003, © the Artist, Photo: Tate Photography


ここまでが今回のハイライトのようですが、展示はさらに右手の特別展覧会場へと続いています。ここには油彩や写真、映像作品など様々な作品が展示されていますが、これまで観てきた作品が途轍もなく圧巻だったため、ここの作品はだいぶ控え目なように感じられました。と言いながらも、Ian Davenport(イアン・ダヴェンポート)の壁に描いたストライプ模様の作品は見ごたえ十分ですし(壁の上部から注射器で絵の具を垂らしたものだそうです)、展覧会のタイトルに採用されたMike Marshall(マイク・マーシャル)の映像「Days Like These」も、庭で水しぶきをあげるスプリンクラーを撮った平凡な題材にしては、とても綺麗で印象的でした。その他には、ここ最近、ロンドンでの露出度が異常に高いKutlug Atamanや、ロンドンベースの日本作家横溝静さんの映像作品もここに展示されています。



Ceal Floyer, Bucket 1999
Bucket, CD, CD player, loudspeaker
Courtesy Lisson Gallery, London, © the artist

意外なところで面白かったのが、Ceil Floyer(シール・フロイヤー)の冗談のようなバケツのインスタレーションでした。バケツの中に置かれたCDプレーヤーからのポタッという音が、水漏れを伝える作品です。古い建物を改築して使っているイギリスでは、パイプの破損などによる水漏れは日常茶飯事のことで、ここの人達にとっては身近なこと。美術と美術でないものを区別するシステムに疑問を投げかけてきた彼女にとっては、水漏れといった日常の出来事までもが作品のアイデアになってしまうようです。

これらの展示室の他にも、美術館の入り口二箇所にはサウンド作品、建物外の公園には彫刻、と見ごたえのある作品はまだまだ続きます。しかし、一作一作の見ごたえが強ければ強いほど感じてしまうのが、展覧会全体を繋ぐテーマの欠落です。所詮スナップショットとして企画された展覧会なので、幅広く寄せ集めた現代アートのアルバムと考えればいいのでしょうが、そう軽く流したとしてもアルバムに載る人と載らない人を決めたその基準が気になってしまいます。何でもOKというのが一つの特徴になっている今の英国の現代アートシーン。今回のスナップショット的選考には、この風潮がそのまま形になったような印象を受けました。

伊東豊子(Toyoko Ito), 2003年3月

"Days Like These"
Tate Triennial Exhibition of Contemporary British Art 2003
030226-030526
Tate Britain, Milbank, London SW1


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