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観る側と作品との距離は、作品を理解し楽しむための鍵、と感じることがよくあります。物理的であれ、心理的であれ、両者の距離が短いほど体験は充実したものとなる、という風に。Goldsmiths College の卒業生5人による「Undertow」展では、この距離を縮めるための工夫が展示と作品の双方でとられていて、とても印象に残りました。

今回5人が選んだ展示場所は、トンネルという意外な場所でした。美術品の展示と言うと、無駄なものを一切取り払ったホワイト・キューブ(White Cube)が定番となっていますが、こういう空間は見る側の目を作品に集中させる利点はあるものの、作品に日常からかけ離れた「高尚さ」を吹き込み、心理的なレベルで鑑賞者を遠ざけてしまうところがあります。この定番に挑むかのように、「Undertow」展では、鉄道のレール下の薄暗いトンネルが展示場所に選ばれていました。むき出しの地面に汚れた煉瓦、電車の轟音と雨漏れのするトンネルに立っているちに、不思議と作品に対する構えが消えていました。

Reiko Akatsuka, Untitled, 2002, (部分)
Mixed Media
Photo:© Kuma, 2002,
   

キャサリン・ヤス展の展示風景:「ポートレート」シリーズから3作

まず入り口横で出くわしたのは、Alexa de Ferrantiさんの古い乗用車を使ったインスタレーション「What to do in a breakdown」でした。近寄って開けられたフロントドアから中を覗き込んでみると、中には夜具やら身の回り品やらが所狭しと置かれ、まるで誰かのねぐらと言った感じに見えます。ボンネット側に回ってみると、エンジンは取除かれていて、ポッカリあいた床には毛布が敷かれています。乗捨て車があってもおかしくない洞窟のような場所にこんな生活感たっぷりの車が置かれていて、見ているうちに自分の行為が「鑑賞」なのか「覗き見」なのかわからなくなってくるような戸惑いを覚えました。それだけリアルだったのです。

 

Alexa de Ferranti,
What to do in a Breakdown, 2002, (部分)

Photo: © Kuma, 2002,

   

展示風景:「Capsule」シリーズ

奥へと進んでいくとKazさんの「Concentricity」が置かれていました。これは床に置いた照明とその前方のスクリーンから構成された作品ですが、照明は展示室のライトにしか、スクリーンは次の部屋との仕切りにしか見えず、最初見つけるのが非常に難解でした。暫く模索したあと、ライトとスクリーンの間に立ってみて初めて、自分の影がスクリーンに投影れていることに気がつき、謎が解けたのです。どうもこの作品は私に自分を探させた挙句、私を自分のなかに取り込んでしまったみたいです。作品の一部になってしまったせいでしょうか、不思議な一体感を感じました。

次の展示室には、Adam Thompsonさんの「3017」が置かれていました。この作品は、表面がベルベットのような黒で覆われた巨大なテーブルで(実は覆っていたものは絵の具の顔料でした)、それ以外は特に印象に残るものは見当たりませんでした。これは後でKazさんに聞いてわかったことですが、実はこのテーブルには黒いミニチュアの旗が沢山立てられていました。しゃがんで台の高さまで目線を下ろしてみると、平らに思えた表面は起伏に富台地のようになっていて、領土争いを思わせるように旗があちこちに立てられていました。高い位置から眺めていてもわからない、視点を同レベルに合わせて初めて理解できる作品でした。

 Kaz, Concentricity, 2002,
(部分)

6 x Flood Light, Screen
Photo: © Kuma, 2002
   

展示風景:「Town」シリーズ

「3017」でみられた二面性はRieko Akatsukaさんの「Untitled」にもみられ、最初は洞窟を照らす行灯のようにしか見えなかったものが、次第に夜空に浮かぶ高層ビル群のように見えてきました(写真冒頭)。高さや幅が違うだけで全く同じデザインのこれらのビル群には、幕張、お台場、横浜みなと未来と、どこに行こうと同じようなビルが並ぶ日本の都会を思い出させるところがあります。さらに興味深いことに、ビルの窓一つ一つがウェブページを表示するスクリーンとなっていて、インターネットが生活の一部である私達の時代を象徴していることが伝わってきます。高層マンションの一室でネットに繋がっている。これはまさにロンドンに来る前の私の生活そのものでした。このような現実との接点から生まれる作品への親近感は、Julie Clarkさんの油彩にもあてはまり、ゴースト画像のようにブレたイメージが私のフラットの映りの悪いテレビを思い出させます。

 

Adam Thompson , 3017, 2002
(部分)

Photo: © Kuma, 2002
   

この展覧会の最も大きく且つユニークな特徴となっていたのが、作品に現実感と日常性を吹き込んだトンネルという空間だったように思えます。Akatsukaさんの話しによると、この場所にたどり着くまで「展示場でない場所」を求めて、皆で何十件も探し回ったということです。ここを見つけた後も、散在してた道具などを撤去したり電気を引いたり壁を作ったりと、色々と準備に手間がかかったようです。つまり、展示空間作りまでがアーティストの仕事となってしまったわけです。キュレーターやギャラリーからの補佐を受けない手作りの展覧会は珍しいものではありませんが、今回の展示には制作サイド(アーティスト)と展示サイド(キュレーター、ギャラリー)が分かれている美術界の主流的構造とは一味違うアピールを感じました。

© Toyoko Ito、2002年3月

Undertow
020208-020310


1-5 Crucifix Lane
London SE1
020 7483 3840

www.thisisundertow.com

地下鉄:London Bridge (Jubilee, Northern Line)
木―日:1200-1800


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Julie Clark, The Punchline, 2002
Oil on canvas, 26cm x 26cm
Photo: © Kuma, 2002

 

 

 

 

 

 

 



 

 

Catherine Yass (キャサリン・ヤス)展,Jerwood Gallery (ジャーウッド・ギャラリー)