Prometheus, 1999 (展示風景)
Multimedia (sculpture, photography and video)
Copyright the Artist
Courtesy Anthony Reynolds Gallery, Whitechapel Art Gallery
Photo: kuma, 2002©

Mark Wallinger(マーク・ウォリンジャー)は、別世界への扉に惹かれているのだろうか。まるでこの現実とパラレルに走る空間があるとでもいうように、彼が生みだすものにはそれが処刑部屋であろうと手術室であろうと、新天地への扉が示されている。

多くの場合、その扉は天国へとつながっているようだ。インスタレーション"Prometheus"では、電気椅子に縛り付けられた男が暗い展示室脇のモニターに映し出されている。これからくる死を哀悼しているのだろうか、ウォリンジャー扮する男はもの悲しい声でシェークスピアの戯曲「テンペスト」からアリエルの詩をずっと歌い続けている。永遠の刑に処されたプロメテウスを象徴的に表しているのだろうか。

暗闇に目がなれてくると、目の前の壁が扉であることに気付く。近寄ってみると扉はゆっくりと開き、白い空間が忽然と現れる。イライラ棒でできた輪が中央に置かれ、その奥の壁には部屋を90度回転したように、ビデオの中の電気椅子が取り付けられている。扉に立つ私は、今、天から電気椅子を見下ろしているのだ。椅子はもぬけの殻だが、鳴り響く金属音が死刑が執行されたことを象徴的に物語っている。死刑囚の体から離脱した魂は、輪をくぐって、この扉へと羽ばたいてきたのだろう。



Prometheus, 1999 (詳細)
Multimedia (sculpture, photography and video)
Copyright the Artist
Courtesy Anthony Reynolds Gallery, Whitechapel Art Gallery
Photo: kuma, 2002©

"The Word in the Desert I"では、電気椅子の男が、19世紀の詩人で「Prometheus Unbound」の著者であるシェリーの墓を訪れている。現世から解放されたプロメテウスが天国へ向かう途中立ち寄ったと言わんばかりに、男は同じ装いで裸足で立っている。奇妙なことに、墓石にはアリエルの詩の続きが刻まれてる。"Prometheus"同様に天から見たシーンを表しているのだろうか、この写真は上下逆様に展示されている。男は足を上に向け、宙に浮いているように見える。このシュールさに墓を食い入るように見る男の姿が加わり、もしや墓の中に飛び込もうとしているのでは、と疑問が浮かぶ。墓なんだから天国へと続いていても不思議はない。

ビデオ"On an Operating Table"では、あちらの世界への通り道は手術室のようだ。手術用のライトが見開かれた目のようにスクリーンに映り、「I, N, T, H, E, B, E,…」と暗号を読み上げる声がする。新約聖書ヨハネの福音書の冒頭、「In the beginning was the word …」を読んでいるのだと後で知ったが、解体された結果、言葉は意味をもたない文字となってしまっている。タイトルが示唆するように、この作品は手術台に横たわる人の目に映った光景と思われる。患者の意識が虚ろであることを示すように、時折映像がボケて見える。彼になった気持ちでそれを見つめていると、眩いライトが死の淵をさまよう私を迎えに来た神の目であるように思えてくる。



Threshold to the Kingdom, 2000 (展示風景)
Projected video installation
Copyright the Artist
Courtesy Anthony Reynolds Gallery, Whitechapel Art Gallery
Photo: kuma, 2002©

これまで天国への通り道を色々とさ迷ってきたが、この流浪の旅もビデオ"Threshhold to the Kingdom"で終わりを迎えるようだ。ロンドンのシティ・エアポートで撮影されたこの作品には、空の無人地帯を通過してきた旅人が、「International Arrivals」と書かれた扉をくぐり入国してくるシーンが収録されている。スクリーンからは、ブリーフケースを下げるビジネスマン、黄色いウィンドブレーカーをまとった警備員、制服姿のスチュワーデスなどと、空港でのごくあたりまえの光景が流れてくる。しかし、展示室を包むゴシック教会でのミサを思わせるような賛美歌の調べが、安堵や喜びの表情をたたえ入場してくる人々を私の脳裏で宗教画の世界へと導く。地獄の辺土(limbo)をさ迷っていた魂が門をくぐり天国へたどり着いたことが伝わってくる。

向こうの世界の存在をほのめかすウォリンジャーだが、彼がその存在を信じているかどうかには疑問がのこる。度重なる別世界への言及には、19世紀のロマン派の詩人や画家たちに通じる超越願望みたいなものが感じられる。しかし、その一方で、空港に象徴される彼の別世界は容赦のない現実で綴られ、私達の逃避願望に水を掛ける。何かすっきりしないところが残るが、曖昧さが残るつかみどころのない作品を作りたいと昔彼が語っていたことを考えると、これで正しいのかもしれないという気がしてくる。同時に、天へと旅立った人々が再び地上に舞戻ってくる"Threshhold ・・"で幕を閉じる展覧会の構成には、曖昧さに方向性を与えようとするキュレータの意志が感じられる。

伊東豊子(Toyoko Ito), 2002年1月

Mark Wallinger
"No Man's Land"
011116-020113

Whitechapel Art Gallery
Whitechapel High Street
London E1 7QX
020 7522 7878
www.whitechapel.org

地下鉄:Aldgate East (Hammersmith & City Line)
火−金:1100-1700
土日:1100-1800

 


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