Ross Sinclair, Fortress Real Life (Peckham) 2001
要塞の一部で、絞首台(写真右)が逆さまに置かれた部屋。
photo: kuma, 2001 ©


South London Gallery (サウス・ロンドン・ギャラリー) に設置された Ross Sinclair (ロス・シンクレア) の 「Fortress Real Life (Peckham)」 は、巨大な建物を調度品ごとそのままギャラリーに押し込んだような作品だ。外から眺めるのではなく、実際に中に入って体験する仕組みだ。ダンボール箱の壁とチップボードの天井できたその要塞には、ベトコンの地下基地を連想させる穴倉が迷路のように配されている。迷路の中央には真っ赤な物見やぐらが設置され、要塞の屋根に貼り付けられた世界各国の旗を見下ろすことが出来る。

この要塞は、1994年以来Sinclairが手掛けてきた「Real Life Project」の一環で、これまでの一連のプロジェクトを寄せ集めて、穴倉ごとにそれらを展示したものだ。各穴倉は過去のプロジェクトの作品とコンセプト―自由国、法、地理、宗教など―でまとめられている。

Sinclairにとってこれらのコンセプトは、彼自身の世界観を構成する要素であり、それらには彼の故郷スコットランドの独特な歴史、思想、文化などを感じ取ることが出来る。また、これらの概念は、極左派的な政治思想を連想させる表現方法をとっているが、その一方で全体的に浸透したアマチュアさが、イデオロギーの空洞化を語っているように見受けられる。

Sinclairの世界観は彼個人の現実「reality」であり、彼の「real life」と言う概念の基盤となっている。しかし、現実とは万人共通ではなく、つかみどころのないものでもある。彼の「Real Life Project」は、この幻の現実の追求、又は、憧れとして理解することが出来る。

ある穴倉のテーブルには左翼系の書物が山積みにされ、横に広げられたキャンプベッドの周りにはカモフラージュネット、石弓やボウガン等が置かれている。一見ゲリラのアジトのように見えるが、ネオンが場違いな印象を与える。先週ジェノバで行われたG-8の会議で、反資本主義活動をしている様々なグループがデモ行進を行った。ある武装活動派のグループが火炎瓶や石弓を使って機動隊と衝突している姿をテレビを見た時、現在でも一部の人々の間ではこれも現実の一つであることを理解できたような感じがした。

この穴倉のネオンには「Hamnavoe Free State」と書かれたサインがかかっている。Hamnavoeとは、スコットランドの北のオークニー諸島にあるStromnessという町のバイキング時代の名称である。大和の国と同じく、ほぼ伝説の中の地名であり、同じく一種の理想へ対しての憧れを感じさせる呼び名でもある。ほぼ忘れられた地名が与えられた架空のFree Stateは、Sinclairの自国の歴史と文化に対するノスタルジアのように感じられなくもない。英国からの独立紛争で綴られるスコットランドの歴史が、彼のFree Stateがゲリラアジトを真似たものであるのと同時に、彼にとっては現実である彼の故郷の歴史への郷愁であることがわかってくる。



Ross Sinclair, Fortress Real Life (Peckham) 2001
要塞の中央に置かれた物見やぐら。
photo: kuma, 2001 ©


リアルライフという感覚がいかに主観的なものかということは、迷路の中心に配された物見やぐらに登ると更によくわかる。真っ赤な階段を十数段上りきってみると、そこには世界中の国旗で囲まれた壁一つ無い大空間が広がっている。白と黒で塗りつぶされた国旗からは各国のアイデンティティが消え、衛星から見た地球のように一つにまとまって感じられる。ゲリラアジト、処刑所、教会と幾つかの穴倉を体験した後にここに立ってみると、それらが世界のごく一部でしかなかったことが感じられる。

国や教会などの既成の枠組みに焦点を当てるSinclairの作品は、それらの世界を体験するうちに、その枠組み自体がリアルライフであるかのような錯覚に陥りそうになる。しかし、物見やぐらがこのプロジェクトの要だということを考えると、鍵はこれらの枠組みの外にあるような気がする。そこから一歩出ることによってリアルライフが見えてくる、ということなのかもしれない。日本という枠組みを出ることによって物事の見方が変わった私には、これはかなり真実味のあるメッセージであるように感じられる。

伊東豊子(Toyoko Ito), 2001年7月

Ross Sinclair
"Fortress Real Life (Peckham)"
010531-010708

South London Gallery
65 Peckham Road
London SE5 8UH
020 7703 6120
www.southlondongallery.org

Elephant & Castle (Northern Line)からバス171又は12
Oval (Victoria Line)からバス36
火・水・金1100-1800、木1100-1900
土日1400-1800


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