Boris Mikhailov プライズ受賞!

ウクライナの写真家Boris Mikhailovの受賞が 3月1日にThe Photographer's Galleryで発表された。賞金15000ポンドを獲得し、Richard Billingham (1997)、Andreas Gursky (1998)、Rineke Dijkstra (1999)、Anna Gaskell (2000), に次ぐ5人目の受賞者となった。

敗者は手ぶらというのがお決まりのこの賞だが、異例なことに今年は残りの4人Roni Horn、、Hellen van Meene、Jem Southam、Hannah Starkey にも賞金1500ポンドづつが贈られた。確かにどの作品も優れものなだけに、うなずける対応だ。

詳しいレポートは
www.photonet.org.uk で。

Citibank Private Bank Photography Prizeのノミネート者5人の作品がPhotographer's Galleryで展示されている。まだ5回めと歴史の浅い賞だが、Richard Billingham、Andreas Gursky、Rineke Dijkstraといった過去の受賞者の錚錚たる名前は注目に十分値する。今回は、第一回目(1997)のノミネート者でJerwood galleryで現在個展開催中のCatherine Yassがアーティスト審査員として加わっている。

その雰囲気とフォルムがどことなくEdward Hopperを思わせるHannah Starkeyの写真は、決まって若い女の子達をフォーカスしている。その場所も化粧室やカフェ、ビデオショップと彼女達にお馴染みの場所だ。この彼女達、一見盗み撮りされたと言わんばかりに自然に見えるが、実は演技をしている女優だそうだ。この創り上げられたシーンがスナップ写真風に見えるとは皮肉に聞こえるが、この完璧なまでに「作られた自然さ」は、プロの女優を使っているからこそ出せるものなのかもしれない。カメラの前で構えてしまう素人では、こうはいかないのかもしれない。

女の子達の「女」っぽく見えたいという願望を浮き彫りにするHellen van Meeneは、その逆を行く。ごく普通の少女達が主体的に取るポーズを通じて、彼女達の心理を伝えようとする。肌を大きく出し、子犬のように首を傾げる少女。やたらと周りの物に寄り掛かり、アンニュイな視線を投げかける少女。と、そこには「可愛い女」を目指す彼女たちの背伸びが伺える。しかし、その努力とは対照的に、幼い体に強いたアダルトなポーズには無理が見られ、残念ながら母親の口紅をこっそりと塗った子供のように見えてしまう。必ずしも意識的ではないにせよ、アイドル歌手の写真や雑誌のグラビアをモデルとしている彼女達を見ていると、写真メディアが作り上げた「可愛いい女」像というものの影響力を感じずにはいられない。

妻のヌード写真をKGBに発見されたことによって職を追われ、写真家となったBoris Mikhailov。彼の作品には、故郷ウクライナの人々の、ソビエト連邦崩壊後の悲惨な姿が描かれている。被写体はみな死に片足をつっこんだ浮浪者たちばかりだ。凍傷で膨らんだ足や血のついた顔をカメラに向け、精一杯ポーズしている。でもこれだけなら報道写真と大して変わらないのだが、問題は彼らがみな揃いも揃って派手に肌を曝け出していることだ。いかにも隣の小母さんっぽい中年女性が、雪のなか真っ赤に凍える手でズボンを下ろしている。控えめそうな老女の服の隙間から、垂れた胸がひっそりと覗いている。みな僅かなお金と交換に、服を下ろすことを同意した人たちだ。路頭に迷う浮浪者から服を剥ぎ取る彼のアプローチ。それには疑問を感じなくもないが、それと同時に、そんな屈辱的な要求を受け入れるほど惨めな状況に追い込まれた人々の姿に心が打たれる。

イギリスというよりは火星を思わせるJem Southamの作品には、イギリス南部の海岸沿いの崖が、まるで地質学調査の記録写真風に撮られている。彼の写真はジャンル的としては、壮大な自然をテーマとする風景写真の流れを汲むものだ。だが、10年にも渡り同じ場所を訪れては大地の風化具合を記録しつづける彼のアプローチには、表現メディアというよりは記録メディアとしての写真への執着心がうかがえる。その一方で、NASAの映像を思わせるイメージに、記録だけには収まらない創造の世界が含まれていることが伝わってくる。

Roni Hornのテムズ川を写した写真は普通の風景写真とは一味違う。黄土色やらネズミ色に濁った水面の下には、論文の脚注のように1番、2番と番号が振られ、これに「The Thames is a drain(テムズ川は排水溝だ)」「Where is the Torso? (胴体はどこ?)」といった意味深な文面が続いている。進むうちに文面はさらに不気味さを強め、殺人、死体、切断、死体遺棄といった言葉があちこちに現れ始める。沢山の人がこの濁った川に葬られてきた、と言うのがどうやらメッセージのようだ。このメッセージをかみ締めた後にもう一度写真に目を戻すと、泥水のように濁った川はどこか墓場のように見えなくもない。しかし来館者達をみていると、米粒みたいな文字をじっと追っている人達は少ないようで、どこまでこのメッセージが伝わっているかは疑問だ。

伊東豊子(Toyoko Ito)、2001年3月


ノミネート者名:
Roni Horn (USA),
Hellen van Meene (The Netherlands),
Boris Mikhailov (Ukraine),
Jem Southam (UK)
Hannah Starkey (UK)


2004年のレポートはこちら
2003年のレポートはこちら
2002年のレポートはこちら

Hannah Starkey: Untitled, August 1999

Hannah Starkey
Untitled, August 1999
© Maureen Paley/Interim Art.

Courtesy: The Photographer's Gallery
Hellen van Meene: Untitled, 1999

Hellen van Meene
Untitled, 1999
Courtesy: The Photographer's Gallery

Jem Southam: Whale Chine, 2000

Jem Southam
Whale Chine, 2000
Courtesy: The Photographer's Gallery


Boris Mikhailov: Case History, 1999

Boris Mikhailov
Case Hitory, 1999

Courtesy: The Photographer's Gallery

The Photographers' Gallery

5 & 8 Great Newport Street
London WC2H 7HY
020 7831 1772
www.photonet.org.uk

地下鉄:Leicester Square (Piccadilly, Northern Line)

月―土:1100 -1800 日: 1200 - 1800

Roni Horn: Still Water, 1999

Roni Horn
Still Water (The River Thames for Example), 1999
© Matthew Marks Gallery, New York.
Courtesy: The Photographer's Gallery
The Citybank Private Bank Photography Prize 2001
UPDATE: 受賞結果はこちら