イギリスの若手アーティスト、Martin Creed(マーティン・クリード) と Simon Starling(サイモン・スターリング)を紹介する展示会が昨年11月から今年1月14にかけてカムデン・アーツ・センターで開かれた。

Martin Creed (マーティン・クリード)

昨年、テート・ブリテンの新古典様式の正面玄関に、「the whole world + the work = the whole world」と綴られたマーティン・クリードのネオンが展示された。これはクリードのアート理念を要約する公式だとのこと。今回のショーでは、クリードの過去12年に渡る作品18点が、3部屋を使って展示されていた。

最初の展示室に入ると、真正面からドラムマシーンの音に迎えられると同時に (Work No.177, 2000)、床に並べられた39台のメトロノームが右耳を直撃する (Work No.189, 1995-97)。ぐるりと辺りを見回したところ、月並みな白い壁には30センチ四方くらいの黄色いアクリル画 (Work No. 3, 1986) が一枚掛かっているだけで、他には特に見当たらない。

だが引き続き展示室の中を歩いていくと、何箇所かに作品らしきものが忍ばされているのに気付く。メトロノームの後ろの壁には、A4サイズの白いの紙(Work No. 159)。別の壁には、直径1センチ位に丸められたブルータックが(Work No. 79, 1997) 、マスキングテープを重ねて作った小さな塊(Work No. 74, 1997)と並べて貼られている。また、床のある場所には、黒い紙が小さく刻まれた状態で置かれている (Work No. 140, 1995)。次第にそれまで気付かなかった物、例えば時々消える天井のライト (Work No. 127, 1995) 、前出のドラムマシーンに接続されたスピーカの上に置かれた紙屑 (Work No. 121) までもが、実は、作品として存在しているのだと分かってくる。

隣りの展示室も同じノリだ。今回の展示用に作られた自動開閉するドア (Work No. 127, 1995) は、「ギィー」という音さえしなければ、見落としてしまいそうなくらい違和感がない。出口を塞ぐように置かれた巨大な木のテーブル(Work No. 142, 1996-2000) も、そこにあって当たり前という感じだ。しかし、この部屋には違うものが一つある。薄暗い中でボワーンと光っている「Things」と綴られた黄色いネオン (Work No.253, 2000)。今までの作品とは違って、このネオンは自らメッセージを放っている。今まで見てきたレディーメードがアートでなく「物」であると言いたいのだろうか?芸術性を否定するかのような言葉と、ネオンというキッチュなメディアが、やはり同じくネオンで記されたテート・ブリテンを飾ったクリードの否定的な公式を思い起させる。

Simon Starling (サイモン・スターリング)

世の中における物質的な増減が最小限に抑えられている点で、このサイモン・スターリングもクリードと似ていると言えるかも知れない。

今回発表されたビデオ作品「Rescured Rhododendrons」は、18世紀にスウェーデン人植物学者がスコットランドにもたらした植物「ロードデンドロン」がこのほど除草されることになり、この話を聞きつけたスターリングがそれを救済し、故郷へと戻すことを思いついた事に始まる。展示された映像インスタレーションには、スウェーデン製の赤いボルボに積まれた植物達が、先祖の草らが旅した道のりを逆に辿り、スペインの南端まで届けられる行程が記録されている。その映像は旅の先々で全く同じ構図で撮られたもので、パッと見、静止画像のように見えるが、背景だけがゆっくりとモーフするように変わっていき、ロケーションが変わっていっていることを仄めかす。最後のシーンでは、画像の色がフォトショップの反対数値演算ように変色しなかなかユーモラス。

もう一つの作品「Burn Time」は、もっとずっと複雑だ。このプロジェクトの発端は、バウハウスのデザイナー、ヴィルヘルム・ヴァーゲンフェルト(Wilhelm Wagenfeld)が30年代にデザインしたガラス製の“卵ゆで器”と作家との出会いに始まる。展示室に入ると、古典様式のファサードを備える3x2メートル位のひどく汚れた模型が、中央に置かれている。彼の手によるもので、ブレーメンにあるヴァーゲンフェルトの作品が収蔵されている美術館の建物を模したものだという。でもとは言っても、単なるレプリカではなく、実はスコットランドの農場で使われていた鶏小屋なのだ。中を覗くと、媚びれついた土汚れから本当に使われていたことが一目でわかる。鶏小屋は壁の一部が取り除かれ、そこに使われていた板が部屋の奥に、卵の殻とガラスの卵ゆで器と一緒に置かれている。鶏小屋のすぐ後ろには、カムデン・アーツ・センターの外壁を一部壊し、そのレンガで造られたストーブが置かれ、鶏小屋から剥ぎ取られた木がそこにくべられ、卵を茹でるための鍋がストーブに置かれている。どうやらここで卵を茹でていたようだ。

どうやらこの作品では、人と物が時空を越えた連動性を持っていて、一種のエネルギーの保存となっているようだ。ヴァーゲンフェルトの卵ゆで器、ヴァーゲンフェルトの作品が収蔵されているブレーメンの美術館、その美術館をモデルとしたスターリングの鶏小屋。その鶏小屋はカムデン・アーツ・センターに展示され、同センターの煉瓦で造られたストーブには鶏小屋から剥ぎ取った板がくべられ、そこで卵が茹でられる。この時空を超越した流れのなかで、アーティストの努力の産物である鶏小屋は、卵をゆでるために、最終的には煙と床に落ちた欠片と化する。全くタイプの異なる作品のようでいてエネルギーの無駄遣いを徹底して避ける非生産的なところが、マーティン クリードの作品とかなり似ているかもしれない。

トコ、2001年1月


Martin Creed
Simon Starling
001110-010114
入場無料

Camden Arts Centre
Arkwright Road, London NW3 6DG
020 7435 2643/5224
www.camdenartscentre.org

開館時間:火水木1100-1900
金土日 1100-1730


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